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受領年2017
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投資金額¥348,421,798病気Malaria対象Vaccine開発段階Preclinical Developmentパートナー株式会社セルフリーサイエンス , Ology Bioservices Inc. , 株式会社浜松ファーマリサーチ , Infectious Disease Research Institute , Centre Pasteur du Cameroun (CPC) , フロリダ大学過去の案件論文
イントロダクション/背景
イントロダクション
マラリアは、世界の重要な健康課題の一つであり、流行国において経済的負担が大きい。WHOの報告では、2016年全世界で2.14億人が発症し、約44.5万人が死亡した(多くが5歳未満)。世界の人口のほぼ半分が感染リスクに晒されており、人類は再びマラリア根絶に立ち上がりました。
マラリアは、蚊とヒトの間を複雑な発育段階を介して往来し、感染したハマダラ蚊からマラリア原虫がヒトへ伝搬された後に発症します。マラリアには5種類の感染性原虫種があり、うち2種が症状を引き起こします(熱帯熱マラリア(Pfa):アフリカ全体で優勢、三日熱マラリア(Pvi):アジア、米州全体で優勢)。
マラリアへの負担軽減を目指した施策の結果、発症率や死亡率は大幅に低下しました。しかし、薬剤耐性の蚊や原虫の出現はマラリア撲滅の障害となっており、最終的なマラリア撲滅に向けた、効果的にマラリアの伝搬を阻止しうる新らたなアプローチが緊急に求められています。
プロジェクトの目的
マラリアの伝搬を阻止する有望なアプローチとして、いわゆる「伝搬阻止ワクチン(Transmission Blocking Vaccines; TBV)」の開発があります。TBVは、免疫されたヒトのマラリア発症を直接阻止はしませんが、全体として臨床上の利益は明らかです。 TBVは、薬剤耐性原虫やMosquirix™(現在最も開発が進んだマラリアワクチン)が無効な原虫にも有効であり、新規TBVの開発は、マラリア撲滅活動を直接サポートする費用対効果に優れた介入方法の一つと言えます。
従来のTBV開発は、原虫接合子の表面タンパク質や配偶子母細胞タンパク質に焦点を当ててきました。しかし、原虫志向のアプローチでは、異なる種由来のタンパク質免疫原(複数)を含むTBVの開発が必要です。我々のアプローチは、遺伝的に高度に保存されたハマダラ蚊のタンパク質をもとに、原虫の受容体として機能し、マラリア原虫種に関わらず効果を発揮するTBV(所謂万能マラリアワクチン)の開発を目指します。
プロジェクト・デザイン
アラニルアミノペプチダーゼN(AnAPN1)は、ハマダラ蚊の中腸内腔表面タンパク質です。AnAPN1は、複数のハマダラ蚊種においてPfaとPvi両方の原虫の伝搬を阻止する唯一のTBV候補です。蚊タンパク質を用いた研究は、寄生虫の耐性獲得リスクを低減し、ワクチンの長期間使用を可能にします。
AnAPN1は、免疫動物において非常に高い力価を誘導しますが、そのエピトープの内一つだけが蚊体内で寄生虫成長を強力に抑制しました。我々は、ワクチンとして高い抗体力価を持たせるために伝搬阻止活性に必要なドメインのみを含む抗原を開発することが必須と考え、AnAPN1抗原を再設計し、この目標を達成しました。 GLA-LSQアジュバントと共に処方された新規免疫原UF6は、天然の熱帯熱マラリア原虫株に対し、強力な伝搬阻止活性を誘導しました。
本プロジェクトでは、本処方の臨床製造法を確立し、マウスおよび非ヒト霊長類で試験し、最終的に得られた抗体を科学的に評価します。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
AnAPN1をコードする遺伝子はハマダラ蚊種のゲノムにおいて高度に保存されており、AnAPN1で誘導された抗体は、原虫の種を問わずその発育を阻止しました。AnAPN1は蚊タンパク質なので、誘導された抗体に対する原虫の耐性獲得リスクが低く、世界中で使用可能であると考えています。
本プロジェクトにより、ヒトへの初回投与試験に使用可能なAnAPN1ワクチン候補(UF6)のcGMP対応の医薬品製造や当局からの支援の取得など、プロジェクトの第二段階が可能になります。TBVが実用化されれば、短期的には、Mosquirix™やアルテミシニン等との併用によりマラリア症例は相乗的・劇的に減少します。長期的には、マラリアの制御が可能になり、一方で無症候性に存在している場合、TBVは人類からマラリアを撲滅するためのトップダウンアプローチとして使用可能です。
マラリア感染率の低下は人類にとって直接的な利益であり、TBVと他のワクチンやアルテミシニンとの併用によりマラリア感染は減少していきます。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
TBV開発の対象を原虫タンパク質から蚊由来AnAPN 1タンパク質へシフトすることにより、「単一のTBVが多数のマラリア原虫種の伝搬を地球規模で阻止する」という一連の原理的優位性が提供されます。AnAPN 1の全長タンパク質で誘導される抗体は、完全ではないが、P. falciparumとP. vivax両方の原虫の伝搬を抑制することが証明されています。
我々は、タンパク質の構造をもとにワクチン設計戦略によりAnAPN1から最適化されたUF6抗原を構築し、その抗原により誘導される抗体の、動物と蚊の間のマラリア伝搬モデルにおける、伝搬阻止能力を定量化することに成功しました。前臨床開発段階では、UF6とGLA-LSQを組み合わせ、マラリア流行地域におけるTBVの有効性のより良い予測を可能にとし、非ヒト霊長類を使用した概念実証実験が展開される予定であります。
各パートナーの役割と責任
1. フロリダ大学(UF):本プロジェクト全体(免疫学的研究やカメルーンで実施される試験を含む)の計画/調整/統合。UF独自の技術としてはげっ歯類の免疫化、機能解析及びGLA-LSQアジュバントで処方されたスケールアップ/最適化されたUF6免疫原に対する抗血清の透過阻止活性の評価。
2. Ology Bioservices, Inc.:前臨床免疫原製造CRO。設計提案、プロセス開発、前臨床製造、QA/QC。
3. 浜松ファーマリサーチ株式会社:非ヒト霊長類の免疫応答試験の設計提案/実施。
4. 株式会社セルフリーサイエンス:UF6タンパク質の設計/小規模生産(Ology Bioservices社製のものとの比較試験用)。
5. Infectious Disease Research Institute:アジュバント(GLA-LSQ)の提供/免疫研究/戦略への提案。
6. Centre Pasteur du Cameroon:「倫理委員会」の下で、マラリア患者血液の入手及び蚊の膜吸血試験。
インペリアルカレッジロンドンは、AnAPN1 TBV制御下における動物-蚊-動物の伝搬モデルにおけるマラリア伝搬阻止試験の統計解析を支援する。
他(参考文献、引用文献など)
On malaria:
WHO Malaria Fact sheet, updated January 2016
World Malaria Report 2015 by the WHO
On AnAPN1:
The Anopheles-midgut APN1 structure reveals a new malaria transmission-blocking vaccine epitope.
