Investment

プロジェクト

熱帯熱マラリアと三日熱マラリアのいずれにも有効な、「蚊タンパク質」を標的とするマラリア伝搬阻止ワクチンの開発
  • 受領年
    2015
  • 投資金額
    ¥41,928,575
  • 病気
    Malaria
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Lead Optimization
  • パートナー
    株式会社セルフリーサイエンス ,  Infectious Disease Research Institute ,  フロリダ大学

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは、世界の重要な公衆衛生上の課題の一つであり、流行国において経済的負担が大きい。WHOの報告では、2015年全世界で2.14億人が発症し、約43.8万人が死亡しました(多くが5歳未満)。世界の人口のほぼ半分が感染リスクに晒されており、人類は再びマラリア根絶に立ち上がりました。  マラリアは、蚊とヒトの間を複雑な発育段階を介して往来し、マラリア原虫が感染したハマダラ蚊からヒトへ伝搬された後に発症します。マラリアには5種類の感染性原虫種があり、うち2種が症状を引き起こします(熱帯熱マラリア(Pfa)=アフリカ全体で優勢、三日熱マラリア(Pvi)=アジア、米州全体で優勢)。 マラリアへの負担軽減を目指した種々の対策の結果、2000年から2015年の間に世界中で発症率は37%低下し、死亡率は実に60%減少しました。しかし、殺虫剤耐性の蚊や抗マラリア薬耐性原虫はマラリア撲滅の障害となっており、課題克服には原虫の伝搬を阻止しうる新規ツールが必要です。

 

プロジェクトの目的

マラリアの伝搬を阻止する有望なアプローチとして、いわゆる「伝播阻止ワクチン(Transmission Blocking Vaccines = TBV)」の開発があります。TBVは、ヒトのマラリア発症は防止しませんが、マラリア症例数の迅速且つ効果的な抑制が期待されます。また、TBVは、抗マラリア薬耐性原虫やRTS,S/AS01(現在最も開発が進んだマラリアワクチン)が無効な原虫を効果的に抑制します。かかる新規TBVsの開発は、マラリア撲滅活動を直接サポートする対費用効果の面で優れた介入試験にとっての優先課題です。 従来のTBVs開発は、原虫接合子の表面タンパク質や配偶子母細胞タンパク質に焦点を当ててきました。しかし、原虫志向のアプローチでは、異なる種由来のタンパク質免疫原を複数包含したTBVsの開発が必要です。我々のアプローチは、遺伝的に高度に保存されたハマダラ蚊のタンパク質を基に、原虫の受容体として機能し、マラリア原虫種に拘わらず効果を発揮するTBVの開発を目指しています。

 

プロジェクト・デザイン

アラニルアミノペプチダーゼN(AnAPN 1)は、ハマダラ蚊の中腸内腔表面タンパク質です。現時点で、AnAPN 1は、複数のハマダラ蚊種においてPfaとPvi両方の原虫の伝搬を阻止した唯一のTBV候補です。AnAPN 1に関して精力的に伝搬阻止研究が行われており、免疫化動物で高力価が誘導されています。その特異的エピトープで誘導された抗体は、蚊の体内で原虫の発育を完全に阻止することが確認されています。全長タンパク質は複数の抗原部位を包含するが、伝搬を阻止する部位はただ1つでした。高抗体価が誘導されるように必要なドメインを絞り込んだTBV開発を目指します。 AnAPN 1上の複数のエピトープをコムギ無細胞タンパク質発現系で合成し、FDA認可のアジュバントと組み合わせて、マウスを用いて効果を確認します。得られた抗体は、エピトープ構造を確認し、機能免疫学的および生物学的な試験に供します。得られたAnAPN 1由来抗原とAnAPN 1タンパク質とを比較しつつ、当該TBV候補を前臨床評価へ進めます。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

AnAPN 1は免疫化動物に高力価の免疫を誘導し、その抗体は蚊の体内で原虫の生育を阻害しました。原虫の生育阻害の結果としてヒトへの二次感染が抑制されます。AnAPN 1タンパク質をコードする遺伝子座が複数のハマダラ蚊種において高度に保存されているので、地域ごとにベクター(蚊)が異なってもAnAPN 1由来TBVが有効に機能することが期待されます。つまり、AnAPN 1由来TBVは、原虫と蚊の種のいかなる組み合わせに対しても、マラリア伝播を制御する可能性を有します。さらに蚊由来のタンパク質抗原は、原虫が抵抗性を発現するリスクを低下させ、マラリア撲滅活動におけるワクチンの長期使用を可能にするものと思われます。 我々は、マラリア伝播制御と抗マラリア薬抵抗性原虫の拡散阻止に貢献するという最終目標に向けて、AnAPN 1由来抗原TBVの開発を迅速に進めたいと考えています。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

TBV開発の焦点を原虫タンパク質から蚊由来AnAPN 1タンパク質へシフトすることにより、「単一のTBVによって地球規模で多数のマラリア原虫種の伝搬を阻止する」という一連の優位性が得られます。AnAPN 1の全長タンパク質で誘導される抗体は既に、PfaとPvi両方の原虫の伝搬を抑制することが証明されていますし、AnAPN1タンパク質の構造解析およびエピトープマッピング研究を利用することにより、他のTBV候補では達成されていない高度に標的化されたエピトープ構築が可能になります。 フロリダ大学における総合的な一連の迅速評価系に高速抗原調製のためのコムギ無細胞タンパク質発現系を組み合わせることにより、更なる開発へ進めるべき最も適切なAnAPN 1由来 TBVが同定されると考えます。

 

