Investment

プロジェクト

東アフリカにおける内臓リーシュマニア症 (VL) のWHO制圧戦略および、世界的な皮膚リーシュマニア症 (CL) 対策に貢献する革新的作用機序をもつ新規化合物の開発

イントロダクション/背景

イントロダクション

内臓リーシュマニア症 (VL) は、毎年世界で5万〜9万人の新規症例が発生すると推定されています。皮膚リーシュマニア症 (CL) は命にかかわる病気ではないものの、年間約60万人の新たな症例が発生しており、依然として大きな公衆衛生上の課題です。南アジアではVLの制圧に向けた取り組みが進んでいますが、現在では世界のVL症例の約73%が東アフリカに集中しており、その約半数は15歳未満の子どもです。こうした状況を受け、2024年に複数のアフリカ蔓延国が世界保健機関 (WHO) と協力し、東アフリカにおけるVLを公衆衛生上の脅威として制圧するための新しい戦略的枠組みを発表しました。

現在使用可能な治療薬の臨床データから、東アフリカでは原因となる寄生虫の種類や薬剤耐性の違いにより、南アジアより治療が難しいことが判明しています。そのことから、14日以内の治療期間で有効率90%を達成するためには、薬剤の併用が必要となる可能性が示されています。こうした課題に対し、DNDI‑6174は「これまでにない作用機序」を持つ経口治療薬候補として開発が進められています。副作用の懸念、コールドチェーンの必要性、治療期間の長さ、薬剤耐性といった現在のVL治療薬の課題を解決しうるもので、前臨床試験では高い有効性や寄生虫の完全排除の可能性、低い推定至適投与量、良好な安全性・薬物動態が確認されています。医療資源が限られた地域での使用にも適しており、現在開発中の他の新規化合物 (NCE) との併用療法においても重要な候補になり得ると考えられています。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトは、独自の作用機序を持ち、VLのみならず、CLやシャーガス病などを引き起こす幅広いキネトプラスト類寄生虫に対して有効性が期待される経口治療薬候補「DNDI‑6174」について、第I相初回ヒト投与試験まで開発を進めることを目的としています。

 

プロジェクト・デザイン

製剤開発: 薬剤製剤の製造を進め、第I相臨床試験に向けて治験薬を供給します。GMP‑1原薬及び製剤の安定性試験も継続します。

第I相臨床試験: 単回投与用量漸増試験 (SAD) で、安全性と薬物動態を評価します。マレーシアでの薬事および倫理審査の承認が得られ次第、セランゴール州のアンパン病院で、国際的な臨床研究基準とデータ保護基準に従って進められます。無作為化、二重盲検、プラセボ対照で、健常成人男女を対象とします。7つの用量コホート (開始は5mg) を設定し、各コホートはセンチネル用量から投与を開始します。被験者には、臨床検査、バイタルサイン、安静時心電図 (ECG) および24時間ホルター心電図モニタリングの実施、有害事象評価など、集中的な安全性モニタリングを行います。盲検化されたデータを専門委員会が評価し、事前に定めた基準に基づき次の用量へ進むかを判断します。

DNDiは本試験において信頼性が高く効率的な生物分析手法として、蔓延地域での将来の臨床試験に適した乾燥血スポット (DBS) 法を使用します。また、皮膚への薬物移行を評価する「皮膚マイクロダイアリシス法」の開発は、CLやカラアザール後皮膚リーシュマニア症 (PKDL) における治療効果の評価に役立ちます。さらに、母集団薬物動態解析の実施は、後期臨床試験段階における用量設定の指針となります。

DNDiの臨床および安全性担当スタッフはマレーシアに常駐し、試験の管理と高品質な実施を担保します。

胎児初期発生試験に関する非臨床試験や生理学的薬物動態モデリングの結果は、妊婦の組み入れ可否の検討や避妊要件の緩和、併用療法ガイダンスの策定に活用します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

VLは、医療資源が限られた地域で蔓延する深刻な寄生虫疾患です。南アジアではVLの症例数が減少している一方、東アフリカではいまだ世界の症例の73%を占めており、新たな症例の約半数は15歳未満の子どもです。また、CLも毎年約60万人に影響を及ぼしています。2024年には、WHOとアフリカの蔓延国がVL制圧を目指した新たな戦略的枠組みを発表しました。

