概要
リーシュマニア症は、ハエの一種であるサシチョウバエに刺されることで感染する寄生虫によって引き起こされる感染症疾患群の総称で、主に三つの型に分けられます。
最も一般的なタイプは「皮膚型」で、皮膚に潰瘍(かいよう)ができ、治癒後も顔や腕などに永久的な傷あとが残ることがあります。外見上の変化によって、特に女性や女児が、社会的な差別や偏見を受けることも少なくありません。二つ目は「粘膜皮膚型」では、口や鼻、喉の粘膜が侵され、治療が行われない場合、組織が破壊されて重度の外見変形を引き起こすことがあります。そして最も重篤なのは「内臓型」です。脾臓や肝臓、骨髄などの内臓に寄生虫が感染します。発熱、体重減少、重度の貧血などの症状を伴い、致死率が非常に高く、治療を受けなければ命にかかわる病気です。リーシュマニア症は、主に医療へのアクセスが限られた貧困地域に暮らす多くの人々に影響を及ぼしており、健康格差や医療資源の不均衡、差別や偏見と深く結びついた代表的な顧みられない熱帯病(NTDs)の一つです。
感染経路
リーシュマニア症は、ヒトを含む保有動物を吸血し感染したサシチョウバエに刺されることで地域内に拡散します。サシチョウバエは体長2-3mmの小さな昆虫で、夕暮れから夜明けにかけて最も活発に活動します。リーシュマニア症に感染している人を刺したサシチョウバエは、その血液と共に寄生虫を取り込みます。取り込まれた寄生虫はサシチョウバエの体内で発育、増殖し、次に刺した人の体内へ感染を広げます。体内に侵入した寄生虫は細胞内に入り込み、増殖します。感染後の経過は、寄生虫の種類や感染者本人の免疫状態によって異なり、皮膚に潰瘍が生じる場合もあれば、口や鼻へと広がる場合、あるいは内臓にまで達する場合もあります。一方で、感染しても症状が現れない人も少なくありません。
サシチョウバエは、壁のひび割れ、家畜小屋、落ち葉や堆肥など有機物が堆積した場所など、温暖で湿度の高い環境下に繁殖します。こうした生息環境に近い農村部に暮らす人々は、特に感染リスクが高いとされています。
疾病による負荷
流行地域
- サシチョウバエが生息するほぼすべての大陸や熱帯地域、中南米、アフリカ、アジア、南ヨーロッパ、中東を含む約100か国で風土病として存在しています
※風土病とは病気の原因となるものが地域環境の中に定着している疾病のことを指します - 主に遠隔地の農村部で発生し、一部都市部でも症例が報告されています
- 2023年、バングラデシュが内臓リーシュマニア症を国内の公衆衛生上の課題としていた疾患の中で初めて排除したと宣言しました
患者数・感染者数
- 世界で10億人以上が感染リスクのある地域に居住しています
- 年間約70万〜100万件の皮膚型新規症例が発生しています
- 年間約3万〜9万件の内臓型新規症例が発生しています
- 現在、世界で1,200万人以上が感染しています
- HIV感染者との重複症例が40か国以上で報告され、治療の難易度が増大しています
予防と治療
リーシュマニア症の治療は、疾患の型、感染した地域、患者の全身状態によって異なります。重篤な内臓型では、点滴による静脈内投与薬や経口薬による治療が必要とされます。一般的に使用される治療薬では、吐き気や嘔吐、腎機能障害などの副作用が生じることがあります。治療を行っても、体内から寄生虫を完全に排除することは難しく、免疫機能が低下している人は再発の可能性があります。また、一部の経口薬は胎児に先天異常を引き起こすため、妊娠中の使用はできないものもあります。地域により治療効果は差があり、特定の薬剤に対する耐性が報告されている地域もあります。
予防の基本は、サシチョウバエに刺されないようにすることです。虫よけ剤の使用、長袖・長ズボンの着用、サシチョウバエの活動が最も活発になる夕方から夜明けにかけては屋内で過ごすことが推奨されています。また、就寝時には殺虫剤処理済みの蚊帳の使用や、網戸を良好な状態に保つことも有効です。現在、リーシュマニア症に対するワクチンは存在していません。
© Shota Koyano
リーシュマニア症に感染した皮膚
オハイオ州立大学 アベイ サトスカー教授
リーシュマニアエチオピカ 皮膚型(耳)
長崎大学 平山謙二教授
リーシュマニアエチオピカ 皮膚型(右腕前)
長崎大学 平山謙二教授
※ 疾患の理解を深めるため、一部に具体的な症例写真(臨床画像)が含まれています。