スタッフ対談インタビュー
新薬で人を救う
「ビジョン」を持ち続ける
シニアマネージャー
大畑
國井さんがGHIT Fund(以下、GHIT)CEO兼専務理事になられたのが2022年3月ですから、
早いものでもう2年たちます。なぜ、GHITに参画しようと思われたのでしょうか?
國井
僕はUNICEF(国連児童基金)やグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)で働き、
アメリカ、ミャンマー、ケニア、スイスなどに駐在して20年近く海外で過ごしました。
そろそろ日本に戻って母国に貢献したいという気持ちと、両親が高齢になり「親のケアもそっちのけで世界のケア、
国際貢献というのもおかしな話だ」とも思いました。
GHITは、日本の科学・創薬技術でグローバルヘルスに貢献するという使命のもと、
それまでにはなかった国際的な官民パートナーシップとして設立された「国際機関」で、
以前からその存在意義や価値を認識していました。累積の参画機関は180近く、それも3分の2は日本以外のパートナーで、
研究開発分野ではグローバルで革新的でユニークな存在です。
僕はこれまでの経験を通じて、現存する治療薬、診断薬、ワクチンなどを途上国の必要としている人々に届けていましたが、
それだけでは不十分とも感じていました。もっと迅速で正確に現場でできる診断方法や、
薬剤耐性も増える中で有効な新薬、感染自体を防ぐワクチンなどが、世界でまん延する多くの感染症に対して
まだまだ必要です。薬を配る側でなく創る側で仕事をするのも面白そうだし、ひとつの新薬開発で数千万人を
助けられる可能性があることにロマンを感じました。
大畑さんはどうしてGHITに入ろうと思ったのですか?
大畑
私は子どものころから、途上国の支援をしたいとの想いがありました。大学では国際政治を専攻する文系だったので、
医療系では働けないとあきらめていましたが、薬の営業をするMRなら文系でも働けることを知りました。
薬を通じて人の健康に貢献できるのは素晴らしいと思い、就職活動を始め、製薬会社に内定をもらいました。
大学卒業まで、アルバイトよりも自分の経験になることをしたいな、と思っていた矢先、
GHITがインターンを募集していることを知りました。自分がかつて思い描いた途上国支援に繋がったのです。
2013年6月から1年ほどGHITにインターンとして在籍したわけですが、GHITの事業開始は2013年4月からですから、
創設期に携われたと言えます。当時はまだインターンを含めて10人程度でした。
プロジェクトの審査のプロセスも整備している段階で、インターンも社員も一緒に議論をして0から1を作る、
私の人生で大きな経験となりました。
その後約3年、製薬会社ではMRなどをして、患者さんに貢献できるやりがいはあったものの、
途上国の人々の生活環境向上に貢献したいという想いは捨てきれず、GHITに改めて応募し、
2017年2月、正社員となりました。
國井
僕が12個ある
「GHIT Values」※
のうち大切と思っているのは「ビジョン」です。
組織とは様々な価値観や才能をもつ人間が集まって、同じ未来の夢に向かって走っていくものだと思います。
イノベーションを求め、新薬を開発して世界の感染症に立ち向かっていこう、人々の命を救っていこうという夢、
ビジョンにどれだけ強い想いや情熱を向けることができるか、これがとても重要だと思っています。
ただしビジョンだけでは足りません。具体的な道筋を描きアプローチを考え、実際に進みながら必要に応じて
ビジョン達成のための近道を探っていかなければならない。
VMOSA、すなわち「Vision」「Mission」「Objective」「Strategy」「Action plan」をそれぞれ設定していくことが重要です。
GHITでは5カ年計画を作っていて、2023年4月から「GHIT3.0」(FY2023~FY2027)が始まりました。
これに従って毎年のAction planを立てて、とにかく前に進めていく。
