概要
土壌伝播寄生虫症は、腸の中(腸管内)に寄生する目に見える細長い腹のムシ(寄生虫)の感染症です。主に回虫(かいちゅう)、鞭虫(べんちゅう)、鉤虫(こうちゅう)が警戒すべき重要な寄生虫で、衛生環境の悪い熱帯・亜熱帯・温帯地域で、人糞中の虫卵を摂食したり、土壌中で感染型になった幼虫が皮膚を貫いて入ったりすることでヒトからヒトへと広がる慢性疾患です。これらの感染症は腸にダメージをもたらし、特に子どもにおける身体的・認知的な発達を妨げることで大きな障がいを引き起こすことがあります。
主な症状に、腹痛、下痢、倦怠感、食欲不振などがみられ、重症になると、いずれも、大量の寄生虫が腸内に蓄積し腸管を塞いだり、便の中に肉眼で確認できる数で排出されたり、肺に移動して呼吸障害を起こすこともあります。特に鉤虫症では腸管からの吸血によって慢性の極度な貧血をきたしますが、こうした貧血は、思春期の女児や妊娠可能年齢の女性にとって特に危険で生命を脅かすこともあります。
感染経路
土壌伝播寄生虫症は、3種類の寄生虫(回虫・鞭虫・鉤虫)によって引き起こされます。これらは中間宿主となる昆虫やカタツムリなどの媒介生物を介さず、排泄物で汚染された土壌中の卵や幼虫を通じて、人が直接感染する寄生虫です。適切なトイレがない環境では、感染者の便に含まれる虫卵が家や畑、遊び場の周囲の土壌を汚染します。回虫や鞭虫の卵は土の中で数週間かけて成熟し、野菜の表面や水源、遊んでいる子どもの手などに付着します。人が洗っていない野菜を食べたり、汚染された水を飲んだり、汚れた手のまま口を触ったりすることで卵を飲み込み、腸内で孵化して成虫へと成長します。
鉤虫は土の中で卵が孵化し幼虫となり、裸足の足裏などの皮膚から血流に入り込みます。その後、体内を移動して腸に達し、数年にもわたって生存しながら毎日何千もの卵を産み続け、さらに土壌の汚染サイクルが繰り返されます。
疾病による負荷
流行地域
- 世界で最も一般的な感染症の一つで、かつては日本国内でもまん延していました
- サハラ以南アフリカ、南アジア・東南アジア、中国、ラテンアメリカ、カリブ海地域を中心に100カ国以上での流行が見られます
患者数・感染者数
- 約15億人が少なくとも1種類の土壌伝播寄生虫に感染しています
- そのうち治療が必要なリスク下にある小児(就学前および学童期)は8億7,000万人超とされます
- 3種類のうち、それぞれ数億人の感染者が存在しますが、回虫症が最も多く見られます
予防と治療
土壌伝播寄生虫症は、感染リスクの高い人々に対してアルベンダゾールやメベンダゾールといった安全で安価な薬剤を定期的に投与することで治療できます。 世界保健機関(WHO)は感染率が20%を超える地域では年1回、50%を超える地域では年2回の全住民を対象にした集団治療を実施することを推奨しています。これらの薬剤は、体内にいる虫を駆除し虫卵による土壌の汚染を減らしますが、生活環境が改善されないかぎり、集団治療を中止すれば、じきに流行はもとに戻ってしまいます。
長期的な予防では、各種啓発活動により住民の意識を高めるとともに、適切なトイレの整備、安全な飲料水の確保、手洗いに関する教育、そして鉤虫感染を防ぐために靴を履く習慣の徹底などが必要です。駆虫プログラムは学校と連携して実施され、多数の感染を防ぎ、子どもたちを栄養不良や発達の遅れから守っています。しかし、完全な排除を達成するためには、水・衛生・衛生習慣に関するインフラの継続的な改善が求められます。
© Shota Koyano
糞便検体を確認し、現場で土壌伝播寄生虫症の診断をしている様子
Alaine Kathryn Knipes; Parasitic Disease Branch (DPDx); Division of Parasitic Diseases and Malaria / CDC Public Health Image Library
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。