概要
リンパ系フィラリア症は、熱帯・亜熱帯地域で蚊によって広がる寄生虫感染症です。感染すると寄生部位であるリンパ管を拡張や変形させ、リンパ液のうっ滞などを引き起こします。流行地では多くの人が幼少期に感染しますが、無症状の期間が長く、重い症状が現れるまでに数年、場合によっては数十年かかることもあります。
治療を受けないままでいると、リンパ流のうっ滞が進行し、手足や乳房、生殖器が著しく腫れ上がり、いわゆる象皮病とか陰嚢水腫と呼ばれる永久的な障がいを引き起こします。患者は、慢性的な痛みや、繰り返す感染、歩行などの動作のしづらさに加え、強い社会的偏見や差別にさらされることで、就労や就学が困難になります。さらに、外見の変形だけではなく、リンパ系や腎臓への隠れた損傷がみられることもあり、時間とともに健康状態と生活の質が徐々に損なわれていってしまいます。
感染経路
リンパ系フィラリア症は、地域によって異なる種類の蚊によって媒介されます。感染サイクルは、蚊が感染者を刺して血液中のごく小さなフィラリア幼虫(ミクロフィラリア)を吸い取るところから始まります。幼虫は蚊の体内で約2週間かけて発育し、その後、蚊が別の人を刺した際に体内へと侵入します。
体内に入った幼虫は骨盤内のリンパの網目(リンパ叢)などで成虫へと成長し、6〜8年ほど生存し、その間に数万匹もの新たな幼虫を産み出し続け、繰り返しリンパ系を傷つけることで慢性の炎症や細菌感染を引き起こします。
疾病による負荷
流行地域
- 世界70カ国以上でリンパ系フィラリア症が報告されています
- 依然として35カ国以上で予防的治療プログラムが必要とされています
- サハラ以南アフリカが世界全体の疾病負荷の約80%を占めています
- その他の影響地域は、南アジア、東南アジア、太平洋諸島、カリブ海地域、南米などです
患者数・感染者数
- 6億5,000万人以上が、治療を必要とする流行地域に居住しています
- 現在の感染者数は推定約4,000万人とされます
予防と治療
リンパ系フィラリア症は、世界保健機関(WHO)の根絶プログラムを通じて提供されているアルベンダゾール(Alb)・ジエチルカルバマジン(DEC)・イベルメクチンなどの集団投薬により予防することができます。2000年以降、これらの薬による治療は延べ100億人分以上実施(2023年時点)されています。3剤併用療法では、従来5~6年かかっていた感染の連鎖を2〜4年に短縮可能とされていますが、再感染を防ぐためには、蚊の防除、衛生環境の改善、きれいな水へのアクセスが不可欠です。
すでに手足の腫れが見られる人に対しては、毎日の洗浄、腫れている手足を少し高く上げておくこと、傷口を清潔に保ち適切に手当てすることで痛みを伴う急性発作を減らし、早期の腫れであれば改善も可能です。外科手術が有効な場合もありますが、実際に手術を受けられる人は限られています。
これまでに約25カ国以上がリンパ系フィラリア症の排除を達成(2025年時点)しています。
© Shota Koyano
リンパ系フィラリア症の症例写真
Rie Yotsu / Clover Health International
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。