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September 10, 2026 Others

【タンザニア:実装研究サイトの報告】STEPPSプロジェクトにおける住血吸虫症への取り組み

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、就学前児童を対象とした住血吸虫症の新たな治療法の開発のため、小児用プラジカンテル・コンソーシアムに対し、累計約18億円の投資を行ってきました。近年、同コンソーシアムは世界保健機関(WHO)の事前認証を取得し、WHO必須医薬品モデルリストへの収載など、グローバル規模での極めて重要なマイルストーンを達成してきました。

 

また開発と並行して、各国の保健政策立案や導入決定を支援するための実装研究も進められています。その対象国のひとつであるタンザニアでは、タンザニア国立医学研究所(NIMR:Tanzanian National Institute for Medical Research)が主体となり、日本政府および国連開発計画(UNDP)が主導する「新規医療技術のアクセスと提供に関するパートナーシップ(ADP:Access and Delivery Partnership)」の支援のもと、実装研究を推進してきました。プロジェクトが重要な局面を迎える中、2026年2月には国内外のパートナー関係者を招き、小児用治療薬の提供開始を記念するローンチイベントが現地で開催されました。

 

アフリカ・タンザニアにおける住血吸虫症の現状

住血吸虫症とは、住血吸虫属の寄生虫によって引き起こされる急性および慢性の寄生虫疾患です。WHOによると、2024年には世界で2億5,000万人以上が予防的治療を必要としており、その疾病負荷の約94%がアフリカに集中しています。

感染は、中間宿主である淡水生貝から放出された寄生虫の幼虫(セルカリア)で汚染された淡水に人々が接触することで発生します。経口・経皮侵入した幼虫は体内で成虫に成長し、その成虫が産み落とした卵が体内にとどまり免疫反応を引き起こすことで器官を損傷します。この疾患は、慢性的な腸疾患や尿路生殖器疾患の原因となります。

特に子どもは影響を受けやすく、貧血や発育不全(発育障害)を引き起こすリスクが高いため、疾患の制圧に向けた小児対象の治療が極めて重要とされています。

 

出典: WHO https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/schistosomiasis

 

タンザニアにおける住血吸虫症への取り組み
 
タンザニアは、住血吸虫症の流行が特に深刻な国のひとつです。同国の「顧みられない熱帯病(NTD)戦略計画(2021〜2026年)」においても、住血吸虫症は引き続き公衆衛生上の最優先課題とされています。同計画では、特にビクトリア湖沿岸の湖沼地帯(Lake Zone)で感染リスクが極めて高いことが指摘されています。この地域では、水浴びや水遊びなどの日常生活を通じて、多くの子どもたちが感染の影響を受けています。

これに対しタンザニアでは、学齢期児童を対象としたプラジカンテルの集団投与(MDA: Mass Drug Administration)などの対策を進めてきました。しかし、これまでは幼い子どもに適した小児用製剤が存在しなかったため、同じく感染の危険にさらされている就学前児童までは治療が行き届いていませんでした。

 

タンザニアの「STEPPS プログラム」

小児用の新しい治療法の開発が進む中、GHIT FundはADPと連携し、新しい治療薬が供給可能になる際に、タンザニアの医療現場でスムーズに導入・展開できるよう保健システムの体制整備を支援してきました。

この取り組みの一環として、タンザニア国立医学研究所(NIMR)は「タンザニアにおける小児用プラジカンテル導入および普及に向けた能力強化プロジェクト(STEPPS)」を立ち上げ、3つのフェーズに分けて推進しています。

  • 第1フェーズ: タンザニア国内における就学前児童の小児用製剤の導入および投与に関する合意形成
  • 第2フェーズ: 就学前児童に治療薬を届けるためのツール(運用手法やガイドラインなど)の開発
  • 第3フェーズ: 2つの投与モデル(検査結果に基づいて投与する「検査・治療アプローチ」と、対象となるすべての子どもに投与する「集団投与(MDA)」)の検証・手法の探求

 

 


STEPPS プログラムが展開されるタンザニア


東アフリカと訪問地のエリア地図


ムワンザの街並み

 