 株式会社セルフリーサイエンスは、フロリダ大学におけるAnAPN1標的タンパク質候補の設計を支援します。候補タンパク質ごとに遺伝子合成法を用いて発現鋳型を調製し、自らのコムギ胚芽無細胞タンパク質発現系を用いて該タンパク質を合成します。候補タンパク質ごとに特性を評価した後にUFに出荷します。

 

フロリダ大学は、候補抗原とアジュバントの組み合わせを工夫し、抗原/アジュバントごとに競合的プロファイリング免疫化研究を実施します。フロリダ大学は、抗原を接種されたマウスの免疫反応を評価するための一連の試験と共に、ヒトマラリア原虫に対する幾つかの抗原/アジュバントで作製した抗血清の伝搬阻止活性を定量化するために、ハマダラ蚊(Anopheles gambiae)に対して標準化されたメンブレイン・フィーディング検定を実施します。

各パートナーの役割と責任

株式会社セルフリーサイエンスは、フロリダ大学におけるAnAPN1標的タンパク質候補の設計を支援します。候補タンパク質ごとに遺伝子合成法を用いて発 現鋳型を調製し、自らのコムギ胚芽無細胞タンパク質発現系を用いて該タンパク質を合成します。候補タンパク質ごとに特性を評価した後にUFに出荷します。 フロリダ大学は、候補抗原とアジュバントの組み合わせを工夫し、抗原・アジュバントごとに競合的プロファイリング免疫化研究を実施します。フロリダ大学 は、抗原を接種されたマウスの免疫反応を評価するための一連の試験と共に、ヒトマラリア原虫に対する幾つかの抗原・アジュバントで作製した抗血清の伝搬阻 止活性を定量化するために、ハマダラ蚊(Anopheles gambiae)に対して標準化されたメンブレイン・フィーディング検定を実施します。

他(参考文献、引用文献など)

On malaria: WHO Malaria Fact sheet, updated January 2016 World Malaria Report 2015 by the WHO

 

On AnAPN1: The Anopheles-midgut APN1 structure reveals a new malaria transmission-blocking vaccine epitope. Atkinson SC, Armistead JS, Mathias DK, Sandeu MM, Tao D, Borhani-Dizaji N, Tarimo BB, Morlais I, Dinglasan RR, Borg NA. Nat Struct Mol Biol. 2015 Jul;22(7):532-9. doi: 10.1038/nsmb.3048. Epub 2015 Jun 15.

 

Antibodies to a single, conserved epitope in Anopheles APN1 inhibit universal transmission of Plasmodium falciparum and Plasmodium vivax malaria. Armistead JS, Morlais I, Mathias DK, Jardim JG, Joy J, Fridman A, Finnefrock AC, Bagchi A, Plebanski M, Scorpio DG, Churcher TS, Borg NA, Sattabongkot J, Dinglasan RR. Infect Immun. 2014 Feb;82(2):818-29. doi: 10.1128/IAI.01222-13. Epub 2013 Dec 9.

 

Disruption of Plasmodium falciparum development by antibodies against a conserved mosquito midgut antigen. Dinglasan RR, Kalume DE, Kanzok SM, Ghosh AK, Muratova O, Pandey A, Jacobs-Lorena M. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Aug 14;104(33):13461-6. Epub 2007 Aug 2.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

国際社会の多大な努力に拘わらず、世界の約半数の人々がマラリアのリスクに曝されている。WHOは、2015年の患者数2億人以上及び約43万人の死者数(大多数が5歳以下)と、報告した。伝搬周期を阻止することは、マラリア負担を軽減する(症例数の減少)有望な方策の一つであり、伝搬遮断介入はマラリア排除戦略上不可欠です。

 

2. プロジェクト・デザイン

マラリアは、ヒトと蚊の間を行き来するベクター介在性疾患なので、伝搬阻止ワクチン (TBV) はマラリア駆除の重要なツールです。既に、蚊の中腸タンパク質AnAPN1が最も一般的なマラリア原虫(2種)に対するTBV候補であると示されており、その構造情報に基づく新規抗原とアジュバントを組み合わせ、高力価抗体価の実現を目指します。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

タンパク質構造情報と組み合わせた以前の研究で、AnAPN1には複数のエピトープがあるが、すべてがTBV活性に寄与している訳ではないことが判明した。この情報を基に、伝搬阻止領域のみを特異的に提示し、免疫反応に焦点を当てた、新規抗原を設計した。コムギ胚芽無細胞系を用いて抗原タンパク質(AnAPN1と4種の新規抗原)を合成し、3種の異なるアジュバントと組み合わせてマウスを用いて免疫原性を調べた。

 

4つの新規抗原の内2つがAnAPN1より高い免疫原性を示した。次いで免疫化マウス血清の蚊給餌試験におけるTBV活性を調べた。この試験は、実験室株のみならず野生株(カメルーンの共同研究者とともに)も使用して実施された。本試験に野生株を含めたことは、我々が最高の抗体価を示した2種の新規抗原候補に非常に高いTBV活性を持つことを証明するのに役立った。

 

しかし、これらの実験では、抗体価とTBV活性に明確な相関が見られず、寧ろ抗原/アジュバントの組み合わせ(これは前臨床開発に向けて免疫原製剤化のための検討課題であるが)により効果が変化することが観察された。

 

全体として、我々の実験は、強力なマラリアTBVとして更なる開発のための、蚊に基づくAnAPN1候補を首尾よく最適化した。我々の研究は更に、TBV候補の開発における必須の段階としての抗原最適化に、構造情報を使用することの利点を実証した。本研究で同定した2種の新規抗原は、高い中和活性(TB)と高い標的特異的抗体価を要求する効果的TBVに対する基準を満たしている。