プレスリリース
急増するデング熱、マラリア、シャーガス病の医薬品開発に約15億2000万円を助成
2014年9月16日東京(日本)発 - 本日、グローバルヘルス技術振興基金(以下、GHIT Fund)は、開発途上国に蔓延する熱帯病(デング熱、シャーガス病、マラリア)に対する有望な治療薬およびワクチンの研究開発7件に対し、約15億2000万円の助成を行うことを発表いたします。GHIT Fundは、2013年4月の設立以降、世界の最貧困層の健康を脅かす様々な感染症の制圧に向けて、日本の技術、イノベーション、知見を活かしたグローバルな研究開発を推進してきました。今回の新たな助成によって、これまでの助成総額は約33億円に達しました。
GHIT Fund CEOのスリングスビーBTは次のように述べています。「今日、世界中で様々な感染症が再興し、国境を超えて大きな影響をもたらしています。GHIT Fundは、グローバルな感染症との闘いの一環として、本日新たな助成案件を発表し、新薬開発を推進していきます。GHIT Fundの設立以降、これまでの投資は合計29案件、総額33億円を超えました。世界の40億人を超える人々が日々感染症のリスクに曝されているなか、GHIT Fundは人々の健康に対する投資を継続していきます。」
また、GHIT Fund会長の黒川清は、今回の助成発表にあたり次のように述べています。「グローバルな規模での技術開発・応用が進めば、日本の先端技術はより大きなインパクトを与えることができるでしょう。」
開発途上国の感染症制圧に向けてグローバルな連携、医薬品開発を加速
GHIT Fundは、開発途上国で蔓延する感染症を対象として、これまでに20を超える医薬品開発プロジェクトに対して助成を行ってきました。2013年11月に第1回目となる助成案件を発表し、マラリア、結核およびシャーガス病の治療薬およびワクチン開発に対して総額約5億6000万円を助成しました。2014年3月に第2回目の発表を行い、結核、シャーガス病、住血吸虫症、およびフィラリア症の治療薬およびワクチン開発に対して総額約12億円を助成しました。
開発途上国に蔓延する熱帯病の医薬品開発には市場原理が働きにくいため、GHIT Fundのような官民パートナーシップによる研究開発支援が必要不可欠です。GHIT Fundは今後も世界の最貧困層の命を救い、健康を改善する可能性のある有望な研究開発に対する支援を行って行きます。
GHIT Fundがこれまでに助成した案件についての詳細は、GHIT Fundウェブサイト内、「GHIT Fund Portfolio」のページからご覧頂くことができます。
※ パートナーシップの欄、右肩に*がついている団体が助成金受領者。
【デング熱ワクチンの開発】
一般財団法人化学及血清療法研究所(化血研)が、マヒドン大学分子生命科学研究所ワクチン開発センターの協力を得て実施しているデング熱ワクチン開発に対して、約3億4502万円を助成します。同パートナーシップが現在実施中の試作ワクチンの最適化研究の結果を踏まえて、今後GHIT Fundは、非臨床試験及び関連する試験方法の確立に対して助成を行っていく予定です。デング熱は蚊が媒介する感染症で、世界で最も蔓延している熱帯病の一つですが、いまだ効果的な治療薬やワクチンがありません。世界保健機関(WHO)によれば、デング熱の深刻な流行は、1970年以前は9か国のみにとどまっていましたが、現在ではその数は100ヵ国を超え、感染者は毎年1億人にのぼるとされます。入院患者は約50万人、毎年何万人もの人々がこの病気で亡くなっていると推定されており、犠牲者のほとんどが子どもです。
【シャーガス病ワクチンの開発】
シャーガス病に対するワクチン開発を行う、セービン・ワクチン研究所(Sabin Vaccine Institute)、ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)、エーザイ株式会社(製薬企業)、およびアエラス(Aeras、ワクチン製造に関わる非営利団体)のシャーガス病に対するワクチン開発のためのパートナーシップに対して約2億円を助成します。シャーガス病は、いわゆる「サシガメ」とよばれる吸血昆虫によって媒介される病気です。シャーガス病は、中南米で寄生虫による死亡の最大の原因となっており、現在全世界で約750万人が罹患しているとされていますが、感染に気付かずに未治療のまま放置している人が多く、その結果、深刻な心疾患や腸管障害を誘発し、死に至ったり重大な身体障害の大きな原因となっています。今回助成対象となったプロジェクトでは、新規のアジュバントを含む新しいワクチン製剤の開発を目指しています。新規の抗シャーガス病ワクチンによって、シャーガス病による心臓合併症を防ぎまたは発症を遅らせることで、年間1万人以上の死を防ぐことができると期待されています。
【マラリアワクチン・治療薬の開発】
