Investment

プロジェクト

新規作用機序を有し活性および安全性の向上したGwt1p阻害剤の最適化および前臨床研究

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

マラリアは蚊が媒介するPlasmodium属原虫によって引き起こされる感染症であり、アフリカの子供達を中心に2022年には約61万人の死者が出ている。近年はアルテミシニンに対する耐性がタイやカンボジア、ミャンマー、ベトナムを中心とした国々で出現し、耐性原虫に効果を示す抗マラリア薬の創出が早急に求められている。

本プロジェクトでは、新規作用機序であるグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)生合成阻害作用を有する抗マラリア薬の前臨床試験を行う。GPIは真核生物に共通するタンパク質を細胞表層につなぎとめる分子である。エーザイはGPI生合成経路の中のGwt1p酵素を抗マラリア薬の標的として見出し、その化合物をもとに、Hit-to-Lead Platformおよびリード最適化研究において非営利団体であるMMVと共同で候補化合物を創出した。今回、Gwt1p阻害剤のさらなる探索研究を実施し、バックアップとなる新たな候補化合物を創出することを目標とする。

 

2.プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、新たなGwt1p阻害剤を探索し、活性と安全性プロファイルが改善されたバックアップ候補を見出すことである。この目標を達成するために、以下の具体的な課題に向けて研究を実施する。

(1)2つの化合物群について最適化を行い、それぞれの化合物群から最も有望な1化合物ずつを選定する。

(2)(1)で選択した2つの有望化合物を種々の評価系で評価し、得られた結果に基づいて最も有望な化合物をLate Leadとして選定する。

(3)Late Leadの合成ルートを最適化し、GLP製造を実施する。

(4)非げっ歯類のDRF試験を実施し、この試験の完了後に化合物選定を行う。

 

3.プロジェクト・デザイン

本プロジェクトでは、2つのリード化合物群の化学修飾による最適化を行い、抗マラリア活性と安全性プロファイルを改善しながら、長い半減期を確保することを目指す。新規リード化合物群は、エーザイの筑波研究所で抗マラリア活性と細胞毒性の一次スクリーニング、中性pHでの溶解性およびin vitro代謝安定性アッセイ等で評価され、各化合物群から最も有望な1化合物ずつを有望化合物として選定する。2つの有望化合物は、抗マラリア活性、ラットDRF試験、安全性プロファイリング、ヒト用量予測、塩選択、耐性リスク評価、寄生虫ライフサイクルアッセイで評価され、最も有望な化合物をLate Leadとして選定する。次いで合成ルートの最適化を行い、GLP製造を実施する。その後に非げっ歯類DRF試験を実施する。最終目標は、エーザイおよびMMVでの化合物選択であり、2026年9月を予定している。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは依然として最も生命に脅威を与える病気の一つであり、特にサハラ以南のアフリカ諸国では多くの子供たちが依然として亡くなっている。これらの国では、子供たちはマラリアに対する免疫が低いため、何度も繰り返し罹患する。本プロジェクトでは、マラリア撲滅に貢献するため、新規かつ独自の作用機序(MoA)に基づくマラリア治療を提案する。感染症の制御と抑制、特に根絶のために、媒介生物の制御、ワクチンによる感染の予防、薬物による治療は全て重要であり、何れの取り組みも進行中である。前世紀に大いに貢献した抗マラリア薬は耐性寄生虫の出現によって無効化される危険性にさらされている。このプロジェクトは、マラリア撲滅を目的とした次世代抗マラリア薬の目標プロファイルのいくつかを満たすと考えられている。我々の新たなMoAはこれまでにない特徴を持ち、将来多くの子供たちの命を救う新たな抗マラリア薬につながることが大いに期待される。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトの特徴は、新規MoAと新たな薬効標的である。GPI生合成阻害という作用機序は従来にないコンセプトであり、GPI生合成に必須のアシルトランスファーゼである標的タンパク質Gwt1pはエーザイで発見され、これを標的とする他の研究開発は報告されていない。新規作用機序のGwt1p阻害剤はアルテミシンを含む既存薬への耐性株にも有効であると考えられる。Gwt1p阻害剤の特徴はMMVにて設定されたマラリア治療のTCP1と一致し、さらには予防を目的とするTCP4とも一致する。また、マラリア原虫の各ライフステージにおいては多くのステージ特異的なGPIアンカータンパク質が発現されるため、GPI生合成阻害は寄生虫の幾つかのライフステージに対する抗マラリア作用につながると予想される。そして、これらの直接の抗マラリア作用に加えて、感染者の免疫システムの活性化またはマラリア感染によって引き起こされる炎症反応の低下などの効果を示すことも期待される。

各パートナーの役割と責任

エーザイは、リード最適化研究における新規化合物の合成とその薬理評価を担当する。さらに、化合物選択に向けたヒト投与量予測やげっ歯類・非げっ歯類DRF試験を含む安全性プロファイルの評価を行う。また、候補化合物のCMC(原薬及び治験薬の製造を含む)を担当する。

MMVは、その研究ネットワークを活用し、化合物選択に向けて候補化合物のマラリア原虫の生活環におけるプロファイリングとin vivo薬効評価を担当する

他(参考文献、引用文献など)

1. https://www.who.int/teams/global-malaria-programme/reports/world-malaria-report-2023

2. Yeung S, Socheat D, Moorthy VS et al. Artemisinin resistance on the Thai-Cambodian border. Lancet 2009; 374: 1418-9.

3. Hawkes M, Conroy AL, Kain KC. Spread of artemisinin resistance in malaria. The New England journal of medicine 2014; 371: 1944-5.

4. Okamoto M, Yoko-o T, Umemura M et al. Glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins are required for the transport of detergent-resistant microdomain-associated membrane proteins Tat2p and Fur4p. The Journal of biological chemistry 2006; 281: 4013-23.

5. Sagane K, Umemura M, Ogawa-Mitsuhashi K et al. Analysis of membrane topology and identification of essential residues for the yeast endoplasmic reticulum inositol acyltransferase Gwt1p. The Journal of biological chemistry 2011; 286: 14649-58.

6. Tsukahara K, Hata K, Nakamoto K et al. Medicinal genetics approach towards identifying the molecular target of a novel inhibitor of fungal cell wall assembly. Mol Microbiol 2003; 48: 1029-42.

7. Umemura M, Okamoto M, Nakayama K et al. GWT1 gene is required for inositol acylation of glycosylphosphatidylinositol anchors in yeast. The Journal of biological chemistry 2003; 278: 23639-47.

8. Miyazaki M, Horii T, Hata K et al. In vitro activity of E1210, a novel antifungal, against clinically important yeasts and molds. Antimicrobial agents and chemotherapy 2011; 55: 4652-8.

9. Burrows et al. New Developments in Anti-Malarial Target Candidate and Product Profiles. Malar J 2017; 16:26