Investment

プロジェクト

新規作用機序を有する抗マラリア薬のIND申請に向けた強力なGwt1p阻害剤の前臨床試験

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは蚊が媒介するPlasmodium 属原虫によって引き起こされる感染症であり、アフリカの子供達を中心に2018年に約40.5 万人の死者が出ています。近年はアルテミシニンに対する耐性がタイやカンボジア、ミャンマー、ベトナムを中心とした国々で出現し、耐性原虫に効果を示す抗マラリア薬の創出が早急に求められています。

本プロジェクトでは、新規作用機序であるグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)生合成阻害作用を有する抗マラリア薬の前臨床試験を行います。GPI は真核生物に共通するタンパク質を細胞表層につなぎとめる分子です。エーザイはGPI 生合成経路の中のGwt1p 酵素を抗マラリア薬の標的として見出し、その化合物をもとに、Hit-to-Lead Platform においてMMV と共同でリード化合物の創出に成功しました。そして、抗マラリア原虫活性の向上とマラリア治療に必要な十分に長い半減期を有する候補化合物の創出に成功しました。

 

プロジェクトの目的

この提案の目的は、G2017-109 のプロジェクトで見出した候補化合物について、前臨床開発及びIND に向けたGood Laboratory Practice (GLP) 試験の完遂です。

                                                                         

プロジェクト・デザイン

チャールズリバーの創薬化学者とエーザイのプロセス化学者は合成ルートと塩結晶形の最適化を実施します。最適化されたルートに基づいて、エーザイは次のことを実施します。

 

(1)前臨床試験および第Ⅰ相臨床試験に必要な原薬を製造する。前臨床試験用の原薬は1年目に製造される予定である。

(2)2 年目終了時までには第Ⅰ相臨床試験用の治験薬製剤の製造を実施する。

(3)2年目に、げっ歯類及び非げっ歯類動物におけるGLP毒性試験、遺伝毒性試験、安全薬理試験、代謝物同定等のINDに必要な前臨床DMPK及び安全性試験を実施する。

(4) 臨床薬理解析に向けたバリデーションを行う。

(5) 2022 年3 月にIND 提出するように準備を進める。

 

MMV は併用可能薬を同定するため、ヒト化マウスモデルを用いin vivo 評価を行います。その後、ヒト初回投与第Ⅰ相臨床試験及び健常人に対する感染治療試験のための治験施設を選択し、研究プロトコル、治験薬概要書、IMPD 及びIND(または同等の他の規制)提出に必要な文書をエーザイと共同で準備します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは依然として最も生命に脅威を与える病気の一つであり、特にサハラ以南のアフリカ諸国では多くの子供たちが依然として亡くなっています。これらの国では、子供たちはマラリアに対する免疫が低いため、何度も繰り返し罹患します。本プロジェクトでは、マラリア撲滅に貢献するため、新しいかつ独自の作用機序(MoA)に基づくマラリア治療を提案します。感染症の制御と抑制、特に根絶のために、媒介生物の制御、ワクチンによる感染の予防、薬物による治療は全て重要であり、何れの取り組みも進行中です。前世紀に大いに貢献した抗マラリア薬は耐性寄生虫の出現によって無効化される危険性にさらされています。このプロジェクトは、マラリア撲滅を目的とした次世代抗マラリア薬の目標プロファイルのいくつかを満たすと考えられています。我々の新たなMoAはこれまでにない特徴を持ち、将来多くの子供たちの命を救う新たな抗マラリア薬につながることが大いに期待されます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトの特徴は、新規作用機序と新たな薬効標的です。GPI生合成阻害という作用機序は従来にないコンセプトであり、GPI生合成に必須のアシルトランスファーゼである標的タンパク質Gwt1pはエーザイで発見され、これを標的とする他の研究開発は報告されていません。新規作用機序のGwt1p阻害剤はアルテミシンを含む既存薬への耐性株にも有効であると考えられます。候補化合物の特徴はMMVにて設定されたマラリア治療のTCP1と一致し、有効薬物濃度を維持するに十分な半減期を持ちます。また、マラリア原虫の各ライフステージにおいては多くのステージ特異的なGPIアンカータンパク質が発現されるため、GPI生合成阻害は寄生虫の幾つかのライフステージに対する抗マラリア作用につながると予想されます。そして、これらの直接の抗マラリア作用に加えて、感染者の免疫システムの活性化またはマラリア感染によって引き起こされる炎症反応の低下などの効果もを示すと期待されます。

各パートナーの役割と責任

エーザイは、前臨床試験、GLP安全性評価、及びCMC(原薬及び治験薬の製造を含む)を担当します。また、バックアップ研究のための新規化合物合成とその薬理評価も行います。探索合成はエーザイの指揮の下、研究施設内にあるCharles River社のCROが担当します。

MMVは、その研究ネットワークを活用し、IND提出に向けて候補化合物のマラリア原虫の生活環におけるプロファイリングとin vivo薬効評価を担当します。また、MMVはSCIDの研究(単独療法と併用療法の最適なパートナーを選ぶための組合せ研究)を担当します。 エーザイとMMVは、研究プロトコル、治験薬概要書、IMPD及びIND(または同等の他の規制)提出に必要な文書を準備し、ヒト初回投与第Ⅰ相臨床試験及び健常人に対する感染治療試験のための治験施設を協力して選定します。

MMVは、新たな抗マラリア薬候補を特徴付けるため、マラリア薬開発の専門家として初期臨床試験研究をリードします。    

他(参考文献、引用文献など)

参考文献

1. http://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2016/report/en/

2. Yeung S, Socheat D, Moorthy VS et al. Artemisinin resistance on the Thai-Cambodian border. Lancet 2009; 374: 1418-9.

3. Hawkes M, Conroy AL, Kain KC. Spread of artemisinin resistance in malaria. The New England journal of medicine 2014; 371: 1944-5.

4. Okamoto M, Yoko-o T, Umemura M et al. Glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins are required for the transport of detergent-resistant microdomain-associated membrane proteins Tat2p and Fur4p. The Journal of biological chemistry 2006; 281: 4013-23.

5. Sagane K, Umemura M, Ogawa-Mitsuhashi K et al. Analysis of membrane topology and identification of essential residues for the yeast endoplasmic reticulum inositol acyltransferase Gwt1p. The Journal of biological chemistry 2011; 286: 14649-58.

6. Tsukahara K, Hata K, Nakamoto K et al. Medicinal genetics approach towards identifying the molecular target of a novel inhibitor of fungal cell wall assembly. Mol Microbiol 2003; 48: 1029-42.

7. Umemura M, Okamoto M, Nakayama K et al. GWT1 gene is required for inositol acylation of glycosylphosphatidylinositol anchors in yeast. The Journal of biological chemistry 2003; 278: 23639-47.

8. Miyazaki M, Horii T, Hata K et al. In vitro activity of E1210, a novel antifungal, against clinically important yeasts and molds. Antimicrobial agents and chemotherapy 2011; 55: 4652-8.

9. Burrows et al. New Developments in Anti-Malarial Target Candidate and Product Profiles. Malar J 2017; 16:26