Investment

プロジェクト

新規赤血球期マラリアワクチンPfRipr5の前臨床開発(PfRipr5-PD)
  • 受領年
    2023
  • 投資金額
    ¥572,951,478
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Preclinical Development
  • パートナー
    住友ファーマ株式会社 ,  iBET ,  欧州ワクチンイニシアチブ(EVI) ,  愛媛大学
  • 過去の案件

イントロダクション/背景

イントロダクション

最近10年間の徹底的なマラリア対策にもかかわらず、マラリアは依然としてグローバルヘルスにおける最重要疾患の一つであり、患者ならびに死亡者数も甚大である。しかし、現在最も開発が進んでいる第一世代マラリアワクチン(RTS,S、Mosquirix)の効果は十分とは言えず、より有効な次世代マラリアワクチンが切望されている。そこで本プロジェクトでは、先行GHITプロジェクト(T2018-151)の成果に立脚して、愛媛大学と住友ファーマ株式会社が共同で発見した新規赤血球期マラリアワクチンPfRipr5の前臨床開発を進める。将来は、PfRipr5がマラリア原虫の発育を多段階で止めることのできる次世代多価マラリアワクチンの開発に寄与することが期待できる。

 

プロジェクトの目的

このプロジェクトは、先行GHITプロジェクトで確立した共同研究体制に立脚してPfRipr5赤血球期マラリアワクチンの開発をさらに進める。その目的は下記の4点である。

1)PfRipr5タンパク質製造のためのcGMPに準拠したプロセスの確立

2)cGMPに準拠したPfRipr5タンパク質の生産

3)PfRipr5をSA-1アジュバント(免疫増強剤)と製剤化し、動物における安全性・毒性試験の実施

4)第I/IIa相臨床試験を実施するための申請書類の作成

 

プロジェクト・デザイン

上記の4つの目的に沿って、下記の計画でプロジェクトを実施する。

1)先行GHITプロジェクト(T2018-151)で見出した大量生産可能なタンパク質合成系を用いて、PfRipr5の合成、精製、品質管理方法を至適化する。

2)1)で確立したPfRipr5生産方法を、cGMPに準拠した医薬品開発製造受託機関(CDMO)に移管し、PfRipr5をcGMPで生産する。

3)cGMPに準拠して生産されたPfRipr5についてSA-1アジュバント(免疫増強剤)を用いて製剤化し、動物における前臨床GLP安全性・毒性試験を実施する。

4)第I/IIa相臨床試験を実施するために必要な倫理・規制当局への申請書類を作成する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは、アフリカおよびアジアやアメリカ大陸の流行地において、患者・死亡者数が依然として甚大で、国際的に非常に重要な公衆衛生課題である。さらに、近年の新型コロナパンデミックによって、これまでのマラリア予防、診断、治療等の対策が混乱に陥った。それにより、サハラ以南アフリカの中等度から高度流行国においては、2019年から2021年にかけてマラリア患者数が増加した(WHO World Malaria Report 2022)。マラリアの制圧さらにその撲滅に向けては、包括的で総合的な対策が求められている。そのためには、最も費用対効果が高く簡便に実施出来るマラリアワクチンの実用化抜きには、この目標の達成は困難である。したがって、本プロジェクトは、マラリア対策の一翼を担うより有効な次世代マラリアワクチンの開発に大きく貢献できる。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

これまで開発が進められてきたほとんどの熱帯熱マラリア赤血球期ワクチンは、流行地におけるマラリア原虫のワクチン抗原に変異が有り、その変異株原虫には無効であったため、臨床試験における有効性が示されなかった。一方、本プロジェクトで開発するワクチン抗原タンパク質PfRipr5は、流行地の原虫に変異がほとんど無いため、これまでの赤血球期マラリアワクチン候補抗原の欠点を克服できることは疑いない。さらに、本プロジェクトで使用する新規TLR7アジュバント(SA-1)は、ワクチンの効果を強力で持続的なものにすることができる。

