プレスリリース

January 23, 2023

グローバルヘルス技術振興基金が支援する 就学前児童における新たな住血吸虫症小児用治療オプション「arpraziquantel」、欧州医薬品庁(EMA)への承認申請手続完了

  • GHIT Fund設立以来、承認申請に辿り着いた初めての薬
  • GHIT Fundは2013年からメルク社、アステラス製薬を含む小児用プラジカンテル・コンソーシアムの臨床試験を支援、総額18.5億円を投資
  • 小児プラジカンテル・コンソーシアムが開発したarpraziquantelは、住血吸虫症に感染している推定5,000万人の就学前児童の健康状態を改善する治療オプションとして期待

 

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(以下、GHIT Fund)が2013年から約9年間にわたって支援してきた小児用プラジカンテル・コンソーシアム*1による就学前児童(生後3か月から6歳)を対象にした住血吸虫症*2治療のための新たな治療オプション「arpraziquantel」について、この度、2022年12月に小児用プラジカンテル・コンソーシアムを代表してメルク社が欧州医薬品庁(EMA)への承認申請手続きを完了したことをお知らせします。

 

2013年のGHIT Fund設立以来、累積投資件数および累積投資金額は114件、284億円(2023年1月20日時点)になりますが、arpraziquantelは承認申請に辿り着いた初めての薬です。
顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)の一つである住血吸虫症は、特にサハラ以南のアフリカで多く発生し、世界で約2億4,000万人の人々の生活に影響を与えています。1970年代に開発された住血吸虫症治療の標準治療薬である「プラジカンテル(Praziquantel)」は、安全で効果的であり、成人と学齢期の子どもに使用できますが、主に就学前児童に適した製剤がないという理由で、約5,000万人の子どもが治療を受けられずに放置されています。

 

プラジカンテルを起源とするarpraziquantelは、小児用プラジカンテル・コンソーシアムが開発した新規の口腔内崩壊製剤です。推定5,000万人の就学前児童の住血吸虫症の治療オプションとして、子どもたちの健康状態を改善させることが期待されています。日本のアステラス製薬株式会社がその製剤を開発し、その後、ドイツのメルク社が製剤を最適化した後、ブラジルのファルマンギーニョ社に製造移管されました。この新たな製剤は150mgと小型で、就学前児童の服用に適した味覚特性を有しています。また、水と一緒に服用しても、水なしでも服用することもできる口腔内崩壊製剤で、アフリカなどの熱帯気候の高温多湿な環境にも耐えることができます。現時点で、arpraziquantelはいずれの国においても承認されていません。

 

2012年の小児用プラジカンテル・コンソーシアム設立以降、成人ボランティアを対象とした南アフリカでの第I相試験(2013〜2015年)、6~11歳の小児を対象としたタンザニアでの味覚試験(2015年)、3ヵ月~6歳のマンソン住血吸虫(S. mansoni)感染児童を対象としたコートジボワールでの第II相用量設定試験(2016年〜2018年)、そして、ケニアとコートジボワールで第III相試験(2018年〜2021年)が行われました。GHIT Fundは、2013年から同コンソーシアムの臨床試験を支援し、総額18.5億円の投資を行なってきました*3。

GHIT FundのCEOである國井修は、「今回の成果は、直接的に臨床試験に携わった小児用プラジカンテル・コンソーシアムの不断の努力に加えて、臨床試験に参画してくれた小児とその家族、コミュニティの協力がなければ実現することは不可能でした。多くの関係者の長年にわたる多大な支援に感謝を申し上げます。」

 

規制当局への申請手続きを完了し、現在小児用プラジカンテル・コンソーシアムは世界保健機関(WHO)の事前認証 や必須医薬品モデル・リストに arpraziquantelが収載される可能性を見据えて準備を進めています。また、arpraziquantel への公平かつ持続可能なアクセスを提供するための新しい仕組みを模索しており、arpraziquantelのアクセスプログラム「ADOPT」を通じて、蔓延国にこの新たな治療選択肢を大規模に届けるためのデータやベストプラクティスを収集しています。2024 年には、 サハラ以南のアフリカ諸国で非営利ベースでの製品供給を開始することを目指しています。

 

注記
* 1 小児用プラジカンテル・コンソーシアムについて
小児用プラジカンテル・コンソーシアムは、住血吸虫症の世界的疾病負担を軽減することを目指し、就学前の感染児の医療ニーズに応える、国際的非営利パートナーシップです。コンソーシアムには、メルク(ドイツ)、アステラス製薬株式会社(日本)、スイス熱帯公衆衛生研究所(Swiss TPH)(スイス)、リガチャー(オランダ)、ファルマンギーニョ(ブラジル)、SCI財団(英国)、KEMRI/ケニア医学研究所(ケニア)、フェリックス・ウフェ・ボワニ大学(コートジボワール)、ミュンヘン工科大学(ドイツ)、コートジボワール保健省、アフリカ健康開発研究所(ケニア)が参画しています。コンソーシアムの使命は、就学前児童の住血吸虫症治療に適した小児用プラジカンテル製剤を開発、登録して医療アクセスを提供することです。詳細については、コンソーシアムのウェブサイトをご覧ください。https://www.pediatricpraziquantelconsortium.org

 

* 2 住血吸虫症について
住血吸虫症は、サハラ以南アフリカで最も流行している寄生虫疾患の1つで、住血吸虫と呼ばれる寄生虫によって引き起こされます。これは、主に安全な飲料水を利用できず、衛生状態の悪い地域で、約2億4千万人 が影響を受け、年間約20万人の死亡が推定されています。寄生虫は淡水産貝の中に棲息し、ヒトに皮膚から侵入し感染します。この病気では、臓器の慢性的な炎症が生じることがあり、致命的であるだけではなく、貧血、発育不全、学習障害も引き起こし、幼い子どもたちの生命に壊滅的な結果をもたらす可能性があります。

 

* 3 GHIT Fundから小児用プラジカンテル・コンソーシアムへの投資
過去のプレスリリースより:https://www.ghitfund.org/newsroom/press/detail/329/jp