Investment

プロジェクト

住血吸虫症感染症治療に関する新規プラジカンテル小児製剤の開発と承認

イントロダクション/背景

住血吸虫症(別名:ビルハルツ住血吸虫症)は、寄生虫を原因とする慢性疾患で、78もの発展途上国で蔓延している顧みられない熱帯病の一つです。世界では、1億人以上の児童を含む、2.49億人以上の人びとが住血吸虫症に感染しています。マラリアに次いで世界で発生率の高い熱帯病の一つで、途上国にとって大きな健康問題となっています。とりわけアフリカ地域で約9割以上の感染が起きていることから、深刻な問題となっています。標準的な住血吸虫症の治療はプラジカンテル(PZQ)が投与されますが、成人および年齢の高い児童を対象とした経口の錠剤のみです。そのため、4歳以下の児童は臨床データが不足していることもあり、適切な治療が行われていません。 

 

このような背景により、正確な小児用量で、服薬コンプライアンスが改善された就学前児童、乳幼児を含む低年齢の児童に適したプラジカンテル小児製剤の開発が強く求められています。このような新規のプラジカンテル小児製剤の開発の必要性は、2020年までに顧みられない熱帯病の各疾病を制圧するための世界保健機構(WHO)のロードマップや、国際社会が合意した“Uniting to combat Neglected Tropical Diseases”においても重要視されています。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

世界的な保健課題の一つである住血吸虫症対策を進めるために、小児用プラジカンテル製剤の開発を目的に20127月に非営利のプラジカンテル小児コンソーシアムが創設されました。本取り組みは、現在WHOの治療キャンペーンの対象となっている就学前児童、乳幼児および低年齢の児童の住血吸虫症において切望される治療薬をもたらすことにより、住血吸虫症の制圧と対策に貢献します。新しいプラジカンテル小児製剤の開発と承認は、2020年までに顧みられない熱帯病を制圧することを目指した世界保健機構(WHO)の公約を果たすための礎となるとともに、この疾患による健康被害や死をもたらす住血吸虫症に対する認知向上にも繋がることを期待しています。全ての年齢群において治療薬を届けることを含め、この目標達成のためには複数の施策を統合する必要があると考えています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

プラジカンテル小児製剤コンソーシアムは、最高レベルの技術と豊富な経験を有する官民パートナーシップによる世界初のプラジカンテル小児製剤の開発と承認を目指したプロジェクトです。開発した小児用製剤は、多様なパートナーが持ち寄る技術やノウハウの活用を通じて標的としている就学前児童、乳幼児を含む低年齢の児童に簡易に投薬でき、口腔内崩壊や味の改善を含め服薬時の利便性を向上させ、住血吸虫症流行国の気候に適した製剤を開発した画期的な取り組みであると言えるでしょう。コンソーシアムは現在臨床における第Ⅰ相試験を進めており、2015年後半期からは第Ⅱ相試験の開始が予定されています。

 

コンソーシアムを主導しているMerck KGaAは、プラジカンテル製剤の開発および製造に関するノウハウを提供しています。コンソーシアムを効率的かつ的確に執行するため、前臨床、臨床、薬事に関わる資源を持ち寄ることにより、本取り組みを強化しています。日本に本社を置くアステラス製薬は、同社の画期的な製剤技術を応用することにより、本製剤の有効成分の持つ苦みを最小限に抑えた初のプラジカンテル小児用製剤の開発に貢献しました。今後も、アステラス製薬は製剤開発における専門的アドバイスを引き続き提供し、小児における臨床開発、薬物動態モデルの構築、医療アクセスの分野における同社のノウハウや技術の提供を通じ貢献していきます。Swiss Tropical and Public Health Institute は、その広範な経験を生かして、寄生蠕虫の生物学的及び薬理学的な研究と、資源の乏しい環境にある流行地域での薬剤の有用性と有効性に関する臨床研究に貢献しています。FarmanguinhosはFiocruz財団に属するブラジル政府の医薬品研究所であり、小児用製剤の候補を生産し、住血吸虫症流行国内に流通するためのノウハウを提供しています。英国に拠点を置き研究型企業であるSimcyp Limitedは、小児臨床試験の適切な用量設定を予測するための薬物動態モデルの構築と検証に同社の知見を提供しています。オランダの非営利組織であるTI Pharmaは、このプロジェクトのガバナンスを促進する独立パートナーです。TI Pharmaは、顧みられない熱帯病領域において、研究開発に関する国際的な官民連携の広範なポートフォリオを有しています。

他(参考文献、引用文献など)

小児用プラジカンテルコンソーシアム、プロジェクトの運営チーム、開発プログラムに関する詳細はコンソーシアムのウェブサイトをご覧ください。

www.pediatricpraziquantelconsortium.org.

 

本コンソーシアムの活動の進捗や更新情報について半期に一度配信しています。ご興味のある方は下記からニューズレターのご登録をよろしくお願いします。

http://www.pediatricpraziquantelconsortium.org/nieuwsbrief.html

最終報告書

1. プロジェクトの目的

小児用プラジカンテル・コンソーシアムは、住血吸虫症の世界的疾病負担軽減を目指す国際的非営利パートナーシップです。就学前児童の住血吸虫症治療に適した小児用プラジカンテル製剤を開発・登録し、入手可能にすることを使命とし、現在Merck社、アステラス製薬などをはじめとする計8団体で構成されています。

 

2. プロジェクト・デザイン

開発した小児用製剤は、就学前児童、乳幼児が飲みやすいように水がなくても口の中で溶ける工夫や味の改善が施されています。また、熱帯地域の気候に耐えうるよう設計されています。

GHIT Fundからの助成を受け、現在第II相臨床試験を完了し、2018年4月には第III相臨床試験を開始する予定です。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

コンソーシアムでは住血吸虫の駆虫作用をもち、かつプラジカンテルラセミ体よりも苦みが少ないと報告されているR-(-)-プラジカンテル(L-プラジカンテル)の新たな口腔内崩壊様製剤を開発することを目指しました。

コンソーシアムは、プラジカンテルラセミ体、およびその光学異性体の内の一方であるR-(-)-プラジカンテルの小児用口腔内崩壊様製剤の開発および最適化を行ってきました。

第I相試験の結果およびWHO NTD担当官や事前認証取得制度担当官を含むステークホルダーとの協議を踏まえ、第II相試験をコートジボワールで実施しました。第II相試験はL-プラジカンテルおよびプラジカンテルラセミ体の両方を用いマンソン住血吸虫症に感染した生後3か月から6才までの小児を対象に実施しました。

この第II相試験で得られた2歳から6歳までの小児でのデータに基づき、第III相試験はL-プラジカンテル口腔内崩壊様製剤の50 mg/kg用量で試験を行うことを決定しました。

これまでに欧州医薬品庁と複数回の協議を行い、第III相試験の試験デザイン(非盲検試験)およびR-(-)-プラジカンテルの薬理有効成分製造過程について合意に至っています。2015年には世界保健機構(WHO)とも、就学期前児童の住血吸虫症治療や小児用製剤開発についての意見交換を行いました。

コンソーシアムは、Merck 社からの金銭的支援およびプログラムレベルの支援、コンソーシアムのパートナーによる現物出資、、グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)(計470万米国ドル)からの助成金を受けています。また、第III相試験の実施においてはThe European & Developing Countries Clinical Trials Partnership(EDCTP)からも200万ユーロの助成金を受けています。