Investment

プロジェクト

抗マラリア活性を有する新規ヒット化合物の特性検証

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

マラリア原虫の一種であるPlasmodium falciparumにより、毎年2億人以上がマラリアに感染し、5歳未満の子供や妊婦を中心に40万人以上が死亡しています。現在のマラリア対策は主にアルテミシニン併用療法(ACTs)に依存していますが、全てのACTsに対する寄生虫の感受性が低下しており、非常に懸念される状況です。特に東南アジアや最近ではアフリカでも、パートナードラッグ(アルテミシニンと併用される薬剤)の耐性が明らかになっています。

以前、GHITの資金援助を受けて第一三共から提供された化合物ライブラリをスクリーニングし、抗マラリア活性を持つヒット化合物が特定されました。ヒット化合物の初期評価ではこれらがMMVの抗マラリア活性基準1を満たしており、ヒットバリデーションプロジェクトの魅力的な出発点となることが示されました。成功すれば新しいマラリア薬のリード化合物を生み出す可能性があります。

 

2.プロジェクトの目的

ヒット検証プロジェクトの目的は、抗マラリア活性に必要な最小限の構造や重要な特徴を調査するために少数の化合物を合成し評価することです。この研究では、以前のハイスループットスクリーニング(HTS)で見つかったヒット化合物の懸念点への対処方法を検討します。有望なデータが得られ、さらなる開発の可能性が見込まれる場合には、GHITのHTL(Hit-to-Lead)プログラムへの提案を行う予定です。

 

3.プロジェクト・デザイン

抗マラリア活性に必要な主要な特性を探求し、潜在的な問題に対処することに焦点を当てています。類縁化合物の設計の特徴の一つは、長時間作用する抗マラリア薬(予測されるヒトの半減期 T1/2 > 120時間)を実現するために、ヒット化合物シリーズの代謝安定性を向上させる修飾を見出すことに注力している点です。また、類縁化合物の脂溶性は約1.5から4.5の範囲にわたっており、これにより各種データ(抗マラリア活性、代謝安定性、細胞毒性など)と脂溶性(LogPやLogD)との相関関係を明らかにする手助けとなります。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

薬剤耐性の出現はマラリアとの戦いにおいて深刻な課題であり、特にアフリカでは死亡率が高く、健康危機を引き起こす恐れがあります。この問題に対処するため、MMVと第一三共は新しい作用機序を持つ抗マラリア薬の発見と開発に協力しています。特に、感染の予防と急性治療の両方に対応できる化合物の開発が重要です。

MMVは次世代抗マラリア薬に必要な特性を定義するため、広範なコミュニティと協力してターゲット候補プロファイル(TCPs)2を確立しました。その主な特性として、短時間で効果を発揮し持続性があること、既知の耐性に対して効果があり耐性リスクが低いこと、また子供や妊娠可能な女性が安全に使用できる安価な固定用量の併用薬として開発可能であることなどが挙げられます。HTSで同定した初期ヒット化合物のプロファイリングでは、これらの基準を満たす化合物が存在する可能性が示唆されています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

新たに探求されるべき化合物シリーズは、化学構造の新規性、ライフサイクルのフィンガープリント、そしてMMVポートフォリオにおける戦略的ギャップを埋める影響度に基づいて優先順位を付けられています。ヒットからリードへの提案は、MMVが定義したヒット化合物の基準を満たし、既存のMMVポートフォリオにあるシリーズと明確に異なり、さらなる開発の可能性がある場合にのみ行われます。このプロジェクトで調査される化合物シリーズは、現在使用されている抗マラリア薬や臨床パイプラインの化合物とは異なる、新しい薬理的化学構造と作用機序を持っています。

各パートナーの役割と責任

プロジェクトの指定パートナーであるMMVは、合意されたタイムラインと予算に従って作業計画を遂行し、GHITへの報告も担当します。プロジェクトは、第一三共とMMVの科学者およびプロジェクトマネージャーからなるチームによって実施され、全ての活動を管理します。研究は、第一三共、MMV、およびMMVのパートナー評価機関との協力により遂行されます。

第一三共は化合物の設計を担当し、MMVはTCGライフサイエンス(インド・コルカタ)に化合物の合成や重要な評価(抗マラリア活性、細胞毒性、脂溶性、溶解性、蛋白結合率、代謝安定性)を委託します。その他のアッセイは、MMVネットワークの評価機関や適切なCROによって実施します。

すべてのプロジェクトデータは、MMVが管理する共有データベースに登録され、両パートナーがアクセス可能な状態で整備され、情報の透明性と効率的なデータ管理が確保されます。

他(参考文献、引用文献など)

(1) https://www.mmv.org/frontrunner-templates

(2) Burrows, J. N., et al. New developments in anti-malarial target candidate and product profiles. Malar. J. 16:26 (2017).

最終報告書

1.プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、ヒット化合物MMV1893632がHit-to-Leadの基準を満たし、さらなる開発の可能性があるかを確認することでした。ミニマムファーマコフォアを特定し、HTSヒットの初期特性評価(S2020-113)で特定された懸念点の解決可能性を調べるため、少数の類縁化合物群を設計・合成・評価しました。

 

2.プロジェクト・デザイン

類縁化合物群のデザインは代謝安定性の向上に焦点を当て、最終的に低用量・長時間作用型抗マラリア薬候補に繋がる後期リード化合物の創出を目指しました。また、デザインにおいては、sp3炭素の高い割合を維持し“ドラッグライク”な物理化学的特性と高い活性を維持するために必要な特徴の特定も考慮しました。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

化合物群の強み(高い活性や低い細胞毒性など)を確認したことに加え、代表化合物(MMV2480424)がプロフィリン(PFN)遺伝子に関連する新規な抗マラリア作用機序(MoA)を有することが示されました。PfPFN(Plasmodium falciparum PFN)は、細胞骨格に関与する重要なアクチン結合タンパク質であり、マラリア原虫ライフサイクル全体にわたって発現しており、アクチン重合は運動性を必要とするすべての段階において重要です。よって、PfPFNはマラリア原虫ライフサイクル全体にわたって効果を発揮する可能性のある新しい抗マラリア薬の標的です。このような活性を示す薬剤は、化学予防において予防効果の持続時間の延長などの追加的かつユニークな機会を提供することが期待されます。

また、さらなる開発に向けた主要課題として、脂溶性の低下が代謝安定性の改善をもたらすという結果が一部得られているものの、一連の類縁化合物群はin vitroおよびin vivoのいずれにおいても速やかに代謝されることが確認されました。

得られたデータパッケージに基づき、MMVと第一三共は、マラリア原虫ライフサイクル全体に関与するPfPFNに対するヒット化合物をHit-to-Lead研究へ進めることを提案しました(GHIT-RFP-HTLP-2025-001)。マラリア治療および伝播阻止活性を有する化学予防に対する標的妥当性も検証していきます。