Investment

プロジェクト

フラビウイルス感染症治療薬創出に向けた新規抗ウイルス活性ヒット化合物の最適化研究

イントロダクション/背景

イントロダクション

デング熱やジカ熱は、サハラ砂漠以南のアフリカ、南米、東南アジアで猛威を振るっているフラビウイルス感染症です。気温上昇や降雨パターンの変化といった気候変動の影響によって、疾患を媒介する蚊の生息域が広がり、世界で推定39億人が感染リスクにさらされています。これらの感染症には、現時点で有効な治療薬が存在しません。そのため、重症化を防ぎ、感染拡大を抑えるための新たな医療手段の開発が強く求められています。私たちはGHIT-Fund支援下で実施した前回のスクリーニングプロジェクトにおいて、ウイルスの複製に不可欠なタンパクの機能を阻害し、哺乳類細胞内でのウイルス増殖を抑制する複数の化合物を見出しました。本プロジェクトでは、これらの化合物を出発点として、フラビウイルス感染症治療薬候補化合物へと発展させるための最適化研究を進めます。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトでは、前段階で同定された化合物群を基盤として、デングウイルスおよびジカウイルスの複製抑制効果を示すリード化合物を創製することを目指します。そのために、化合物の抗ウイルス活性を向上すると同時に、溶解性・脂溶性といった物性、代謝安定性、安全性など、抗ウイルス薬として求められる多面的な薬剤特性を兼ね備えた化合物をデザインしていきます。最終的には、前臨床モデルにおけるウイルス量を低下させ、次段階の医薬品開発へ進めることが期待される有望なリード化合物を同定します。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトでは、化合物の最適化を効率的に進めるためにAIを活用したメディシナルケミストリーを導入し、化合物設計、合成、評価、そしてAIによる学習を短い周期で連続的に実施する体制を整えています。生化学的評価および細胞を用いた抗ウイルス活性評価とともに、溶解性や脂溶性、代謝安定性など薬としての適性に関わる情報を取得しながら次の設計に反映させます。こうした評価結果はAIに蓄積され、化合物設計の精度を高めていきます。さらに、DNDiは高度な抗ウイルス活性評価ならびに初期安全性評価を実施し、JIHSでは複数のウイルス株や宿主細胞を用いた評価を実施することで候補化合物のフラビウイルスに対する生物学的妥当性を検証していきます。これらの情報を総合的に活用しながら化合物最適化研究を進め、最終的には有望な化合物について前臨床モデルを用いた薬効評価試験に進め、高質なリード化合物の創出に繋げます。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

フラビウイルス感染症は、特に医療体制が十分でない低・中所得国で、健康面・経済面の両方に深刻な影響を与えています。フラビウイルス感染症のワクチンは開発されているものの、利用できる地域や接種機会が限られており、加えて有効な治療薬が存在しない現状では、流行が拡大した際に公衆衛生へ与える影響はきわめて大きくなります。本プロジェクトにより新たな抗ウイルス薬候補が創出されれば、感染症の進行抑制および重症化リスクの低減に資する治療薬開発への道筋が示されるとともに、こうした治療薬は将来の大規模流行への備えとしても重要な役割を果たすことが期待されます。さらに、本プロジェクトで創出を目指す薬剤はコストを抑えた低分子医薬品であり、製造や流通の観点からも、低・中所得国におけるアクセス促進につながる可能性が高く、世界的な健康格差の是正にもつながると考えます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトには二つの革新的な点があります。第一に、現在承認された治療薬が存在しないフラビウイルス感染症に対して、新しいタイプの抗ウイルス薬の開発を推進していることです。既存の抗ウイルス薬とは異なる作用メカニズムを追求することで、将来の治療選択肢を広げ、薬剤耐性や新たなウイルスの脅威に備えるための強固な基盤を築くことが期待されます。第二に、限られた研究資源でも効率的にケミカルスペースを探索できるAI技術を活用している点です。化合物プロファイルを予測するAIモデルと生成AIモデルを組み合わせることで、抗ウイルス活性と医薬品として適した性質の双方を同時に最適化でき、従来のメディシナルケミストリーよりも少ない検証数で有望なリード化合物に到達できる可能性があります。この効率的なAI支援型アプローチは、研究資源が限られる熱帯病分野において特に有用であり、将来の創薬モデルとなることが期待されます。

各パートナーの役割と責任

本プロジェクトにおいて、エーザイは代表機関として研究全体を統括し、化合物の最適化、一次評価、物性や安定性に関わるデータの取得、さらにそれらの統合によるAIモデルの強化を担います。DNDiはより高度な抗ウイルス活性評価や安全性に関わる評価を通じて、リード化合物の選定に必要な科学的根拠を提供します。JIHSは複数のウイルス株や宿主細胞を用いた薬理学的評価により、化合物の作用メカニズムと生物学的妥当性を評価します。三者は定期的な戦略会議を開催し、得られたデータを共有しながら研究の方向性を議論し、化合物の進展判断や各種課題解決を迅速に行うことで、プロジェクト全体を確実に推進していきます。