概要
ハンセン病は、らい菌という細菌による慢性感染症で、皮膚・末梢神経・眼・気道に影響を及ぼします。病気は非常にゆっくりと進行し、感染から症状が現れるまで通常は約5年かかりますが、さらに長く潜伏することもあります。初期症状としては、周囲の皮膚より色が薄い、あるいは濃い斑点(皮膚病変)が現れ、その部分の感覚が低下します。神経が損傷されることで、患部の痛みを感じにくくなり、その結果、気づかないまま、けがや感染症の進行につながることもあります。
早期治療が行われない場合、手足や顔の一部の変形や機能障害、筋力低下、視力障害・失明などの永続的な障がいを引き起こす可能性があります。その一方で、ハンセン病は一般的に恐れられているイメージとは異なり、感染力がそれほど強い病気ではなく、適切な治療によって完全な治癒が可能で、早期治療により障がいを予防できます。それにもかかわらず、ハンセン病にかかった人々は今もなお、深刻な偏見や差別に直面することが少なくありません。
感染経路
ハンセン病は、治療を受けていない感染者の鼻や口から出る飛沫を、長期間にわたって密接な接触の中で吸入することによって広がります。感染した人の咳やくしゃみにより、細菌を含む飛沫が放出されます。ただし、握手やハグ、食事を共にするなどの日常的な接触によって感染することはありません。
また、ハンセン病は感染力がさほど強くないため、多くの人は感染者と接触しても発症をしません。最も感染リスクが高いのは、治療を受けていない患者と長期間密接して生活している家族や同居者です。一度治療を開始すると、その人から病気が感染するリスクがなくなり、家族や友人とも通常どおり生活することができます。
疾病による負荷
流行地域
- 120か国以上で報告があり、世界の新規症例の約8割をインド、ブラジル、インドネシアの3カ国が占めています
- 2024年時点で世界の患者数のおよそ4割がインドに集中しています
- ブラジルはアメリカ地域の症例の大半を占め、世界で2番目に患者数が多い国です
- 2024年時点で55か国において新規症例数が「ゼロ」と報告され、117か国が1000件未満と報告されています
患者数・感染者数
- 年間約17万人から18万人前後の新規患者が世界で報告されています
- 1980年代以降、1,600万人以上が治療により完治しています
- 現在も推定300万~400万人が、ハンセン病による障がいを抱えて生活しているとされます (参照: Towards zero leprosy. Global leprosy (Hansen's Disease) strategy 2021-2030 )
- 新規患者の約20人に1人は、診断時にすでに目に見える障がいがあり、未診断・治療遅延の問題と、早期発見・早期治療の重要性を示しています
予防と治療
ハンセン病は、多剤併用療法(MDT: multi-drug therapy)によって治療可能な病気です。MDTでは、「ダプソン」、「リファンピシン」、「クロファジミン」という3種類の薬を組み合わせて用います。症状が軽い場合は6ヶ月、進行した症状の場合は12ヶ月程度の治療が必要です。
1995年以降、世界保健機関(WHO)は日本財団とノバルティス社の支援により、世界中の患者にMDTを無償で提供してきました。ハンセン病は早期に治療を開始することで、障がいの発生を防ぐことができます。また、治療が始まると患者は速やかに感染性が失われ、通常どおりの生活を続けることができます。さらにWHOは、感染予防のため、診断された患者の濃厚接触者に対してリファンピシンを単回投与することを推奨しています。結核の予防に用いられるBCGワクチンは、ハンセン病に対しても一定の予防効果を持つ可能性がありますが、ハンセン病を特異的に予防するワクチンは現在存在しません。
予防の中心は、患者を早期発見して治療につなげること、そして人々が速やかに医療機関を受診できるように偏見や差別を減らすことに重点が置かれています。啓発活動を通じて、ハンセン病は感染力の強い病気ではなく、日常的な接触では拡散しないこと、そして完全治療が可能であることを地域社会に理解してもらうことが重要です。
© Shota Koyano
ハンセン病の患者の足
Shutterstitch
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。