GHIT3.0で重要なのが、研究開発を加速化して早く製品を世に送り出すことです。
新型コロナのパンデミックでは1年以内にワクチン開発を成功させたのですから、加速化は不可能ではありません。
現場で新薬を待っている人のことを考えると、研究開発のそれぞれの段階で、次のフェーズに進める時間を短縮して
成功率を上げていく必要があります。
そのためには個々の社員に与えられた「責任」を果たすというValueも大事です。GHITは事務局の管理費を最低限に抑えて、
できるだけ多くの予算を研究開発本体に投資するため、限られた少人数の事務局スタッフで動かしています。
ですから一人一人の役割・責任はとても重要で、Visionや目標達成のために何をすべきか、各自が積極的に考えて行動する、
そこには粘り強さやチャレンジ精神も必要になってきます。互いに助け合い、学び合う、そして仕事人として、
また人間として成長し合うことも重要です。12個のValuesは一つ一つ絡み合っていますね。
GHITに入って感じたのは、社員みんながスマート。グローバルな考え方やマインドセットをもっていて英語やフランス語、
スペイン語などの言語を使いこなし、コミュ二ケーション力も高い。戦略的思考、システム思考もできる人がほとんどです。
日本でありながらグローバルスタンダードの組織ですね。
大畑
皆さんスキルが高く、多様性の観点でも、非常に学びが多いですね。
医療系のバックグラウンドがなく転職されてきた人
も多くいらっしゃいますし、GHITが資金をいただいているファンダーの皆さんも政府、財団、民間とバックグラウンドが
多岐に渡っている。「多様性があるからこそイノベーションが生まれるのだ」と日々感じています。
また、GHIT Valuesにあるように非常に「オープン」です。小さな組織だから全員の顔を見られ、
他の部署とのコミュニケーションがとりやすい。風通しがいいですし、年齢も関係なく意見が言え、
チャレンジさせてくれる組織です。
GHIT Values:
GHITが大切にしている12の価値観。
組織の持続的な成長と、社員の能力開発の行動指針となるように設定された。
オープン(Be Open)、イニシアチブ(Show Initiative)、成果(Commit to Goals)などを掲げている 。
グローバルヘルスへ貢献
國井
チャレンジと言えば、大畑さんは2023年4月、GHIT社員の中で初めて部署異動をしましたね。
どういう経緯だったのでしょうか?
大畑
私は入社以来、投資チームに6年在籍しました。GHITが支援するプロジェクトの公募の運営から、投資が決まった際の契約、
契約後のプロジェクトマネジメントを担当していました。研究者の皆さんと協力し、プロジェクトを前へ前へと進めていき、
各々のマイルストーンの達成をそばで見られたのは素晴らしい経験です。
そんな時、広報チームのポジションが空き、「やってみたい」とチャレンジしたい気持ちで手を挙げたことで、
異動が決まりました。文系出身の上、GHITでのインターンをするまでグローバルヘルスをよく知らなかった私としては、
常々、子どもから年配の方まで病気で苦しむ患者さんがいて、治療薬が行き届かない現状を知ってもらいたいという
強い想いがありました。広報という仕事を通じて、貢献できることもあるのではと感じたのです。
國井
人生って8割が偶然と言いますね。自分が計画したり思い描いたようになるのは2割程度。
この8割がうまい方向にいく人とそうでない人とでは日頃のマインドセットや行動・思考が違うと言います。
自分の興味ややりたいことがわかっていて、それを周囲に伝えていたことが今回の大畑さんの部署異動という
人生のひとつの転機を生んだのだと思います。言葉に出して伝えていなかったら、この偶然は起きなかったでしょう。
また普段から周囲に信頼され、仕事への誠実さや情熱があったからこそ、
この重要な仕事も任せてみようとなったのだと思います。
投資チームから広報チームに移ってみていかがですか?
