プレスリリース

October 31, 2017

マラリア、結核、リーシュマニア症、マイセトーマに対する 新たな治療薬、ワクチン、診断法の確立に向けて新たな投資を決定

世界で蔓延する感染症の制圧に向け設立された日本の官民パートナーシップである公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は本日、9件の製品開発案件に対して約16.7億円を新たに投資することを発表しました。このたびの投資対象には、マラリアの治療薬開発ならびに新たな診断法の開発、抗結核薬の探索研究、顧みられない熱帯病であるリーシュマニア症の治療薬およびワクチン開発、深刻な感染症として知られるマイセトーマ(菌腫)の治療薬開発が含まれます。

 

新規作用機序を持つ抗マラリア薬の開発

マラリア治療薬の開発においては、Medicines for Malaria Venture (以下、MMV)と武田薬品工業株式会社による、熱帯熱マラリア原虫が引き起こすマラリア感染の治療と予防のための新薬候補DSM265の開発に約1億5900万円を投資します。DSM265は、マラリア原虫にとって必要不可欠なDHODH (ジヒドロオロト酸脱水素酵素) を選択的に阻害する薬剤です。マラリア治療の第一選択治療法であるアルテミシニン併用療法(ACTs)への薬剤耐性が懸念される中で、DSM265は従来にはない新たな作用機序を有する抗マラリア薬として期待されています。また、DSM265は、熱帯熱マラリア原虫に対して治療・予防効果が期待される画期的な新薬候補です。この新薬候補は、2016年にペルーで行われた第二相臨床試験(概念実証試験)において、400ミリグラム製剤の単回投与で被験者13人のうち12人が治癒するなど、これまで有望な研究結果が示されました。最終的に、他の治療薬と併用することによって、さらに良い治療効果を得ることを目指しています。

 

GHIT FundのCEOであるBTスリングスビーは、「我々が2013年にこのパートナーシップに最初の投資をして以来、着実に成果を積み重ねてきたことは大変素晴らしいと思います。新たな抗マラリア薬は待ち望まれ続けていますが、この開発チームは日本のイノベーション、グローバルヘルスにおける専門性、リーダーシップを兼ね備えており、様々な困難を乗り越えてくれることを期待しています。」と述べています。

 

このたびのGHIT Fundの投資では、小児に最適な経口製剤の開発を行います。DSM265は、難溶解性かつ高透過性の薬物であるために、生物学的有効性を向上するための処方化技術への投資が必要不可欠です。一方、DSM265は他の抗マラリア薬よりも製造コストが高くなることが想定されており、化学合成における改善や原材料費の抑制などが検討されています。また、熱があり、体調がすぐれない子どもでも服用できるように、最終的には、最小限の液体量で服用できるような処方設計が求められています。 マラリア新薬の開発は、グローバルヘルスにおける最優先事項です。現在、最も有効なACTsに耐性を持つマラリア原虫が東南アジアに広がっていることが報告されており、マラリアによる世界の死亡者数の90%を占めるアフリカにもその脅威が迫りつつあることが懸念されています。マラリアの専門家たちは、世界で最も有効な抗マラリア薬がアフリカで効かなくなれば、アフリカにおけるマラリアでの死亡者数を劇的に減らしたこの10年間の歩みが無に帰してしまうことになるだろうと警鐘を鳴らしています。

 

さらに、GHIT Fundは、エーザイ株式会社(以下、エーザイ)とMMVが実施するマラリア新薬候補となる化合物群の研究開発に対して、約2億6397万円を投資します。この化合物群は、以前のGHIT Fundのヒット・トゥー・リードプログラムの下で見出されたものです。このパートナーシップでは、エーザイが見出したヒット化合物に対して最適化を行い、その中からマラリア原虫への効果が期待される複数のリード化合物が同定されました。エーザイとMMVの分析によれば、これらの化合物群はマラリア原虫の生育に不可欠なグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)の生合成を阻害し、結果として全てのGPIタンパク質の原虫表層での発現を阻害する活性を持つと考えられています。エーザイとMMVの研究開発チームは、このマラリア原虫が持つGPIタンパク質の原虫表層での発現を効果的に阻害できる化合物は、従来にない新規の作用機序を持つ抗マラリア薬になると期待しています。

 

体内に潜伏する休眠期マラリア原虫を特定する診断法

長崎大学熱帯医学研究所、オランダの生物医学霊長類研究センター、熊本高等専門学校とのパートナーシップに対して、GHIT Fundは約7288万円 を投資します。このプロジェクトでは、体内に潜伏する休眠期のマラリア原虫を特定する診断法の開発を進めます。 三日熱マラリア原虫は、マラリアを引き起こす病原体の1種です。熱帯熱マラリア原虫によるマラリア感染ほど致死性は高くありませんが、三日熱マラリアから回復した後も休眠体(ヒプノゾイト)として知られる三日熱マラリア原虫が肝臓にとどまり、数週間、数ヶ月、または数年後に再発することで、再び症状が現れます。また同様に重要なのは、マラリアが再発するたびに、マラリア原虫が感染者から蚊へ伝播してしまうことです。これは、すでに蔓延している地域で三日熱マラリアを排除することが特に困難であることを意味します。 そのため、三日熱マラリア原虫の休眠体を検出するための信頼性の高い診断法ができれば、原虫が残存している人を特定し、休眠体を殺滅する治療薬を用いることで、いわゆる三日熱マラリア原虫の「隠れ家」を一掃することができます。GHIT Fundが投資するこの診断法開発では、肝臓外で検出されると想定される休眠体の生成物もしくは代謝産物の同定や休眠体の存在を示しうる肝臓の活動や代謝に関する微細な変化の検出が重要な鍵となります。