Atkinson SC, Armistead JS, Mathias DK, Sandeu MM, Tao D, Borhani-Dizaji N, Tarimo BB, Morlais I, Dinglasan RR, Borg NA.
Nat Struct Mol Biol. 2015 Jul;22(7):532-9. doi: 10.1038/nsmb.3048. Epub 2015 Jun 15.
Antibodies to a single, conserved epitope in Anopheles APN1 inhibit universal transmission of Plasmodium falciparum and Plasmodium vivax malaria.
Armistead JS, Morlais I, Mathias DK, Jardim JG, Joy J, Fridman A, Finnefrock AC, Bagchi A, Plebanski M, Scorpio DG, Churcher TS, Borg NA, Sattabongkot J, Dinglasan RR.
Infect Immun. 2014 Feb;82(2):818-29. doi: 10.1128/IAI.01222-13. Epub 2013 Dec 9.
Disruption of Plasmodium falciparum development by antibodies against a conserved mosquito midgut antigen.
Dinglasan RR, Kalume DE, Kanzok SM, Ghosh AK, Muratova O, Pandey A, Jacobs-Lorena M.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Aug 14;104(33):13461-6. Epub 2007 Aug 2.
最終報告書
1. プロジェクトの目的
本プロジェクトの目的は、蔓延中及び新規のマラリア感染を減らし、且つ費用対効果の高い、汎マラリア伝播阻止ワクチンの開発です。ワクチン抗原は、ハマダラ蚊中腸タンパク質AnAPN1 (マラリア原虫の推定受容体) で、世界中のハマダラ蚊に高度に保存されています。本抗原にGLA-LSQアジュバントを配合したAnAPN1ワクチンのcGMP工程開発計画を作成します。
2. プロジェクト・デザイン
工程開発課題の第1段階を、①分析手法の技術移転と検証、②工程技術の移転、③cGMPマスターセルバンク作製、④非cGMPバルク原薬製造のスケールアップと最適化、に分けます。短期/長期の免疫学的研究にはマウスとサルを使用し、動物で生成された抗血清の抗体力価及び伝播阻止活性(ラボ及びカメルーンにおける野外摂食試験)を測定します。
3. プロジェクトの結果及び考察
cGMP基準に適合するタグなしAnAPN1抗原を大規模に製造でき、且つ再現可能な工程開発パイプラインを確立しました。このプロジェクトでは、大量の薬物原体を製造したのみではなく、ワクチン抗原用としてよく特徴付けられたマスターセルバンクを確立しました。これらは今後のヒト初回投与試験用のワクチン製造を容易にします。
マウスで2種類の予防接種試験を実施し、2つの補完的なマラリア蚊摂食試験※により機能的伝搬阻止活性で抗体力価を測定しました。サルを用いたワクチン持続性研究では、単回または2回投与(8週間間隔)の360日後に免疫リコールを確認しました。単回予防接種を受けたサルは1年後の再接種により急速な抗体産生が可能でした。つまりヒトが何らかの理由で完全なワクチン用量シリーズの接種が受けられなかったという現実の事態にあっても1年後の追加接種によりブースター効果が得られることが示唆されました。サルとマウスの研究から得られた免疫学的データを比較すると、我々の評価系においては全体的な抗体価のみでは伝播阻止活性を正確に予測することが難しいと示唆されていますが、抗体の品質の方がより重要です。サルの抗体力価は、マウスで観察された力価に届きませんでしたが、それでも伝播阻止活性は同等でした。これらのデータを臨床研究に提供することは重要です。現在のバルク原薬は精製した状態で、混入微生物がゼロであり、エンドトキシンレベルがヒトの研究への使用に対して許容範囲内の、タグなし抗原が比較的高収量(3g/120L)であるなど、非常に好ましい特性を持っています。ヒト初回投与試験に進むために、私たちは第2段階(臨床製剤製造)として以下のタスクが含まれると想定しています: ⒜ cGMP原薬製造、⒝ 薬物プロジェクト(DP)エンジニアリングの実施、⒞ cGMP DPの実施 (Fill & Finish)、及び ⒟ サブサハラアフリカでの第1相臨床試験に導く規制へのサポート。※蚊ベースのマラリア伝播阻止活性を測定する標準試験
Investment
プロジェクト
蚊タンパク質(AnAPN1 v. 2.0)をもとに免疫に焦点を当てた汎マラリア伝搬阻止ワクチンの製法開発と臨床製造