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熱帯病入門
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シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)

キーワード 気候変動 貧困・衛生環境 どうやってうつる? 寄生虫 昆虫

概要

シャーガス病はトリパノソーマ原虫という寄生虫による感染症で、流行地では一般的に感染した昆虫の糞との接触を通じて広がります。主に中南米で流行しており、放置すると命にかかわることもある疾患です。多くの場合、感染は子どもの頃に起こります。その後数年から数十年もの間、症状がほとんどないまま経過することもあるため「沈黙の病気」とも呼ばれています。

感染後最初の数週間から数か月にあたる急性期に重症化することはまれで、大半は軽症状かまたは無症状です。その後ほとんどは慢性期に移行し、慢性期の患者のおよそ20〜30%に心不全や不整脈などの重い心疾患が、約10%に消化器の合併症が起こります。

シャーガス病ではこのような慢性期の合併症が、重い障がいや働き盛りの突然死の増加や労働能力の低下を招き、流行地域では貧困の連鎖を強める要因ともなっています。無症候の早期に診断して抗原虫薬治療を行うことで、進行や合併症を減らすことができます。

感染経路

シャーガス病を運ぶのは、サシガメ(別名:kissing bugs)と呼ばれる吸血性の昆虫です。サシガメは日中、農村部の家屋の壁や屋根のすき間に潜み、夜になると出てきて、人や動物が寝ているときに吸血します。吸血した後、サシガメは皮膚の上に寄生虫を含んだ糞を残します。強いかゆみで刺された箇所を掻くと、糞の中の原虫が皮膚のひっかき傷やまぶたや口の粘膜を通して体内へ侵入します。

さらに、この病気はサシガメに汚染された食べ物や飲み物(特に非加熱フレッシュジュースなど)による経口感染、妊娠中の母子感染、輸血や臓器移植、研究室での事故などを介しても広がります。100種を超える哺乳類が、この寄生虫の保有宿主となり得ることが知られています。

疾病による負荷

流行地域

  • 北米から中南米の約20か国で広く流行しています
  • 移住により、米国・カナダ・ヨーロッパ・日本・オーストラリア・西太平洋地域・アフリカの一部など、世界44か国で症例が報告されています
  • 主として住宅環境の悪い農村部で発生する感染症です

患者数・感染者数

  • 世界で推定600万〜700万人が感染しています
  • およそ7,500万人が感染リスク下にある環境に居住しています
  • 3万〜4万件の新規症例と、約1万2,000人の死亡が毎年発生しています

予防と治療

シャーガス病の治療には、ベンズニダゾールとニフルチモックスの2種類の薬が用いられます。感染後できるだけ早く治療を開始すれば治癒が期待できますが、感染期間が長くなるほど効果は低下します。治療はすべての新規感染者、18歳までのすべての子ども、心疾患のない50歳以下の成人に推奨されています。両薬とも、皮疹、胃腸障害、神経症状などの副作用が頻繁にみられ、患者の15〜40%が治療を中断してしまう原因となっています。

予防の中心となるのは媒介昆虫を減らすための殺虫剤散布で、複数国で殺虫剤散布によって感染連鎖の遮断に成功しています。その他の対策として、住宅環境の改善、殺虫剤処理済みのベッドネットの使用、非加熱ジュースやよく洗っていない農産物の摂取を避けること、輸血や臓器提供のスクリーニング、妊婦や新生児の検査などが挙げられます。ワクチンはまだ存在しません。

シャーガス病(アメリカトリパノソーマ症)

© Shota Koyano

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サシガメの成長段階を見せたサンプル

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ボリビア農村部の典型的な土壁家屋

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シャーガス病を患っているパナマ出身の子ども

CDC Public Health Image Library

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サシガメの幼虫

Zane Holditch; Northern Arizona University; Department of Biological Sciences /  CDC Public Health Image Library

※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。

監修: 長崎大学 熱帯医学・グローバルヘルス研究科 教授
プラネタリーヘルス学環 学環長 平山謙二教授

※ 本ページは、専門性を持たない読者に向けて作成された内容です。
顧みられない熱帯病(NTDs)に関する推計値やデータは情報源によって異なる場合があり、最新のデータが得られ次第、変更される可能性があります。最終確認:2026年5月