 

新たな抗マラリア薬のための探索研究

さらにGHIT Fundは、新たな抗マラリア薬探索に向けた2つの案件、エーザイとMMVに約495万円、アステラス製薬株式会社(以下、アステラス)とMMVに約658 万円を投資し、各社の化合物ライブラリーを用いたスクリーニングが行われます。

 

最も顧みられない深刻な組織破壊性感染症、マイセトーマとの戦い

マイセトーマ(菌腫)は、最も顧みられない熱帯病の一つです。慢性的に組織の破壊が進行していく深刻な感染症で、進行した症例の場合、治療がうまくいかない時には四肢切断を伴うこともあります。「マイセトーマベルト」とも呼ばれる、ベネズエラ、エチオピア、インド、メキシコ、スーダン、セネガルやソマリアなどの熱帯・亜熱帯諸国で流行がみられます。貧しく、若年者の感染例が多く、足にできた小さな傷などから細菌または真菌が侵入し、マイセトーマを発症します。細菌による感染の場合は既存の抗生物質で治療できますが、真菌による感染の場合は、現在、唯一の治療薬であるイトラコナゾールの効果が低く、しかも高価で、最低1年間は1日2回の服用が必要となります。その場合でも完治は難しいとされます。

GHIT Fundは、スーダンでの第二相臨床試験を進める、ジュネーブに本拠を置くDrugs for Neglected Diseases initiative(以下、DNDi)と、エーザイ、ハルツーム大学菌腫研究センターとのパートナーシップに 約2億5262万円を投資します。この試験では、新薬ホスラブコナゾールと既存薬イトラコナゾールを比較する予定です。ホスラブコナゾールは、シャーガス病治療薬候補として既にヒトでの臨床試験が実施されており、安全性と忍容性が確認されています。スーダンでの臨床試験では、138人の患者が3つのグループ(治療群)に分けられる予定です。2つの治療群には毎週それぞれ200ミリグラムおよび300ミリグラムのホスラブコナゾールを経口投与します。 3ヶ月後に研究開発チームはどちらの投与量がより安全で効果的であるかを中間解析し、優れた群を標準治療薬であるイトラコナゾールを投与する3つ目の治療群と比較します。

 

リーシュマニア症治療のための画期的なDNAワクチン

GHIT Fundは、リーシュマニア症の予防もしくは治療に向け、画期的なワクチン候補の研究開発に対し、約 4億967万円を投資します。このプロジェクトの製品開発パートナーは、欧州ワクチン・イニシアティブ、長崎大学、ドイツのバイオテクノロジー企業であるMologen AG、シャリテ・ベルリン医科大学(ベルリン自由大学医学部、フンボルト大学医学部及びベルリン衛生研究所の統合医科大学)、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院で構成されます 。このたびのGHIT Fundによる投資は、リーシュマニア症のワクチン候補の前臨床開発を完了させ、安全性と免疫応答を検証するヒトでの第一相臨床試験に向けた基盤を築くことを目的としています。リーシュマニア症は、サシチョウバエが媒介する寄生虫症です。アジア、中東、アフリカ、中南米で蔓延し、感染者にさまざまな問題をもたらします。皮膚リーシュマニア症は中程度または外観を損なうほどの皮膚潰瘍を引き起こし、内臓リーシュマニア症は寄生虫が内臓に侵食し死に至る病気です。しかしながら、リーシュマニア症のワクチンは確立されておらず、薬物治療の選択肢は限られており、薬剤耐性原虫の出現も差し迫った問題です。

 

このたびのGHIT Fundの投資では、リーシュマニア症に効果的な治療または予防をもたらす、革新的なワクチン開発を支援します。リーシュマニア症から治癒し生涯にわたる免疫を獲得した人々では、ヒト免疫系において重要な鍵をにぎるT細胞が、抗体よりも感染防御のために必須であることがわかってきています。しかしながら、従来のリーシュマニアワクチンではこのT細胞を効果的に誘導することができていません。この課題を克服するため研究開発チームは、T細胞誘導型のDNAワクチンを開発しています。このワクチンは、リーシュマニア抗原に対する免疫応答としては従来と異なるアプローチを採用しており、抗原そのものをワクチンとして用いるのではなく、5種の異なるリーシュマニア抗原をヒト細胞に発現させて免疫応答を惹起させるDNAをワクチンに用います。

 

リーシュマニア治療薬開発に向けた新たな取り組み

さらにGHIT Fundは、DNDiと日本の核酸医薬品専業開発・製造受託企業であるジーンデザインによるプロジェクトに約4億9187万円を投資します。このプロジェクトでは、皮膚リーシュマニア症治療薬の候補化合物をヒトでの臨床試験に進めるための検討を行います。 GHIT Fundの投資は、CpG D35として知られる治療薬候補が、単独治療薬として使用できる可能性があるのか、あるいは患者の症状を改善するためには現在治療に用いられている化学療法薬との併用が必要なのかを判断するために、原薬の製造および製剤の検討ならびに安全性を評価する前臨床試験に使用される予定です。

 

抗結核薬の探索研究

薬剤耐性結核は世界的な公衆衛生上の重大な懸念となっており、新薬の探索が急務となっています。既存薬は有効ではあるものの、患者は毎日、複数種類の結核薬を半年にわたって服用しなければなりません。GHIT Fundは、新たな結核薬の探索を目指し、アステラスとTBアライアンスのパートナーシップによる化合物探索スクリーニングに対して約999万円を投資します。アステラスが保有する化合物ライブラリーを用いて、イリノイ大学シカゴ校でスクリーニングを行います。

 

* 全金額は為替レートUSD1 = JPY100で記載しています。