プレスリリース

February 25, 2021

GHIT FundとEDCTPによる共同投資:プラジカンテル小児コンソーシアムの実施研究「ADOPTプログラム」に対して、約9.8億円(780万ユーロ)の追加投資を決定

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)と欧州・途上国臨床試験パートナーシップ(EDCTP)は、アステラス製薬株式会社が参画するプラジカンテル小児コンソーシアム(以下、コンソーシアム)に対して、GHIT Fundが2年間で約2.6億円(約210万ユーロ)、EDCTPが5年間で約7.2億円(約570万ユーロ)、合計で約9.8億円(780万ユーロ)の新たな共同投資を行うことを発表しました。同コンソーシアムは、この資金を受けて、これまでに開発した住血吸虫症の小児用製剤(小児用プラジカンテル/PZQ錠)を用いて、蔓延国における大規模導入に向けた実施研究「ADOPT[1]プログラム」を実施します。

 

顧みられない熱帯病の一つである住血吸虫症は、サハラ以南のアフリカに蔓延している寄生虫疾患で、貧血、栄養不良、幼児期の発育障害などの障害を引き起こす可能性があります。有効な既存薬として大人用のPZQ錠がありますが、就学前児童には錠剤が大きく、苦味があるため飲み込みにくく、錠剤を粉砕して投与することができないなどの問題があります。

 

2012年に設立された世界的な官民パートナーシップである同コンソーシアムは、就学前児童にも適した小型で味覚が改善された、低価格の口腔内崩壊錠を開発しました。本プロジェクトは現在第III相試験段階にあり、ケニアとコートジボワールで薬事申請に向けたデータ収集のための臨床試験が実施されています。

 

今後実施されるADOPTプログラムを通じて、住血吸虫症に苦しむ就学前児童に小児用PZQ錠の治療が広く受け入れられ、かつ公平な医薬品アクセスを確保するための最適なアプローチを特定することを目的としています。5年間に及ぶ本プログラムでは、小児用PZQ錠に関する技術移転から、蔓延国における製造や物流、社会動員(ソーシャルモビライゼーション)や現地住民による小児用製剤治療の受け入れまで、様々な側面を検討します。本プログラムはケニアやコートジボワールを含むアフリカにおける複数国での研究を支援する予定です。

 

GHIT FundのCEO兼専務理事である大浦佳世理は、同コンソーシアムへの追加投資について次のように述べています。「2013年から継続するGHIT Fundとのパートナーシップが、プロジェクトの最終段階に入ったことを大変嬉しく思います。私たちは、医薬品は患者の手に届いて初めて真の価値になると考えています。したがって、このADOPTプログラムは製品開発とアクセス・供給を橋渡しする上で極めて重要なステップとなり、このプログラムを通じて明らかとなる小児用製剤を用いた最も効果的な施策は、世界保健機関や蔓延国の住血吸虫症対策ガイドラインにも大きく貢献するでしょう。」

 

EDCTPのエグゼクティブ・ディレクターであるマイケル・マカンガ博士は次のように述べています。「同コンソーシアムの後期臨床試験に対する前回の投資に加えて、今回のADOPTプログラムへ支援は極めて重要であると考えました。このグローバルな官民パートナーシップを通じて、適切な住血吸虫症小児用治療薬の開発とアクセスが実際に成功すれば、就学前児童を誰一人取り残すことなく、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた明白な貢献となるでしょう」

 

小児用プラジカンテル・コンソーシアム理事会の議長であり、Merck社(ドイツ)のグローバルヘルス研究所長でもあるユッタ・ラインハルト・ルップ博士は、次のように述べています。「我々の研究提案がGHIT FundとEDCTPの双方から好意的に評価されたことを嬉しく思います。世界では推定5,000万人の就学前児童が治療を必要としており[2]、この病気の制圧に向けて、治療ギャップを埋めることが私たちの目標です。今回のGHIT FundとEDCTPからの追加資金提供は、治療薬を就学前児童に届ける最善のアプローチを検討する上で非常に重要だと考えています。」

 

1. 住血吸虫症について

住血吸虫症は、サハラ以南アフリカで最も流行している寄生虫疾患の1つで、住血吸虫と呼ばれる寄生扁虫によって引き起こされます。これは、主に安全な飲料水を利用できず、衛生状態の悪い地域で、約2億4千万人 が影響を受け、年間約20万人 の死亡が推定されています。寄生虫は淡水産貝の中に棲息し、ヒトに皮膚から侵入し感染します。この病気では、臓器の慢性的な炎症が生じることがあり、致命的であるだけではなく、貧血、発育不全、学習障害も引き起こし、幼い子供たちの生命に壊滅的な結果をもたらす可能性があります。

 

2. 小児用プラジカンテル・コンソーシアムについて

小児用プラジカンテル・コンソーシアムは、住血吸虫症の世界的疾病負担を軽減することを目指し、就学前の感染児の医療ニーズに応える、国際的非営利パートナーシップです。コンソーシアムには、Merck社(ドイツ)、アステラス製薬株式会社(日本)、スイス熱帯公衆衛生研究所(Swiss TPH)(スイス)、Lygature(オランダ)、Farmanguinhos(ブラジル)、SCI財団(英国)、Kenya Medical Research Institute(ケニア)、Université Félix Houphouët-Boigny(コートジボワール)が参画しています。コンソーシアムの使命は、就学前児童の住血吸虫症治療に適した小児用プラジカンテル製剤を開発、登録して医療アクセスを提供することです。研究対象となっているプラジカンテル小児用製剤は、現在市販されている製剤と比較して小型で服用しやすく味覚特性が改善され、口腔内で崩壊しやすいように設計されています。詳細については、コンソーシアムのウェブサイトをご覧ください。www.pediatricpraziquantelconsortium.org  

 

3. GHIT Fundから小児用プラジカンテル・コンソーシアムへの投資

開発段階 投資金額 リンク
2013 I相試験 1.86億円 ttps://www.ghitfund.org/investment/portfoliodetail/detail/27/jp 
2014 II相試験 4.85億円 https://www.ghitfund.org/investment/portfoliodetail/detail/60/jp
2016 II相試験 4.67億円 https://www.ghitfund.org/investment/portfoliodetail/detail/103/jp
2019 III相試験 4.52億円 https://www.ghitfund.org/investment/portfoliodetail/detail/138/jp
2021 実施研究 2.5億円 https://www.ghitfund.org/investment/portfoliodetail/detail/179/jp
合計   18.5億円  

 

[1] Adoption of Levo-Praziquantel 150 mg for schistosomiasis by endemic countries

[2] https://www.who.int/en/news-room/fact-sheets/detail/schistosomiasis