Investment

プロジェクト

汎マラリア伝搬阻止ワクチンAnAPN1のFirst In Human試験

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは依然として世界的に大きな健康問題であり、病気が蔓延している国では経済的負担が大きい。昨年、世界で約2億2,900万人が感染し、約41万人が死亡し、その多くは5歳未満です。この数値が前年より増加したことから、公衆衛生共同体はマラリアの排除と根絶の目標に向けた断固たる決意を固めました。 マラリア寄生虫のうちP. falciparum(Pfa)とP. vivax(Pvi)がハマダラ蚊の媒介によりヒトに感染します。前者はアフリカの大部分で、後者はアジア/アメリカを通して優勢です。 従来の抗マラリア対策は一定の効果を示しましたが、薬剤耐性の蚊や寄生虫の出現は現行の取り組みを困難にしています。従って、マラリアの完全な根絶を目指す新規対策が緊急に求められます。

 

プロジェクトの目的

マラリア感染を減らす有望な手段の一つとして、寄生虫のヒトから蚊への感染を阻止する「伝搬阻止ワクチン」(Transmission Blocking Vaccine = TBV)があります。マラリア発症を間接的に阻止するもので、ヒトにとって明瞭且つ遅延的な臨床上の利益が得られます。TBVは、薬剤耐性寄生虫や最先端のマラリアワクチン(Mosquirix™)を突破する寄生虫の蔓延を阻止する手段になります。これまでのTBV候補として寄生虫の生殖細胞タンパク質等を取り上げてきたが、世界中で効果を示すためには、PfaとPvi両種への有効性が必要です。我々は、寄生虫の受容体として機能し、進化上保存性の高い蚊の中腸タンパク質の中からワクチン候補となるものを発見し、所謂万能TBVの開発を目標としました。

 

プロジェクト・デザイン

AnAPN1は、ハマダラ蚊中腸内腔表面タンパク質であり、現在Plasmodium属寄生虫(Pfa と Pvi) に対する唯一の万能TBV候補です。蚊のタンパク質を使用することで、寄生虫の介入への抵抗性発現リスクが減少し、根絶環境下でのワクチンの長期使用を可能にします。AnAPN1を詳細に分析し、伝播阻止活性を持つ唯一のエピトープを同定しました。TBVが効果を発揮するためには高力価誘導が必須です。我々はAnAPN1を改造し、体液性応答を指標として、目標を達成しました。最適化された免疫原 (UF6b)はタグなしで、GLA-LSQアジュバントを配合してマウスやサルに投与すると、強力な伝搬阻止活性(抗体価)が誘導されました。本プロジェクトは、次項に紹介するパートナーとの共同研究によるものです。

このプロジェクトは、フロリダ大学、株式会社セルフリーサイエンス、味の素バイオファーマサービス、Center of Medical Research Lambaréné(CERMEL)、およびテュービンゲン大学病院による共同の取り組みを表しています。 我々は、2段階のプロジェクトで、UF6bの前臨床製造と毒性試験を完了し、ワクチンの使用に関する倫理審査の承認を取得してから、ガボン共和国LambarénéにおいてフェーズIA / B臨床試験に参加することを想定しています。 フェーズIA / B臨床試験のエンドポイントとして、安全性と投与量を確認します。 ワクチン接種した個人から得られた抗体は、フロリダ大学とCERMELで確立された一連の機能的、免疫学的、および生物学的アッセイにより十分に評価されます。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

AnAPN1は、ハマダラ属蚊の種を超えて高度に保存されており、寄生虫と蚊の種類を問わない万能TBVとなる可能性を秘めています。1種類の蚊のタンパク質ベースの抗原の使用により、抵抗性寄生虫の発現リスクが低減し、ワクチンの長期使用が可能になります。短期的には、Mosquirix™等を併用すれば、マラリアの新規発症数は相乗的に減少しますし、薬剤耐性寄生虫の蔓延を抑えることで、アルテミシニン投与の有効性も向上します。将来のマラリア流行に導く無症候性感染が優勢な状態でTBVをトップダウン的に使用すれば、人間社会における寄生虫の一掃が可能です。TBVと他のワクチンとの組み合わせや、アルテミシニンとの併用は、人間社会に直接的な利益をもたらします。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

TBV開発の対象を寄生虫のタンパク質から蚊由来のAnAPN1に変更すると、単一のTBVによって複数のPlasmodium種の感染を世界規模で阻止することが可能になります。AnAPN1 投与で誘導される抗体は、Pfa と Pviの感染を減少させました。我々は、AnAPN1から、構造誘導型ワクチン設計戦略を用いて、ワクチン抗原を最適化しました(UF6)。更に、低エンドトキシンで、精製タグなしのUF6bタンパク質の大規模製造工程を開発しました。GLA-LSQを配合したUF6bはサルに持続的な体液性反応を示しました。これまで米国で実施した第Ⅰ相試験で良好な成績を収めたマラリアワクチンの多くがアフリカでの試験で失敗しているので、我々はUF6b:GLA-LSQの第1相試験を、マラリアの流行地域のガボンで実施します。

各パートナーの役割と責任

(1)フロリダ大学(PRIME):プロジェクト全体の管理と提案書の設計、外部委託の毒性試験の管理、免疫学的アッセイの認定、膜給餌アッセイ。アジュバントは、共同出資支援の一環として感染症研究所(IDRI)から購入し、フロリダ大学が提供する。

(2)味の素バイオファーマサービス(SUB):AnAPN1抗原のcGMP臨床標品製造。

(3) CERMEL社(SUB):治験依頼者、治験デザイン、治験実施場所、治験チーム、倫理的承認の取得。

(4) テュービンゲン大学病院(SUB):欧州の規制当局との協議、試験デザイン、統計、臨床試験プラットフォーム。

(5) CFS(共同研究機関):フロリダ大学との緊密な連携によるプロジェクト調整。

他(参考文献、引用文献など)

WHO World Malaria Report November 30, 2020

Bender NG, Khare P, Martinez J, Tweedell RE, Nyasembe VO, López-Gutiérrez B, Tripathi A, Miller D, Hamerly T, Vela EM, Davis RR, Howard RF, Nsango S, Cobb RR, Harbers M, Dinglasan RR. Immunofocusing humoral immunity potentiates the functional efficacy of the AnAPN1 malaria transmission-blocking vaccine antigen. NPJ Vaccines. 2021. In press.

Atkinson SC, Armistead JS, Mathias DK, Sandeu MM, Tao D, Borhani-Dizaji N, Tarimo BB, Morlais I, Dinglasan RR, Borg NA. The Anopheles midgut APN1 structure reveals a new malaria transmission-blocking vaccine epitope. Nat Struct Mol Biol. 2015 Jul;22(7):532-9. doi: 10.1038/nsmb.3048. Epub 2015 Jun 15.

Armistead JS, Morlais I, Mathias DK, Jardim JG, Joy J, Fridman A, Finnefrock AC, Bagchi A, Plebanski M, Scorpio DG, Churcher TS, Borg NA, Sattabongkot J, Dinglasan RR. Antibodies to a single, conserved epitope in Anopheles APN1 inhibit universal transmission of Plasmodium falciparum and Plasmodium vivax malaria. Infect Immun. 2014 Feb;82(2):818-29. doi: 10.1128/IAI.01222-13. Epub 2013 Dec 9.

Dinglasan RR, Kalume DE, Kanzok SM, Ghosh AK, Muratova O, Pandey A, Jacobs-Lorena M. Disruption of Plasmodium falciparum development by antibodies against a conserved mosquito midgut antigen. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Aug 14;104(33):13461-6. Epub 2007 Aug 2.