イベント

November 11, 2014

【イベント報告】第55回日本熱帯医学会大会・第29回日本国際保健医療学会学術大会合同大会「官民連携時代における人材育成」 パネルディスカッションGlobal Health Innovation Through Partnership

11月1日(土)、東京女子医大で開催された、第55回日本熱帯医学会大会・第29回日本国際保健医療学会学術大会合同大会「官民連携時代における人材育成」にて、パネルディスカッション「Global Health Innovation Through Partnership」を行いました。

 

座長とパネリストは以下の通り。

座長:遠藤弘良教授(第55回日本熱帯医学会大会大会長、東京女子医科大学国際環境・熱帯医学教室)

パネリスト:ロレンゾ・サビオリ博士(世界保健機関:WHO NTDs対策部門初代ディレクター)、スリングスビーBT(GHIT Fund CEO)、坪井敬文教授(愛媛大学プロテオサイエンスセンターマラリア研究部門)、マイケル・クリラ博士(米国アレルギー感染症研究所:NIAIDバイオディフェンス研究部門ディレクター)

 

 

 

座長の遠藤教授はパネルディスカッションの冒頭、世界中で問題になっている感染症を制圧するためには、グローバルヘルスR&Dの分野において新たなイノベーション創出が求められていることを指摘し、現状の課題や製品開発パートナーシップの成功・失敗の要因、そして今後日本のアカデミアがグローバルヘルスR&Dの分野でどのような貢献ができるかについてパネリストとともに議論を展開しました。

 

ロレンゾ・サビオリ博士は、WHO NTDs対策部門創設までの背景や歴史を振り返りながら、開発途上国のNTDsのための製品開発には、市場原理が機能していないことを改めて指摘するとともに、NTDs制圧のためにはイノベーション創出やパートナーシップ形成の枠組みが必要であることを強調しました。また、サビオリ博士は、「市場原理が機能しないことによって、イノベーション創出や新しい製品の開発のみならず、アクセス、製品の価格設定や製造にも大きな影響を及ぼしています。」と述べ、現状の課題を浮き彫りにしました。

 

GHIT Fund CEOのスリングスビーは、世界人口の約43%がNTDs、マラリア、結核などに感染するリスクにあり、約14%が実際にいずれかの感染症に感染しているという現状を紹介し、次のように述べました。「もしこれらの感染症の治療薬やワクチンを開発することで利益を得られるのであれば、非常に莫大な市場となるでしょう。しかし、2000年から2011年までにこれらの感染症のために創出された新規化合物はわずか1%しかなく、ほとんど製品開発が行われていないといっても過言ではありません。製薬企業にとっては製品開発を行うインセンティブが少ないために、新たなイノベーションへの投資が行われてこなかったのです。」

 

スリングスビーは、こうした状況を打開するために、グローバルヘルスR&Dの分野では、大学、研究機関、民間企業等がパートナーシップを構築し、それぞれの組織の強みを活かして製品開発を行う「オープンイノベーション」が近年増加していることを紹介し、有望な解決策になりうることを提案しました。

 

愛媛大学の坪井教授は、ワシントンDCに拠点を置く、PATHマラリアワクチンイニシアチブ(以下、PATH MVI)とのマラリアワクチンの共同研究開発の軌跡を振り返るとともに、お互いの強みや独創性を活かした研究開発体制の重要性を指摘し、それから新たなイノベーション、インパクト、効率性が生まれると語りました。「私たち愛媛大学が基礎研究を、PATH MVIが製品開発・臨床試験を実施するという、明確な役割分担があります。製品開発は非常に高度な技術が必要で、そしてとても複雑です。その複雑さがアカデミアと製薬企業との間にギャップを生み出します。製薬企業側からすると、アカデミアがどんな研究を行っているのか、どんなアイデアが生まれているのかがわからない一方で、アカデミアは、製薬企業のニーズや、価値や重点を置いている研究がわからないという、ギャップが生じているのです。」と坪井教授は指摘しました。

 

パートナーシップを構築することで、お互いの強みを活かしインパクトや効率性を生み出すことに加えて、製品開発における致命的なギャップを埋めることができます。そのギャップとは、「死の谷(Valley of Death)」と呼ばれる製品開発における難関・障壁のことを指し、有望な基礎研究に対して、今後資金、時間、その他の資源を投じるかどうかを決定する段階のことを言います。「死の谷」を乗り越え、基礎研究と製品開発を橋渡しすることは容易ではなく、特に、パートナーを製品開発側から選ぶのではなく、異なる専門領域のパートナーと組む場合はより困難になります。NIAIDのクリラ博士は、「このような場合に政府や公的機関が重要な橋渡しの役割を担うことができます。具体的には、基礎研究側が製品開発側とどのように協力することができるのかの理解を促し、お互いのニーズを見たし、協力関係を前に進めることができるのです。」と述べました。

 

さらに、クリラ博士は、イノベーションの創出こそ、アカデミアがグローバルヘルスに貢献できることであると指摘し、米国の製品開発の事例やパートナーシップの特徴を紹介するとともに、「アカデミアが生み出す革新的なアイデアを橋渡しし、製品として期待できる基礎研究を見い出すことは民間企業にとっても魅力的なことです。そうした領域こそ、私たちのような政府・公的機関が重要な役割を果たすことができるのです。」と述べました。

 

次に、グローバルヘルスR&Dの分野における日本の貢献へと話は進み、ロレンゾ博士はこれまでの日本のグローバルヘルスへの貢献や実績を大きく讃えました。戦後、国内における感染症、寄生虫病への公衆衛生対策が進んだことや、その経験や知見が活かされ、今世界基準になっていること、日本がイニシアチブを取りグローバルファンド設立への道を切り開き、そしてアジア・アフリカに感染症の研究拠点を立ち上げた経験などを語りました。

 

ロレンゾ博士は「日本はその功績に比べると、存在感は若干控えめな印象であると 私は思っています。世界にもっと日本の功績が認識されなければならないと考えています。なぜなら、戦後50年、日本から数多くの革新的が取り組みや貢献がなされてきたのですから。」と日本に対してメッセージを送りました。

 

シンポジウムの後半には、各パネリストから、グローバルヘルスに取り組む若い世代に向けてメッセージが贈られ、クリラ博士は、「新しい技術というのは、従来とは異なる観点から新しい問を立てることから生まれます。次世代の科学者にとって重要なことは、過去の世代が作り上げた成功を繰り返すことではなく、自分自身で新しい問を立て、答えを導かなければなりません。しかし、今は昔と比べて、問を解くために多くのアプローチ方法があります。次世代を担う皆さんは、自分たちが今解くべき問や課題が何なのかを見極めなければなりません。そこからイノベーションを生み出し、グローバルヘルスにインパクトを与えてほしいと思います。」とエールを贈りました。

 

坪井教授は自身の経験を回顧しながら、「日本の研究者は研究論文を発表し続けなければならないというプレッシャーと日々闘っています。しかし、私は論文を発表することに加えて、グローバルヘルスに貢献し、インパクトを与えるための研究をしてほしいと願っています。そのためには、自分自身の強み、専門性を磨いてください。そうすれば、世界中の人々とパートナーシップを築くことができるでしょう。」と述べ、パネルディスカッションを締めくくりました。