概要
食物媒介吸虫類感染症は、「吸虫」と呼ばれる扁形動物(平べったい寄生虫)によって引き起こされる寄生虫感染症です。扁形動物の種によってヒトの体内での寄生部位が異なり、特に注意すべきものとしては、肝臓あるいは胆管に寄生する肝吸虫と肺に寄生する肺吸虫があります。これらの寄生虫は、複数の宿主をたどる複雑な生活のサイクルをもち、ヒトがそれらの寄生虫が潜んでいる食べ物を摂取することで感染します。感染の初期段階では症状がほとんどないか、ごく軽いため、見過ごされることが少なくありません。
しかし、感染した状態が持続すると、重篤な肝疾患や肺疾患を引き起こすことがあります。 ある肝吸虫は肝内の胆管に寄生し、炎症や組織破壊(線維化/瘢痕(はんこん)化)を起こし、流行地域での胆管がんの発生率の上昇を引き起こしています。別の肝吸虫では、胆管や胆道の閉塞、激しい腹痛、黄疸、肝硬変などを引き起こすこともあります。肺吸虫の場合には、慢性的な咳、血痰、胸痛が長年にわたって続くことがあります。
感染経路
寄生虫の幼虫がついた淡水産の魚介類(川魚やカニ・ザリガニなど)や野菜を、生あるいは十分に加熱しない状態で食べることで感染します。このヒトへの感染型の幼虫が生育するには虫卵から孵化した後、淡水環境に生息する中間宿主の体内で、複雑な生活サイクルを経る必要があります。
これらの吸虫の生まれたての幼虫は、まず淡水のカタツムリ(巻き貝など)で発育し、その後「第2中間宿主」と呼ばれる別の生物へ移行して、ヒトに感染する準備を整えます。吸虫の種類によってこの第2中間宿主は異なり、あるものは淡水魚(肝吸虫)、別のものはカニやザリガニなどの甲殻類(肺吸虫)、さらに別のものは淡水産水草(肝蛭/かんてつ)などに付着してヒトへの感染源となります。流行のパターンは吸虫種によって異なり、中間宿主の地域での生息状況、食習慣や調理方法を反映しています。近年では、養殖業の急速な拡大に伴い、多くの地域で感染リスクの増加が指摘されています。
食物媒介吸虫類感染症図(肺吸虫のサイクルの場合)
この図は肺吸虫の感染経路を示しています。ほかの食品媒介性吸虫も同様のサイクルをたどりますが、主な違いは、人間が感染する原因となる食べ物です。肝吸虫の場合は淡水魚、肝蛭の場合は水生植物です。
疾病による負荷
流行地域
- 世界70カ国以上で症例報告があります
- 中でも、東アジア、東南アジアおよび南米が最も深刻な影響を受けている地域です
- ラオスの高度流行地域の一部の村では肝吸虫への感染率が最大約80~90%に達することが確認されています
患者数・感染者数
- 2021年時点で推定4400万人が感染していると言われていますが、実際の感染者数はさらに多い可能性が高い
予防と治療
食物媒介吸虫類感染症には、安全かつ有効な治療薬が利用可能です。主に用いられる薬剤は、吸虫の種類に応じてプラジカンテルとトリクラベンダゾールの2種類で、いずれも副作用は比較的軽度とされています。世界保健機関(WHO)は常在国に対して、これらの薬剤を無償で供給する支援を行っています。感染者が多い地域では、集団治療投薬として地域住民全体に薬剤を投与することがあり、感染率の低いその他の地域では、感染が確認された人や疑われる人を対象に治療を実施します。
感染や再感染を防ぐには、複数の対策を組み合わせて実施することが重要です。最も基本となるのは、すべての淡水産の魚介類や野菜を十分に加熱調理し、寄生虫の幼虫を死滅させることです。加えて地域住民に対し、感染経路や安全な調理法に関する啓発活動を行うことが有効です。安全な飲料水の確保や衛生環境の改善、感染した家畜の治療などが感染経路を断つ対策となります。淡水域の近くに住む人々は、内陸部に住む人と比べて、感染リスクが2倍以上に達することが報告されているため、こうした地域への重点的な対策が重要です。
© Shota Koyano
肺吸虫の卵
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タイ肝吸虫の流行地の食べ物
タイの東北部では「コイプラ」という生の淡水産小魚をハーブや唐辛子などと混ぜ合わせた伝統的な料理。タイ肝吸虫の感染経路にもなっている
長崎大学 平山謙二教授
タイ肝吸虫のメタセルカリア
小魚のうろこの裏側に付着
長崎大学 平山謙二教授
タイ肝吸虫の虫卵
長崎大学 平山謙二教授
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。