概要
ブルーリ潰瘍(かいよう)は、水辺や湿地などに生息する細菌マイコバクテリウム・ウルセランスによって引き起こされる慢性的な皮膚疾患です。熱帯・亜熱帯および一部の温帯地域でみられ、通常は手足に痛みのない「しこり」や腫れとして始まります。
早期に治療を施さないことで、皮膚や皮膚の下にある筋肉、脂肪、血管などの組織を破壊する痛みをほとんど感じない大きな無痛性潰瘍へと進行し、骨にも障がいを及ぼし永久的な変形をもたらします。ブルーリ潰瘍は強い差別や偏見を生み、労働の機会の損失や大きな社会経済的な負担を引き起こします。多くの症例は早期発見と抗菌薬治療を中心とした包括的治療により治癒しますが、治療が遅れると皮膚に硬い傷あと(瘢痕)が残ったり、筋肉や関節の変形など後遺症を残すことがあります。
感染経路
感染経路はいまだ解明されていません。マイコバクテリウム・ウルセランスは流れの遅い水や澱んだ水に存在し、水生昆虫や蚊、魚、バイオフィルム、さらには水そのものからも検出されています。汚染された水や土壌に触れた際に、皮膚の傷口や切り傷から細菌が直接体内に入ること、あるいは感染した水生昆虫や蚊に刺されることで感染が起こる可能性が高いと考えられています。ある研究からは、この細菌が淡水の生態系で増殖し、特定の水生カメムシの唾液腺内で増える可能性が示されていますが、野外調査で、これらの昆虫が主要なベクター(媒介者)であると確定されたわけではありません。
人から人への直接感染は非常に稀で、主要な感染経路とは考えられていません。この細菌は毒素を作り、感染部位の組織を壊し、局所の免疫反応も弱めます。その結果、典型的には痛みをほぼ伴わないまま病状が進行するため、早期発見が難しくなります。
疾病による負荷
流行地域
- アフリカ、南北アメリカ、アジア、西太平洋の30か国以上で流行しています
- 世界全症例の80%超がアフリカからの報告で、主な流行地域は西・中部アフリカ(ベナン、カメルーン、コートジボワール、コンゴ民主共和国、ガーナ、ナイジェリア)です
- オーストラリア、パプアニューギニアでも風土病として存在し、日本国内でも固有のタイプのものが報告されています
※風土病とは病気の原因となるものが地域環境の中に定着している疾病のことを指します
患者数・感染者数
- 世界では毎年約1,800例の疑いのある症例が報告されており、2010年頃の約5,000例から大きく減少しました
- しかし、実際の感染者数は、報告漏れや医療アクセスの欠乏、誤診などにより、過少報告が常態で、実態は報告数を上回るとされています
- アフリカ症例のほぼ半数は15歳未満の子どもに発生しています
予防と治療
世界保健機関(WHO)は従来の痛みを伴う注射に代わる経口抗菌薬として、リファンピシンとクラリスロマイシンを8週間服用する治療を推奨しています。これらの抗菌薬は細菌を殺し、感染部位で抑え込まれていた免疫機能を回復させます。早期発見で、およそ80%の症例は手術を行わずに治癒させることができます。ただし治癒には時間がかかり、潰瘍の大きさによっては6か月から2年以上を要します。治療開始後の創傷ケアが非常に重要になり、潰瘍が大きい場合には、壊死した組織の切除や植皮などの外科手術が必要になることもあります。
リスクの低減対策として、水辺での長袖・長ズボンの着用、虫よけ剤の使用、傷はすぐに洗浄して覆うこと、流行地では流れの遅い水域や澱んだ水への接触を避けることなどが挙げられます。ワクチンは存在しませんが、BCGワクチンには一時的かつ部分的な防御効果があるとされています。
注:動物が宿主(宿り主)になることがあります。オーストラリアでは「フクロギツネ(ポッサム)」という動物が菌を保有していることがわかっています。
© Shota Koyano
ブルーリ潰瘍の症例写真
Rie Yotsu / Clover Health International
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。