Investment

プロジェクト

熱帯熱マラリアを予防するモノクローナル抗体の臨床試験薬の製造
完了プロジェクト
最終報告書

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

サハラ以南アフリカの小児における熱帯熱マラリア対策の新たなツールとして、マラリアモノクローナル抗体(mAbs)に対する関心が近年著しく高まっている。2023年4月、世界保健機関(WHO)は「マラリア予防のためのモノクローナル抗体、優先製品特性(PPC)、および臨床開発」を出版し、mAbs開発の動機付けの指針となるグローバルな政策を決定した1

薬やワクチンとは異なり、予防用mAbsは1回の投与で感染や発症に対して迅速かつ強い防御を数ヶ月間もたらす。最初に、季節性の感染が多い地域に住むアフリカの小児の感染を減らすために使用し、将来的には、妊婦を含む感染リスクのある集団にも適用を拡大する。なお、選択された候補mAbは、RTS,S/AS01マラリアワクチンの臨床試験で、マラリアの感染から免れた方々から単離されたものである。

次の段階では、残りの非臨床開発を進め、候補mAbはGMP製造、マスターセルバンクおよび臨床試験薬に焦点を当て、臨床第Ⅰ相試験に準備する。

 

2.プロジェクトの目的

このプロジェクトの目的は、将来のヒトマラリア感染制御を含む概念実証試験のIND申請のために、GMP原薬およびGMP製剤の製造を完了することである。このプロジェクトの長期的な目標は、サハラ以南のアフリカで季節的なマラリアの流行地に住む小児を対象に、WHOより熱帯熱マラリアを予防するmAbとして推薦されることである。

1) GMP基準での候補mAb原薬の製造及びリリース

2) GMP基準での候補mAb製剤の製造

3) 臨床試験に必要な薬物動態(PK)及び抗薬物抗体(ADA)測定試薬の開発

4) IND申請を準備し、臨床第Ⅰ相試験の準備を開始

 

3.プロジェクト・デザイン

本プロジェクトは、先行研究の成果を基盤とする。すなわち、

1) mAbを製造のプレマスターセルバンクの確立

2) GLP毒性試験と大量生産のためのmAbの製造プロセスの最適化

3) 皮下注射に対応した高濃度mAbの安定性を高める製剤開発

4) 非臨床および臨床開発プログラム、特にヒト初回投与試験(FIH)試験をサポートする非臨床毒性試験に関する米国FDAとのpre-IND会議の実施

本プロジェクトは、ウイルスクリアランスと標準品の性状解析を伴う原薬(DS)の製造から開始する。原薬の製造・リリースが完了した時点で、FIHに用いる製剤を製造・リリースする。

候補mAbに対して適切な親和性と特異性を有する抗イディオタイプマウス抗体パネル等、臨床試験の際のPKおよびADAアッセイ用の試薬を作製する。

最後に、臨床第Ⅰ相試験のための薬事パッケージの準備を行う。関係者は、全員協力してFIH試験のための薬事パッケージを作成する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

媒介蚊対策用の長期残効型の蚊帳(LLIN)、殺虫剤の屋内残留散布(IRS)、短時間作用型の抗マラリア薬など、現在のマラリア対策手段は、媒介蚊やマラリア原虫に薬剤耐性が出現し問題となっている。現在使用可能な抗マラリア薬の中には、無症状の患者でも完治できるものもあるが、集団治療(MDA)は実行困難なところもある。最近のMDAでは、感染をゼロにできず、MDAを中止するとリバウンドすることもあった。現在のマラリアワクチンは、雨季の前に接種すると比較的高い予防効果を発揮するが、初年度3回、その後毎年追加接種が必要である(季節性マラリア薬剤投与(SMC)と同様)2,3

効果の高いmAbsは、5歳未満の幼児、接種が十分ではない小児、妊婦、旅行者や移住者など、ワクチン接種のために診療所に複数回通うことができない高リスク群におけるマラリアを大幅に減らすことができる、新しいマラリア対策となる可能性がある。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

1) 本候補mAbは、RTS,S/AS01ワクチンで感染を免れた方々に由来する。標的抗原の不変領域に結合するため免疫淘汰圧を受けず有効性を維持し、また配列改変により血中半減期と効果が向上する。

2) 私達は「最終目標」を念頭に「一直線の視点」で商品価格(COGs)分析を行い、マラリア対策におけるmAbsの総合的商品開発政策計画(iPDPP)を策定する。これは、費用対効果と地域社会への受入れを評価し、ターゲット・プロダクト・プロファイル(TPP)にも反映させる。