次に、2種類のマラリアワクチンと3種類のマラリア治療薬の研究開発に対して総額約9億8231万円を助成します。マラリアで亡くなる人々は毎年65万人を超えますが、その大部分はサハラ砂漠以南のアフリカの5歳以下の子どもたちです。マラリアによる死亡数は、医療の大幅な進歩や公衆衛生対策の拡充により、この10年間は減少に転じていますが、殺虫剤や抗マラリア薬への耐性に関する懸念が新たに増大しており、新しい治療薬およびワクチンの開発が急務となっています。今回のGHIT Fundが助成するプロジェクトは、マラリア制圧に向けたグローバルな取り組みの一環として大きな可能性を秘めています。
マラリアワクチン
マラリア1件目は、PATHマラリアワクチンイニシアティブ(MVI)と愛媛大学のパートナーシップが実施するマラリアワクチンPf75の研究開発に対して約7660万円を助成します。このワクチンは、伝搬阻止ワクチン(Transmission-blocking vaccine)と呼ばれ、人から蚊へのマラリアの感染を阻止することができます。そのため伝搬阻止ワクチンは、現在マラリア対策に用いられている蚊帳、殺虫剤、治療薬等と併用することで、マラリアの制圧に不可欠と考えられています。しかしこれまで、伝搬阻止ワクチン候補抗原はごくわずかで、いずれも開発には至っていません。本プロジェクトは、愛媛大学が見出した新規伝搬阻止ワクチン候補Pf75をMVIと共同で前臨床試験に向けて開発を加速することが期待されます。
マラリア2件目は、欧州ワクチン・イニシアティブ(European Vaccine Initiative)、大阪大学微生物病研究所、およびブルキナファソ国立マラリア研究センター (Centre National de Recherche et de Formation sur le Paludisme)に約9999万円を助成します。研究対象となるBK-SE36とよばれるワクチンは、マラリアによる乳幼児の死亡率を大幅に軽減することが期待されます。このプロジェクトでは、ウガンダで実施された臨床試験の好結果を踏まえ、このたびブルキナファソにおいて、0歳から5歳までの乳幼児を対象とした有効性と安全性の確認のための臨床試験を行います。上記のほか、2013年からGHIT Fundの助成を受け実施したワクチンへの反応を高めるためのアジュバント(免疫腑活化剤)の日本人成人男性での安全性試験について、その追跡調査も実施される予定です。
マラリア治療薬
マラリア3件目は、セント・ジュード小児研究病院、エーザイ株式会社およびMedicines for Malaria Venture(以下MMV)の経口抗マラリア薬(SJ733)の開発のためのパートナーシップに対して約3億7689万円を助成します。このパートナーシップでは、蔓延地域の臨床現場に適した、1回の服薬で即効性と安全性に優れ、持続的な治癒と再発防止も併せて期待できる配合経口薬の開発を目指します。配合剤の即効性を担うSJ733は非アルテミシニン系の化合物であり、現在、耐性が問題となっているアルテミシニン系の既存抗マラリア薬に効能がない患者に対しても有効であることが期待されます。
マラリア4件目は、MMVと武田薬品工業株式会社のパートナーシップに対して約1億2908万円を助成します。両パートナーは、本助成を通じてDSM265とOZ439の2種類の抗マラリア候補薬を組み合わせた初の試験を実施します。この2種の薬剤はこれまで個別に開発されてきましたが、単回投与で高持続性の併用療法として有望視されています。WHOは、薬剤耐性の発現を低減する手段として、最も致死性の高いマラリアには2種の混合薬剤で治療することを推奨しています。今回の助成対象となる研究では、少人数の健康な被験者を対象とした併用療法の安全性と有効性の試験を行います。なお、同パートナーシップは、DSM265の研究に関して2013年にGHIT Fundから助成を受けています。
マラリア5件目は、ブロード研究所(Broad Institute)とエーザイ株式会社の新規抗マラリア薬研究のためのパートナーシップに対して約2億9975万円を助成します。今後、臨床試験に進めるための最良の候補薬を、これまでに見出されている一連の化合物の中から評価を進めて特定していきます。この研究では、マラリアを迅速に治癒し、マラリア原虫の伝播を断ち切ることでマラリアの再燃を防ぐ経口薬の開発を目指しています。
GHIT Fundについて
公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、開発途上国に蔓延するHIV/AIDS、結核やマラリア、顧みられない熱帯病(NTDs)のための医薬品、ワクチン、診断薬の研究開発および製品化の支援を行う国際的な非営利組織です。日本国政府、日系製薬企業、ビル&メリンダ・ゲイツ財団により、共同設立されたグローバルヘルス分野の製品開発に特化した日本初の官民パートナーシップです。日本と海外の研究機関の連携促進や助成金交付を通じて新薬開発を促進し世界の最貧困層の健康改善、開発途上国の経済発展に貢献します。GHIT Fundについての詳細は、https://www.ghitfund.org/jpをご参照ください。