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熱帯病入門
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ノーマ(壊死性潰瘍性口内炎、水癌)

キーワード 貧困・衛生環境 子どもに高いリスク どうやってうつる? 細菌 その他

概要

ノーマは、主に極度の貧困状態にある2~6歳の幼児が発症し、口や顔の組織を破壊する重篤な細菌感染症です。初期は歯ぐきの炎症として始まり、早期に治療しなければ、数日のうちに顔の組織や骨を急速に破壊していきます。この病気は、重度の栄養不良、不十分な口腔衛生、感染症による免疫力の低下、そして十分な医療を受けられない環境と深く関わっています。ノーマは直接の人から人への感染はしませんが、子どもの体の抵抗力が弱まったときに、口腔内の常在細菌がきっかけとなり感染を起こして発症します。

治療を受けなければ、感染から2週間以内に約90%の子どもが死亡する可能性があります。生き延びた場合でも、重度の顔の変形に加え、食べる・話す・呼吸することが困難になることがあります。しかし、早期に発見できれば、基本的な抗生物質の投与、十分な栄養補給、そして口腔衛生の改善によって病気の進行を止めることができます。

感染経路

ノーマは直接の人から人への感染はしませんが、普段から口の中にいる複数の細菌が原因で起こる多因子性の感染症で、体の抵抗力が落ちたときに感染を起こす病気です。子どもが重度の栄養不良に陥ると免疫システムが弱まり、これらの細菌を抑えきれなくなります。その結果、細菌が増殖して組織に侵入し、感染を引き起こします。

ノーマは多くの場合、子どもがはしか(麻しん)、マラリア、下痢など、免疫力をさらに低下させる感染症にかかった直後に発症しやすくなることが多く報告されています。不十分な口腔衛生によって、歯や歯ぐきに細菌がたまりやすくなることも発症の一因です。ノーマは通常、痛みを伴う歯ぐきの出血から始まります。初期段階で治療しなければ、感染は数日から1~2週間のうちに急速に広がり、頬、あご、唇、鼻などの軟組織や骨を破壊し、顔に目に見えるほどの大きな穴が残ることがあります。

疾病による負荷

流行地域

  • ノーマは主にサハラ以南のアフリカで発生し、特にモーリタニアからエチオピアにかけて広がる「ノーマ・ベルト」と呼ばれる地域で多く見られます。また、アジア、中南米、中東の一部地域でも症例が報告されています
  • ナイジェリアは、報告されている症例数が最も多い国です
  • 年間約3〜4万件の新規症例が発生していると推定されていますが、実際の患者数は報告漏れによりさらに多いと考えられます
  • この病気はかつてヨーロッパや北米でも一般的に見られましたが、20世紀前半〜中期にかけての生活環境の改善によってほぼ見られなくなりました

患者数・感染者数

  • 症例の約75%は2~6歳の子どもに発生し、稀に年長児や免疫力の低下した成人にも見られます
  • 治療を受けられない場合、子どもの約90%が数日から数週間のうちに敗血症、栄養失調、または肺炎によって死亡します
  • 早期の治療により、多くの報告で致死率は10%未満にまで低下します
  • この病気は特に、医療へのアクセスがない僻地の農村部で暮らす子どもに多く見られ、一部の報告では女の子にやや多い傾向が見られます

予防と治療

ノーマは、歯ぐきの炎症からわずか数日で命に関わるほどの組織破壊へと進行するため、早期発見が極めて重要です。初期段階の治療には、抗生物質(アモキシシリンやメトロニダゾール)、クロルヘキシジン含有のうがい薬や食塩水による口腔の洗浄、過酸化水素による創傷の洗浄、そして高たんぱく質の栄養補給が含まれます。これらの基本的な治療だけで、病気の進行を止め、死亡を防ぐことができます。

進行した段階では、アンピシリンやゲンタマイシンを含むより強力な抗生物質の併用に加え、ビタミンAや水分補給、体内の水分と塩分などのバランスを整える治療が必要になります。また、抗菌作用を目的として、ハチミツを塗ったガーゼを傷にあてる湿布が用いられることもあります。生存した患者の多くは、食事、発話、あごの動きの機能を回復させるために広範な再建手術や理学療法を必要とします。これらの手術は通常、傷跡(瘢痕)が安定するのを待つため、およそ1年程度経過した後に行われます。

予防には、病気の根本的な原因への対策が重要です。具体的には、子どもの栄養状態の改善、麻しん(はしか)ワクチンの接種の徹底、口腔衛生の促進、安全な水と衛生環境の整備、そして早期発見体制の強化が求められます。また、栄養失調の子どもを対象とした給食・栄養支援プログラムは、ノーマの早期発見のためのスクリーニングの場としても理想的です。さらに、地域での啓発活動は、病気に対する偏見を減らすとともに、子どもに歯ぐきの炎症が見られたときに、すぐ医療機関を受診する行動を促すうえで重要です。

注:日本では「水癌」(壊死性潰瘍性口内炎)として知られています。

ノーマ(壊死性潰瘍性口内炎、水癌)

© Shota Koyano

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初期段階の壊死性歯肉炎の症例(HIV陽性患者)

Fig. 1 from Khammissa, R.A.G., Lemmer, J. & Feller, L. "Noma staging: a review", Tropical Medicine and Health, 50, 40 (2022). /  CC BY 4.0

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栄養失調の貧困小児における重篤なノーマの症例

Fig. 4a from Khammissa, R.A.G., Lemmer, J. & Feller, L. "Noma staging: a review", Tropical Medicine and Health, 50, 40 (2022). /  CC BY 4.0 (Cropped from original Fig. 4)

※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。

監修: 長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授
プラネタリーヘルス学環 学環長 平山謙二教授

※ 本ページは、専門性を持たない読者に向けて作成された内容です。
顧みられない熱帯病(NTDs)に関する推計値やデータは情報源によって異なる場合があり、最新のデータが得られ次第、変更される可能性があります。最終確認:2026年5月