3) 本コンソーシアムは、マラリアと製品開発において比類のない経験を有する国際非営利団体(PATH)、グローバルヘルスに深くコミットし、マラリアとmAbsに関する広範な研究、開発と商業化の経験を有する製薬企業2社(エーザイとGSK)およびマラリアに関する最高の学術研究機関(愛媛大学)で構成され、グローバルヘルスの世界クラスの経験が集約されている。

各パートナーの役割と責任

PATHは、製品開発とプロジェクト管理の経験を生かし、財務管理を含む助成金全体を管理する。さらに、PATHは、将来のFIH試験のためのIND申請用モジュールの準備に向けた取り組みを支援する。

エーザイは、原薬の製造およびリリースに関する取り組みを主導するとともに、トキシコロジーバッチの製造に関する専門知識を提供し、主要なパートナーとしてGSKのGMP製造の取り組みを支援する。

GSKは、GMP治験薬(CTM)の製造・製剤化、将来の重要な臨床試験をサポートするヒトPKおよびADA用試薬の製造、FIHのための薬事資料や会議の準備、およびFIHの準備活動を主導する。

愛媛大学はマラリアタンパク質の生化学的研究に20年間の取り組んできた歴史があり、候補mAbのリガンド結合能を評価するためのアッセイのトラブルシューティングを担当する。

他(参考文献、引用文献など)

1. World Health Organization website. Publications page. WHO meeting on preferred product characteristics for monoclonal antibodies for malaria prevention. https://www.who.int/publications/i/item/9789240060401. Accessed November 30, 2022.

2. Datoo MS, Dicko A, Tinto H, et al. Safety and efficacy of malaria vaccine candidate R21/Matrix-M in African children: a multicentre, double-blind, randomised, phase 3 trial. The Lancet. 2024;403(10426):533–544. DOI: 10.1016/S0140-6736(23)02511-4.

3. Dicko A, Ouedraogo J, Issaka Z, et al. Seasonal vaccination with RTS,S/AS01E vaccine with or without seasonal malaria chemoprevention in children up to the age of 5 years in Burkina Faso and Mali: a double-blind, randomised, controlled, phase 3 trial. The Lancet: Infectious Diseases. 2024;24(1):75–86. DOI: 10.1016/S1473-3099(23)00368-7

最終報告書

1.プロジェクトの目的

本プロジェクトは、マラリアモノクローナル抗体GSK-TC-001の第1相臨床試験に向けて、GMPに準拠した原薬および製剤の製造、品質および安定性、ウイルス除去試験の実施、薬物動態(PK)および抗薬物抗体(ADA)アッセイ試薬の開発、ならびに第1相臨床試験のための規制関連資料の作成、を目的に実施した。

 

2.プロジェクト・デザイン

本プロジェクトでは、GSK-TC-001原薬および製剤のGMP製造、品質および安定性試験、ウイルス除去の検証、PKおよびADAアッセイ試薬の開発、規制当局への申請や第1相臨床試験の書類作成を実施した。いずれも、マイルストーン、規格、およびGo/No-Go基準等、GMPおよびICHに準拠して完了した。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

本プロジェクトによりバイオ医薬品の製造から臨床試験準備段階に至る重要な教訓を得た。

第一に、技術移転、運用計画、および部門横断的な連携への早期投資が、スケジュールの維持と製造リスクの低減に重要である。正式なプロジェクト開始前に準備を完了したことで、GMP準拠した効率的なスケールアップができ、製造過程における遅延を軽減できた。パートナー、委託先、および各チーム間の強固な連携により、地理的に分散した活動でも迅速な意思決定と円滑な実行が可能であった。

第二に、製造、分析開発、安定性試験、アッセイ試薬の調製、および規制対応準備を並行して実施することである。この統合的なアプローチにより、開発期間の短縮とともに、品質やコンプライアンスを損なうことなく、リリース試験、ウイルス除去、臨床試験申請の準備等が同時に進行できた。

第三に、開発初期段階での安定した分析ツールと参照標準品の確立である。PKおよびADAアッセイ試薬の早期確立と特性評価により下流の分析体制が整い、臨床試験の遅延リスクが低減された。また、リリース規格、同等性評価、および安定性プロトコールの導入により、品質の一貫性が確保され、規制対応の準備が円滑に進められた。

第四に、規制戦略を含め柔軟性を維持することである。臨床試験許認可プロセスに向けた準備を米国から英国に移行した際、パートナー間の調整により、ヒト初回投与試験開始に向けて効率的に進めることができた。規制当局の専門家との早期連携による申請資料の先見的な準備が、臨床試験許認可に対する準備の効率化に寄与した。

最後に、複雑なバイオ医薬品開発では、統合的なプロジェクト管理と先見的リスク対応が重要である。製造スケジュール、原材料の出荷、ベンダー活動、および各パートナーの貢献を綿密に調整したことで、計画された第1相臨床試験のスケジュールに向けてすべてのマイルストーンを順調に進めることができた。