現地視察を通じて

STEPPSプロジェクトの第3フェーズにおける治療薬投与の開始に合わせ、GHIT Fundをはじめとするステークホルダーが招待され、ビクトリア湖南岸に位置するタンザニア第2の都市・ムワンザにて、現地視察およびワークショップが開催されました。

初日、プロジェクトチームは「検査・治療(test-and-treat)アプローチ」のデモンストレーションを視察するため、センゲレマ保健センターを訪問しました。現場では子どもたちとそのご家族の協力のもと、最初の診察から診断検査、そして実際の投与治療に至るまでの一連の流れが公開されました。

 

 


ヘルスセンターの看板


ヘルスセンターの外観 Photo Credit:UNDP/Kumi Media


子どもに対するデモンストレーションの場面 Photo Credit:UNDP/Kumi Media.

 


尿検査による診断プロセスの説明場面 Photo Credit:UNDP/Kumi Media.


尿薬剤投与プロセスの説明


薬投与のインストラクション用紙

 

 

ステークホルダー・ワークショップ

滞在2日目は、多様なステークホルダーが一堂に会しました。本ワークショップの目的は、STEPPSプロジェクトにおける小児用製剤の提供開始を正式に宣言すること、タンザニア政府高官やパートナー機関が国内での本格的な展開・拡大に向けた戦略を議論する場を提供すること、そしてアフリカ全体の就学前児童への小児用製剤の普及を加速させるべく関係者間の連携を深めることにありました。

ワークショップの冒頭では、タンザニア国立医学研究所(NIMR)の主任研究員であり、元研究調整・促進ディレクターのポール・カジョバさん(Dr. Paul Kazyoba)がSTEPPSプロジェクトの概要を発表しました。スピーチでは、タンザニアとADPによる協働の歴史や、今回の薬剤投与開始に至る各フェーズの歩みが振り返られました。また、当時の保健省事務次官であったセイフ・アブダラ・シェカラゲ博士(Dr. Seif Abdallah Shekalaghe)による挨拶が行われ、タンザニア政府としても本プロジェクトの取り組みを極めて重要視している姿勢が示されました。その後、公式ローンチを記念してボックス・オープニング・セレモニーが執り行われました。

 

ビクトリア湖周辺の地域社会にとって、このパイロット研究の開始は、タンザニア政府が就学前児童向け治療プログラムの導入に道を拓き、子どもたちがより健康に成長できるよう支援していくことを意味しています。タンザニアの主要メディアである『The Citizen』誌もこのイベントを取り上げ、長年顧みられなかった「就学前児童の治療の空白」を埋めるべく、同国が主導的な役割を果たしていると報じました。

 

2026年8月時点で、STEPPSプロジェクトは「検査・治療アプローチ」および「就学前児童への集団投与(MDA)」を通じて、すでに10,000人以上の子どもたちに新しい治療法を届けており、最終的には25,000人以上まで到達することを目指しています。今回のワークショップは、プロジェクトの最も重要なフェーズを力強く推進するための勢い(モメンタム)を生み出す重要な機会となりました。同時に、これまで適切な製剤がなく治療対象から除外されていた6歳未満の子どもたちへ治療を拡大する、歴史的なマイルストーンとなりました。

 

GHIT Fundにとって、今回のような現地視察を含め、幅広いステークホルダーと直接対話・連携することは、支援する革新的な製品(イノベーション)がそれを必要とする人々に公平かつ持続可能な形で届くようにするために不可欠です。GHIT Fundは、このマイルストーン達成に貢献いただいたすべての関係者、そして今後の道のりをともに支えてくださる皆様に心より感謝申し上げます。

 

 


ポールさんと参加者


プロジェクトのポールさんとチームメンバー


GHIT Fundアクセスチームの小野田と子どもたち

 


保健省事務次官(当時) シェカラゲ博士による挨拶 Photo Credit:UNDP/Kumi Media.


ボックス・オープニング・セレモニー Photo Credit:UNDP/Kumi Media.


パネルディスカッション GHITからも浦辺が登壇