各パートナーの役割と責任

本プロジェクトのパートナーは、既に共同研究の実績が十分にあり、また本研究の成功に必要な相互補完的な専門性を有している。研究代表者のヨーロピアン・ワクチン・イニシアティブ(EVI)は、本プロジェクト全体のマネージメントと、臨床試験の計画樹立、およびその実施に必要な倫理・規制当局への申請書類を作成する。愛媛大学は、PfRipr5タンパク質の品質分析、及びPfRipr5抗体がマラリア原虫に対する増殖阻害活性(GIA)を発揮する機序を解析する。住友ファーマ株式会社は、SA-1アジュバントの提供、動物における安全性・毒性試験の監督と、それぞれのワクチン製剤の免疫原性を評価する。アイベット(iBET)は、PfRipr5の合成、精製、品質管理方法の至適化とそれらのCDMOへの技術移転、およびPfRipr5のcGMP生産を監督する。

他(参考文献、引用文献など)

World Health Organization (WHO). World Malaria Report 2022. Geneva: WHO; 2022.

最終報告書

1.プロジェクトの目的

1)cGMPに準拠したPfRipr5の製造工程を確立する

2)安全性・毒性試験用PfRipr5をcGMPに準拠して製造する

3)PfRipr5/SA-1製剤の安全性試験を実施する

4)第I/IIa相臨床試験のための申請書類を準備する

 

2.プロジェクト・デザイン

1)PfRipr5の製造工程および精製工程の最適化

2)確立したPfRipr5の製造工程をCDMOへ移管

3)PfRipr5/SA-1をGLP毒性試験で評価

4)臨床開発計画書および治験計画届書の作成

さらに、将来の臨床用量の妥当性をサポートするため、ラットを用いた用量探索試験を実施した。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

1):PfRipr5生産プロセスの確立

細胞培養、精製工程、分析ツールを含むPfRipr5の製造工程をcGMPに適合するように最適化し、50Lスケールで製造した。本プロジェクトで製造したものを含む計4ロットのPfRipr5について、機能性モノクローナル抗体29B11との結合性を表面プラズモン共鳴法で測定し、全ロットで同等の強い結合プロファイルを確認した。

2):cGMPに準拠したPfRipr5の生産を完了

マスター細胞株(MCB)、マスターウイルスシードストック(MVSS)、およびPfRipr5の製造工程をcGMP製造施設へ技術移転し、2種類の昆虫MCBと1種類のバキュロウイルスMVSSをcGMPに準拠して製造した。これらを用いた50LスケールでのPfRipr5試製造と品質管理試験を完了し、PfRipr5の安定性試験を実施した。臨床における投与液調製をシミュレートしたPfRipr5/SA-1製剤の適合性について、ポテンシー、純度、外観、粒子径を指標に評価した。5℃および室温における投与液中のPfRipr5とSA-1の24時間の安定性が確認された。

3):CTA申請のためのGLP準拠非臨床安全性試験が完了

ラットにPfRipr5/SA-1製剤、対照物質(生理食塩水)、またはSA-1単剤を計4回投与する、GLP準拠非臨床安全性試験を実施した。その結果、すべての動物が剖検時まで生存し、PfRipr5/SA-1製剤の忍容性は良好、かつ予期せぬ所見は認められなかった。

4):IND申請書類の準備完了

PfRipr5製造工程のcGMP製造施設への移管時に予期せぬ結果が生じたため、調査及び追加の製造工程開発作業を要し、CTAの準備に着手できなかった。ただし、臨床開発計画書は作成済みである。ヒト初回投与試験における用量設定の根拠とするため、ラットに異なる量のPfRipr5とSA-1を4週間間隔で3回投与し、最終投与から2週間後の抗体価とマラリア原虫増殖抑制活性を測定した。その結果、PfRipr5 の最小有効投与量が特定され、SA-1 の免疫増強効果が示された。