DNDI‑6174は、副作用の懸念や、長期入院を伴う治療、コールドチェーン管理など、現在のVL治療が抱える大きな課題を克服するために設計された新しい経口治療薬候補です。これまでの研究では、高い有効性と良好な安全性が示されており、寄生虫を完全に排除できる可能性も示唆されています。安全性と有効性が確認されれば、DNDI‑6174は、カラアザール後皮膚リーシュマニア症 (PKDL) やVLとHIVの重複感染を含むリーシュマニア症制圧の取り組みを、大きく前進させると期待されています。また、治療後の再発リスクや感染伝播の低減にも寄与し得ます。さらに、投与期間の短い経口薬であることから、遠隔地や医療資源が限られた環境にも適した治療選択肢となります。

DNDI‑6174は、現在の治療薬やDNDi研究開発パイプライン上の他のリーシュマニア症治療薬候補とは異なる新しい作用機序を持つ化合物であり、先細りが懸念されるパイプラインを補完するうえでも重要です。また、東アフリカで有効性の向上が期待される併用療法を検討するための重要なデータを提供し、この地域のVL制圧目標の達成に貢献することが期待されています。さらに、CLやシャーガス病に対する効果も期待されており、将来的な製造スケールアップの面でも利点があります。加えて、低コストで、外来治療に適していること、併用療法の一部として活用できる可能性など、複数の利点があります。

DNDI‑6174は、現在開発が進んでいる数少ないVL治療薬候補のひとつであり、WHOが求める主要な基準も満たしています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

このプロジェクトは、顧みられない熱帯病 (NTDs)、特にVLの治療において、いくつかの重要な革新をもたらします。

1.新しい作用標的で寄生虫を攻める

DNDI‑6174は、現在のVL治療薬とは異なる寄生虫のシトクロムbc1複合体を標的とする、新しい作用機序を持っています。これにより、より短期間で治癒の可能性がある経口併用療法の実現が期待され、非臨床試験では寄生虫を完全に排除できる可能性 (いわゆる「完全治癒」) も示されています。そのため、カラアザール後皮膚リーシュマニア症 (PKDL) の予防や、VLとHIVの重複感染者の治療にも役立つ可能性があります。

2. 単剤で複数の疾患に効果を発揮する可能性

DNDI‑6174はVLだけでなく、CLやシャーガス病など、関連する複数の寄生虫疾患に効果を示す可能性があります。この異なる寄生虫に対する抗寄生虫活性は、公衆衛生上のインパクトを高めるだけでなく、継続的な製造体制の構築にも有利に働きます。

3. 医療資源が限られた地域向けに設計

DNDI‑6174は入院や冷蔵を必要としない経口錠剤です。安全性と薬物動態の特性から、最小限の医療モニタリングでの投与が期待されています。また、投与量が少なく、治療期間も短いと予測されているため、患者の服薬遵守の改善にもつながります。

4. 極めて低い治療コスト

大量生産時に低コストで製造できると見込まれており、安全性と有効性が確認されれば、治療費が150ドルを超えることもある現在の選択肢と比べて、大幅に低い治療コストとなります。

5. 初期臨床試験の新しい実施モデル

マレーシア・セランゴール州のアンパン病院で第I相初回ヒト投与試験を開始することは、初期臨床試験を高所得国だけでなく、中所得国でも実施するという戦略的な転換を示しています。これにより、地域の研究開発能力を強化し、公平なグローバル創薬モデルの新たなかたちを切り開くことにつながります。

各パートナーの役割と責任

DNDiは、プロジェクト全体の統括と管理を担います。第I相臨床試験のスポンサーとして、医療ガバナンス、安全性、薬事、非臨床、その他の横断的な業務を担当します。

エーザイは、化合物の製剤開発と、第I相臨床試験に使用する治験薬 (プラセボを含む) の供給を担当します。

他(参考文献、引用文献など)

(1) DNDI-6174 is a preclinical candidate for visceral leishmaniasis that targets the cytochrome bc1. Science Translational Medicine: Braillard S. et al. DNDI-6174 is a preclinical candidate for visceral leishmaniasis that targets the cytochrome bc1. Sci.Transl.Med.;15,eadh9902(2023). DOI: 10.1126/scitranslmed.adh9902

(2) Short-course combination treatment for experimental chronic Chagas disease González S, Wall RJ, Thomas J, et al.. Sci Transl Med. 2023;15(726):eadg8105. doi:10.1126/scitranslmed.adg8105

(3) Quantitative analysis of DNDI-6174 using UPLC-MS/MS: A preclinical target site pharmacokinetic study. Journal of Chromatography B. Schouten WM, Van Bocxlaer K, Rosing H, Huitema ADR, Beijnen JH, Kratz JM, Mowbray CE, Dorlo TPC. 2025 https://doi.org/10.1016/j.jchromb.2025.124652