概要
エキノコックス症は、主に肝臓や肺などの臓器にゆっくりと大きくなる嚢胞(のうほう)をつくる条虫(サナダムシの仲間)による寄生虫感染症です。感染者の多くを占める一般的な型と、より重症となる型の2型が主であり、いずれも嚢胞がゆっくりと発育するため、長年にわたり無症状のまま経過することも少なくありません。
症状は嚢胞ができる部位によって異なります。肝臓に嚢胞ができた場合は腹痛や黄疸を引き起こすことがあり、肺にできた場合は咳や胸痛の症状が確認されます。嚢胞は破裂すると、アナフィラキシーショックなどの重度アレルギー反応を引き起こすことがあります。重症型は治療しなければ致死的になることも多く、一般的な型でも肝機能障害や呼吸不全などの後遺症を残しやすく、外科手術を含む複雑で高額な治療を必要とします。
感染経路
感染したイヌやキツネの糞便で汚染された土壌や、イヌの毛、食べ物、飲み水などを介して、条虫の卵を人間が口から取り込むことで感染します。イヌは、感染した家畜の内臓を食べることで条虫に感染します。卵は腸の中でふ化し、幼虫が血流に乗って各臓器へ移動して嚢胞を形成します。
この病気は人から人へ直接感染することはありません。一般的な型では、主にイヌとヒツジの間で感染の環が回っており、重症型ではキツネと小型のげっ歯類の間で循環していますが、この重症型をイヌが保有することもあります。
疾病による負荷
流行地域
- 一般的な型は南極を除くすべての大陸に分布、特に遊牧地域で高い有病率です
- 重症型は北半球のみに分布し、ヨーロッパ・アジア・北米の一部地域で報告があります
- 中央アジア、地中海沿岸地域、南米の一部(特にアルゼンチンとペルー)、東アフリカ、西部中国で日常的にみられます
- 日本では北海道で多包虫症の患者が少数みられるほか、愛知県で野犬の感染例が報告され住民への注意喚起が行われています
患者数・感染者数
- 世界の感染者数は、推定100万人以上(年間新規:約14.8万人、死亡:1,300人超)にのぼります
- 主にイヌと家畜が密接に接する牧畜コミュニティに多い疾患です
- イヌとの接触が多く、手洗いが不十分になりがちな子どもの感染リスクが高い傾向にあります
予防と治療
嚢胞の大きさ、場所、種類によって治療が異なります。駆虫剤アルベンダゾールは、小さく単純な嚢胞のおよそ30%を治癒させることができます。PAIR戦略(嚢胞を穿刺して内容液を抜き、寄生虫を殺す薬剤を注入し、再び排液する方法)は、多くの症例で有効です。大きな嚢胞や、重要な臓器にある嚢胞には手術が必要になります。重症型では手術に加えて長期の薬物療法が必要で、治療しなければ致命的となります。
主な予防となるのは、イヌに対する定期的な駆虫のほか、イヌが感染した野生動物や家畜の内臓を食べないようにすることなどです。一部の地域ではヒツジ用ワクチンが利用可能ですが、ヒト用のワクチンはありません。手洗いの徹底、安全な飲み水の確保、汚染された食品を避けることが感染リスクの低減につながります。
注:エキノコックス症は「かつて日本でも流行」していた病気ではありますが、今も決してゼロになったわけではありません。主に北海道を中心に感染が確認されています。
© Shota Koyano
感染したキツネの糞便などから感染
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。