Investment

プロジェクト

薬剤耐性を誘導しない新規マラリア治療薬の合成研究

イントロダクション/背景

イントロダクション

MMV1579683は、武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)のが保有する化合物ライブラリーから、赤血球期の抗マラリア原虫作用を示し、かつ薬剤耐性を誘導しない性質を持つ化合物として見いだされたベンズイミダゾール系化合物です。

プロジェクトの目的

このプロジェクトでは、新規マラリア治療薬(TCP-1)候補化合物の創出を目指し、このベンズイミダゾール系化合物から更なる構造最適化を実施してMMVが設定する基準(https://www.mmv.org/research-development/information-scientists)を満たすリード化合物を見出し、リード最適化段階へと進むことを目標とします。

プロジェクト・デザイン

このプロジェクトでは、プロジェクトチームは構造活性相関の情報から構造最適化を行います。生理活性、物理化学的性質、薬物動態や毒性の評価を行い、十分な経口吸収性が期待できる物理的化学的性質を持ち、かつ基準を満たす生理活性を持つ化合物であることを確認します。そしてGHIT及びMMVが設定する基準を満たすリード化合物群を見出し、次のステップへ進むことを目標とします。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

WHOやMMVのビジョンでは、マラリアによる死者を減少させ、究極的には根絶することを目指しています。そのためにマラリアの予防薬あるいは治療薬を手ごろな価格で入手できるようにすることが喫緊の課題です。この課題の克服を目指して、現状の標準的治療に比べてより簡便かつ安価に投与できる薬剤の開発が世界的に続けられており、新規治療薬の候補化合物を継続的に創出することが重要となっています。本プロジェクトでは、ベンズイミダゾール系化合物の持つ薬剤耐性を誘導しない性質に着目して新規マラリア治療薬の創出を目指しています。薬剤耐性を誘導しない性質を持つ薬剤は現在のMMVのポートフォリオにおいても少数であり、このような化合物シリーズを提供することは、将来的な治療薬候補の幅を広げることが可能になります。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトでは、前臨床段階における豊富な経験を有するチームによって、薬剤耐性を誘導しないという非常に魅力的な性質を有する新しいマラリア治療薬候補化合物を見出すことによって、マラリア治療薬の新たな選択肢の提供に貢献します。

各パートナーの役割と責任

プロジェクトチームは武田薬品とMMVの合成化学者と生物学の専門家から構成され、MMVが本プロジェクトを主導します。武田薬品は薬物動態や安全性の評価結果等、本プロジェクトで得られた各種の情報を総合して、医薬品合成化学の方針を策定します。MMVはプロジェクト全体の方向性について戦略的なアドバイスを提供するとともに、MMVの持つネットワークを活用して様々なスクリーニングプラットフォームを提供します。

最終報告書

1.プロジェクトの目的

本プロジェクトでは、新規マラリア治療薬(TCP-1)候補化合物の創出を目指し、武田薬品が保有する化合物ライブリーから見出されたヒット化合物の更なる構造最適化を実施して、MMVが設定する基準を満たすリードを見出し、リード最適化段階へと進むことを目標としました。

 

2.プロジェクト・デザイン

マラリア原虫殺傷速度が非常に速く、薬剤耐性を誘導しない性質を持つベンズイミダゾール系ヒット化合物MMV1579683の最適化に注力しました。ペンダント塩基性基の探索により得られた2つの有望なサブシリーズの中から、活性が良好でドラックライクな性質を持つ最適な化合物を用いて in vivo 薬効試験を行った。

 

3.プロジェクトの結果及び考察

リード化合物は中程度の活性(~100 nM)とCaCo-2透過性を持ち、クリアランスが低いことがわかりました。この化合物はクロロキンと同様の作用機序を示し、後続の化合物でも維持されました。理想的な活性(<10 nM)を達成するためには、化合物には2つの塩基性窒素原子(ジ塩基性シリーズ)が必要でした。これらの化合物は一貫してモノ塩基性の対応物よりも優れた活性を示し、他のマラリア株に対しても活性があることがわかりました。CaCo-2アッセイでの透過性は低かったものの、いくつかのジ塩基性化合物は良好なバイオアベイラビリティ(33-80%)を示しました。CaCo-2アッセイは、このシリーズの経口吸収性を予測するための信頼性の低い方法であることが判明し、これはおそらく化合物の回収率が低いためでした。化合物は非常に低い代謝クリアランスと良好な血漿半減期を示しました。ジ塩基性アミドシリーズは全体的に最良のプロファイルを示しましたが、そのジ塩基性がHepG2細胞での細胞毒性を引き起こすと考えられ、両方のリード化合物が顕著な阻害(HepG2<10 µM)を示しました。このシリーズのすべての化合物はhERG阻害も顕著(約1 µM)に示し、塩基性中心のpKaを下げる、塩基性中心の近くに極性を導入する、又は全体的な脂溶性を減らすことで軽減することはできませんでした。化学チームの生産性はプロジェクト全体を通じて優れており、チームはシリーズ内の化学的多様性を徹底的に探求することができました。代表化合物はプログラム全体でテストされ、クロロキンと同様の魅力的な性質と作用機序を維持していることが示されました。残念ながら、hERG阻害と細胞毒性による安全性リスクを軽減できないという懸念から、期限内に前臨床候補化合物を提供することは非常に困難であり、シリーズ追求の中止を提案することに至りました。