Investment

プロジェクト

リーシュマニン皮内テスト(LST)用cGMPグレード・ドノバンリーシュマニア抗原の製造および非臨床試験

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

リーシュマニア症は典型的な細胞内寄生原虫であるリーシュマニアによって引き起こされ多彩な病態を示す。同症は感染した雌サシチョウバエの吸血によって媒介され、世界で3億5000万人が感染のリスク下にある。世界保健機関(WHO)はリーシュマニア症を顧みられない熱帯病(NTD)に分類する。リーシュマニン皮内テスト(LST)はリーシュマニアへの暴露と免疫応答を検出するために何十年も使用されてきたが、LST に使用するリーシュマニン抗原はもはや入手不可能である。LST の再導入を目指すのには切実な理由がある。まずLSTはリーシュマニアが現在もしくは過去に活発に伝播していた地域や村の同定に機能し、内臓リーシュマニア症(VL)制圧プログラムの遂行に重要な役割を果たす。またLSTは現在開発が進む前途有望なリーシュマニアワクチンの効果の判定に有効に機能する代用マーカーとなりうる。

 

2.プロジェクトの目的

本継続プロジェクトの目的は、1) ドノバンリーシュマニアL. donovaniからのcGMPグレード・リーシュマニン抗原製剤(液体または凍結乾燥品)の製造とその特性解明、2) cGMP リーシュマニン抗原製剤(液体および凍結乾燥品)を用いた動物モデルでの LST の実施と各製剤の評価、3) 上記 LST 試験結果に基づく最良のcGMPリーシュマニン抗原製剤の選択と非臨床毒性試験4) 健常人およびVL治癒患者からの末梢血単核球または全血の当該cGMPリーシュマニン抗原製剤での in vitro 刺激によるサイトカイン産生の測定・解析、5) 臨床試験に向けた薬事申請の準備、である。

 

3.プロジェクト・デザイン

先行プロジェクトでは、1) 費用対効果が高く、拡大生産可能で、産業に適した浸透圧ショック溶解技術によるドノバンリーシュマニア原虫からリーシュマニン抗原を大量に製造するためのプロトコールの最適化、2) 安定性試験、3) 実験動物モデルを用いた GLP リーシュマニン抗原の検証、4) ATCC におけるcGMP L. donovani細胞バンクの確立、を完了した。本プロジェクトでは、cGMP L. donovani細胞バンクから3つの異なるリーシュマニン抗原製剤が製造される。この製剤の安全性と効力はワクチン接種ならびにVL治癒の非臨床動物モデルを用いて検証される。安定性試験と動物におけるLST試験の結果に基づき、さらなる研究開発とcGMP生産のスケールアップへ向けて最良の製剤が選択され、規制ガイドラインに従って非臨床毒性試験が実施される。製品の免疫原性を評価するため、健常人およびVL 治癒患者からPBMC または全血を単離し、選択されたcGMP リーシュマニン抗原製剤でin vitro 刺激し、産生されるサイトカインを定量する。臨床試験へ向けて規制当局に提出するINDパッケージも準備される。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

本プロジェクトは、皮膚・内臓リーシュマニア症ならびに免疫応答の効果的な検出目的に過去広く使用されてきたLSTの復活・再導入に繋がる。LSTの再導入には切実な理由がある。まずLSTは現在もしくは過去にリーシュマニアが活発に伝播していた地域や村の同定を可能とし、インド亜大陸におけるVL制圧プログラムの遂行に不可欠な役割を果たす。またリーシュマニア伝播が極めて局所的である理由や地域の再流行リスクの推定を可能とする。さらにLSTは開発が進む前途有望なワクチンの効果の判定に有効に機能する代用マーカーとなりうる。このように、LSTは現在進行中の内臓リーシュマニア症制圧へ向けた取り組み、ならびに将来のワクチン研究開発をサポートするものとなる。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

現在利用可能な血清診断やPCRの最大の弱点は、急性感染を同定できるものの過去の暴露や細胞性免疫の状態を効果的に検出・評価できない点にあり、リーシュマニアの潜伏感染や免疫応答を検出できる診断法はない。リーシュマニン皮内テスト (LST) はリーシュマニアへの暴露と免疫応答を検出するために何十年も使用されてきたが、LST に使用するリーシュマニン抗原はもはや入手不可能である。LSTの利用は、リーシュマニアへ暴露された個人の同定にとどまらず、共同体における効果的なサーベイランスをも可能とする。さらにLSTは開発が進む前途有望なワクチンの効果判定に有効に機能する代用マーカーとなりうる。

各パートナーの役割と責任

オハイオ州立大学(OSUは本プロジェクトの指定被交付機関でありプロジェクト全体の調整に責任を有する。またOSUは凍結乾燥リーシュマニン抗原製剤によるLSTを評価する。

長崎大学・熱帯医学研究所(NUITMは安全性試験を担当する。また旧世界に蔓延する皮膚リーシュマニア症(CL)の非臨床モデルを用いて液体リーシュマニン抗原製剤によるLSTを評価する。さらにバングラデシュでの研究におけるサンプル分析にも協力する。

Gennova Biopharmaceuticals Ltd は製品の開発を計画し、非臨床試験のために十分な量のGLPグレード・リーシュマニン抗原製剤(液体および凍結乾燥品)を製造する。また同社は、選択されたリーシュマニン抗原製剤について十分な量のcGMPグレード製剤を製造し、非臨床毒性試験を実施し、バングラデシュで提案された試験のための材料を提供する。 また、INDパッケージの作成にも関与する。

アメリカ食品医薬品局(FDAはFDAガイドラインに従ったcGMP製造を保証し、LmCen-/-ワクチン接種VLハムスターモデルおよびCLマウスモデルを用いたLSTでリーシュマニン抗原液体製剤を評価する。

マギル大学はバングラデシュにおける研究の計画、実施、データ分析を支援する。また、INDの取りまとめ、データ解析、プロジェクトの全体的な計画と実行も支援する。

Icddr,bは、Gennova社が製造するcGMPリーシュマニン抗原製剤に対する健常人およびVL治癒患者のPBMCおよび全血の免疫応答を解析・研究する。

他(参考文献、引用文献など)

1. Malvy D., (2019). Ebola virus disease. The Lancet 393, 936–948.

2. Hampton L.M. (2023). Ebola outbreak detection and response since 2013. Lancet Microbe 4, e661–e662 

3. Kieh M, et al. (2022). Randomized Trial of Vaccines for Zaire Ebola Virus Disease. N Engl J Med. 29;387(26):2411-2424.