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November 6, 2025 Others

【ガーナ訪問レポート】マラリア流行地域での迅速診断薬開発とガーナでのパートナーシップ強化

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、マラリアの研究開発(R&D)への助成(投資)を行う国際機関として、低中所得国(LMICs: Low and Middle Income Countries)の研究機関やアカデミア、医療機関、製薬企業との協業を推進しています。これは、2023年度から始まった第3次5カ年計画「GHIT3.0」の主要な戦略目標の一つです。

 

今回、低中所得国とのより強固なパートナーシップ構築を目指し、GHIT FundのCEO國井修と投資戦略・投資マネジメントチームのマネージャー佐藤達彦が2025年7月中旬にガーナを訪問しました。ガーナ大学野口記念医学研究所や、ガーナ南部のケープ・コーストの研究拠点、現地の学校や診療所、在ガーナ日本国大使館、味の素ファンデーションによる母子栄養改善の取り組みなどを、愛媛大学プロテオサイエンスセンターマラリア研究部門の皆さんの協力のもと視察し、マラリア研究の現状を確認しました。

 

 

マラリアのまん延地域であるガーナ(西アフリカ)を訪問

 

●マラリアとは?

 

アフリカを中心に世界の熱帯・亜熱帯地域で流行しており、2024年12月に公表された世界保健機関(WHO)の最新報告によると、2023年の1年間に約2億6300万人がマラリアに感染し、約59万7,000人が死亡しています。このうち95%の死亡者がアフリカ地域で発生しており、特に小さな子どもたちへの影響が深刻です。さらに近年マラリアの感染者数が増加傾向であり、重要な課題となっています。

 

出典(WHO): https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/malaria

 

 

●迅速診断薬の開発に向けて

 

ガーナでは様々なマラリア対策が進められていますが、WHOによると、2023年にはガーナ国内で年間推定660万人がマラリアに感染し、約11,500人が死亡したと報告されています。近年、無症状のマラリア感染者が感染拡大のリスクとなっているため、超高感度な診断薬の開発により無症状マラリアの診断や治療効率の向上によって、感染防止への貢献が期待されています。

 

出典(WHO) https://www.who.int/publications/m/item/malaria-2024-gha-country-profile

 

 

今回のガーナ訪問では、首都アクラの先端研究施設および地方の医療機関の視察を行いました。地方では検査データ等を手書きで記録したり、子どもの体重を「吊りはかり」で測定するなど、アナログな方法が用いられており、医療機関では顕微鏡などの医療機器や医薬品が不足するなど、地域での医療格差が見て取れました。

 


Ewimにある国立の診療所内のラボ


吊りはかりでの体重測定


 

 

また現地の学校を訪れ、迅速診断薬のフィールドワークが行われる様子や、子どもたちの血液サンプルを採取する様子なども見学。マラリアによる死者の約8割が免疫力の弱い5歳未満の子どもであることから、家庭や地域社会におけるマラリア予防は子どもたちにとって非常に重要です。

 


現地の学校での迅速診断薬のフィールドワークが行われる様子


現地の学校での迅速診断薬のフィールドワークが行われる様子


ガーナの子ども達と

 

野口英世の縁の地:ガーナ

 

ガーナは野口英世が黄熱病研究の志半ば、1928年に命を落とした地です。日本政府により野口英世博士の功績を記念して、対アフリカ医療支援の象徴的な研究施設としてガーナ大学野口記念医学研究所が建設され、同研究所は過去40年間に渡り、日本の研究機関との共同研究を通じ、現地の感染症制圧を目的とした活動を続けています。

 


野口英世記念館(コレブ病院内)


ガーナ大学野口記念医学研究所


ガーナ大学野口記念医学研究所

 

ガーナ大学野口記念医学研究所では、野口英世アフリカ賞委員会の委員長も務めるGHIT Fund CEO國井修による「感染症と闘うための研究開発を加速し、イノベーションを促進するには」と題した特別講演が行われました。野口英世アフリカ賞は、感染症のまん延という人類共通の脅威に対し、特にアフリカでの感染症や疾病対策および公衆衛生の推進に顕著な功績を挙げた個人または団体を表彰する国際的な賞であり、野口英世博士の志を継ぎ、感染症の克服と公衆衛生の推進に寄与しています。國井は、ガーナの若い研究者の皆さんに向けて、研究開発の重要性やこれからの活躍に対する大いなる期待を熱く語り、講演後には活発な質疑応答が交わされました。

 


講演をする國井


ガーナの研究者のみなさん


在ガーナ日本国大使館にて。野口英世が当時使用していた顕微鏡

 

栄養失調も大きな保健課題

 

また、ガーナでは、感染症だけでなく、国民の死亡・障害を引き起こす最大の危険因子としての栄養失調が深刻な保健課題となっています。栄養失調は、胎児・乳幼児の身体と脳の成長を遅らせる発育阻害の要因となる上、マラリアの重症化リスクを高める貧血も引き起こします。さらに5歳未満の乳幼児や妊婦はマラリアによる健康被害が特に大きいため、栄養・貧血・マラリアの課題を同時に考える統合的なアプローチが求められています。今回GHIT Fundは公益財団法人味の素ファンデーションの協力のもと、アクラ市内でのガーナ政府保健サービス(Ghana Health Service: 以下GHS)の施設や医療機関での活動を視察しました。味の素ファンデーションは母子栄養改善の取り組みにより、GHSとの協働によって母親の行動変容促進と、栄養改善の具体的解決策として子どもの生育のための補助栄養「KOKO Plus®」を推奨する等の活動を実施しています。医療面の支援のみならず、栄養面での支援もまた現地でのマラリアの制圧には不可欠であることを認識しました。

 


母子への栄養改善指導


母子手帳に描かれた月齢ごとの食事例


ガーナ政府保健機関の看護師さん

 

GHIT Fundは今後も、アフリカ諸国の研究機関との強力なパートナーシップにより、現地のニーズや状況を踏まえた研究開発を積極的に支援していきます。

 

 

参考: https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2022_00020.html