概要
オンコセルカ症は、一般的に「河川盲目症(river blindness)」として知られる寄生虫疾患で、ブユ(ブヨ)に刺されることで感染に至ります。成虫は皮下のしこり(こぶ)内に寄生し、最大で約15年間生存しながら、数百万のミクロフィラリア(寄生虫の幼虫)を産み出します。これらの幼虫は皮膚や眼の中へと移動し、幼虫が死滅する際に激しいかゆみ、色素脱失や弾力性の低下を伴う皮膚障害、さらに失明につながる眼の障害を引き起こします。
オンコセルカ症は、世界で感染症による失明原因の第2位とされ、アフリカ流行地域で小児てんかんとの関連も報告されています。命に関わることは稀ですが、重い障がいをもたらし、失明した場合には平均寿命が4~10年短くなる可能性があります。
感染経路
オンコセルカ症は、流れの速い河川や渓流で繁殖するブユ(ブヨ)が媒介する寄生虫症です。感染したブユ(ブヨ)が人を刺すと、幼虫が皮下に侵入し、12~18ヶ月かけて成虫へと成長して皮下結節(こぶ)を形成します。成虫の寄生虫は交尾して、大量のミクロフィラリアを産み出します。ミクロフィラリアは皮膚の中に住みつきます。その後、別のブユ(ブヨ)がミクロフィラリア保持者を刺すことによりミクロフィラリアを取り込み、その次に刺したヒトへと感染を広げる可能性があります。
この病気は感染したブユ(ブヨ)に何度も刺されることによって感染するため、流れの速い河川や渓流の近くで生活や就労をする人々が最も高いリスクにさらされます。長期滞在者も感染する可能性がありますが、短期滞在の旅行者が感染することは稀です。
疾病による負荷
流行地域
- 感染者の99%以上はサハラ以南のアフリカとイエメン、残り約1%はブラジル・ベネズエラの国境地域です
- この病気はコロンビア、エクアドル、メキシコ、グアテマラ、ニジェールではすでに排除されています(発生が見られなくなっています)
- 現在、約30カ国で流行が継続しています
- 25カ国以上で積極的な治療プログラムを実施しています
患者数・感染者数
- 毎年2億5,000万人以上が治療を必要としていますが、実際に治療を受けているのは70%未満にとどまっています
- 2,000万人以上が感染、そのうち100万人以上が視力障害または失明に苦しんでいます
- 西アフリカの一部の村落では、住民の最大10%がオンコセルカ症によって失明した報告例もあります
予防と治療
流行地域では、一般的にイベルメクチン(商品名 メクチザン)の年1回または年2回の集団投与が行われています。 この薬は、1987年以来Merck & Co.,Inc.(日本ではMSD株式会社)によって無料で供与されており、成虫の寿命にあわせて10~15年間、継続的な治療が必要とされます。
イベルメクチンは体内に存在する微小な幼虫ミクロフィラリアを殺し、成虫が新たな幼虫を産出するのを一時的に抑圧することで、症状と感染伝播を低減します。2018年には、イベルメクチンと比較して、皮膚中のミクロフィラリアをより長期間・大きく減少させると報告されているモキシデクチンが、12歳以上を対象とした代替治療薬として承認されました。いずれの薬も一般的に安全性が高いとされていますが、主な副作用としては、薬の効果により体内で死滅した幼虫に対する生体反応として、かゆみ、発疹、筋肉痛、発熱などが見られます。このイベルメクチンを発見したのが、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智博士です。
予防の基本は、日中にブユ(ブヨ)に刺されるのを避けることであり、虫よけ剤の使用、長袖・長ズボンの着用、窓や出入口への網戸の設置などが推奨されます。一部の地域では、河川に安全性の確認された殺虫剤を散布し、ブユ(ブヨ)の個体数を減らす取り組みも行われています。現在のところオンコセルカ症のワクチンは存在しません。
© Shota Koyano
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。