大畑
グローバルヘルスのことをよく分からない人に対しても、広く伝えなければならず、それを言語化することが難しいです。
長い間GHITにいますから自分の中では分かりますが、外の人に伝えるのは別。プレスリリースの文章は長すぎても読んでもらえません。
簡潔で分かりやすい表現にするよう、勉強してトレーニングしなければいけません。
そんな中で、より多くの人にGHITやグローバルヘルスのことを知ってもらおうと新しくホームページに
公開したコンテンツが
「1分でわかるGHIT」
です。視覚的にもとても親しみやすいページになっていて、私のお気に入りです。
一歩先を行く組織
國井
GHITのビジョンを達成するには自分が何をすべきかをしっかり考えて、上司に積極的に提案しながら具体的に動いてみる。
うまくいかなかったらなぜかを考えながら、より前進していく。そうやって経験をしながら、
個人も組織も成長していくのが重要だと思っています。
GHITには外国籍の人もいますし、理事会や選考委員会などの組織は世界のトップクラスのリーダーや専門家が集まっていますが、
そんな多様な人たちに会えて経験できることも色々あるのではないでしょうか。
GHITはどういう点で働きやすいですか?
大畑
完全フレックス制で在宅勤務が可能なので、効率的に働けますね。私のような子育て世代だけでなく、
それぞれ仕事以外のライフステージがあるわけですが、ワークライフバランスをとりやすい職場環境です。
子どもが熱を出せば、途中で抜けて夜に仕事を行うなど周囲の理解とサポートがあるため、融通の利く環境です。
家庭と仕事、それぞれに全力で向き合い、限られた時間でインパクトを出すことを目指してやっています。
國井
生産性を高めながら結果を出し、それでいながら家庭やプライベートライフも大切にするという文化や習慣を作るべきだと考えています。
GHITはそのようなグローバルスタンダードをもって、日本社会では一歩先を行く組織でありたいと思っています。
GHITは、世界の人々の健康を改善し、命を救うことがミッションです。利益を追求することとはまた異なるやりがいがあると思います。
そのような大きなビジョンは、GHITの限られた人数の社員だけでできるわけはありません。
だからこそGHITにとって重要なのが「パートナーシップ」です。世界の産学官民、さまざまなパートナーに
どのように参画してもらうか、どのように連携・協力をしてもらうか、1+1が2ではなく10になるような相乗効果を
どうやったら生んでいけるのかなど、具体的なパートナーシップのメカニズムを考えていく、それを進化させていく。
そういった挑戦を組織として実行していきたいと思っています。
そのためには社員全員がビジョンを共有するだけでなく、そこに到達しようという熱いパッションをもって、
具体的なアクションを起こしてもらいたい。仕事を楽しみながら、パーソナルライフも充実させてほしい。
やりがいをもって生き生きと働いてもらうために、僕はChief Executive OfficerならぬChief Entertainment Officer
(チーフ・エンターテインメント・オフィサー)としても、スタッフのみんなに楽しんでもらえるような
職場環境を作っていきたいと思っています。
略歴
自治医科大学卒業、公衆衛生学修士(ハーバード公衆衛生大学院)、医学博士(東京大学)。 国立国際医療センター、東京大学大学院(専任講師)、外務省経済協力局(課長補佐)、 長崎大学熱帯医学研究所(教授)、国連児童基金本部(シニアアドバイザー)、 ミャンマー・ソマリア国事務所(保健・栄養・水衛生事業部長)を経て、2013年より9年間、 世界エイズ・結核・マラリア対策基金の戦略・投資・効果局長。2022年より現職。長崎大学、 千葉大学、東京大学、京都大学などで客員教授等を務める。
シニアマネージャー
ファイザー株式会社で約3年間MRとマーケティングに従事し、2017年2月にGHIT Fundに入社。 投資戦略部門のマネージャーとして、公募から投資決定までの一連のプロセスや、 投資案件のプロジェクトマネジメントを担当したのち、2023年4月より広報宣伝業務に異動、 現在に至る。2013年のGHIT Fund設立時にインターンとして1年ほど勤務し、 投資プロセスのマニュアル作成や、システム導入などに携わっていた。法政大学法学部卒業。
(所属・役職はインタビュー当時のものです)