プレスリリース

March 30, 2017

アフリカで蔓延し、人々を苦しめる寄生虫病の一つである住血吸虫症の小児用治療薬の後期臨床試験等に対して新規投資を決定

Ÿ住血吸虫症の小児治療薬開発に向け、規制当局の承認審査および

世界保健機関への事前認定前の最終段階となる第III相臨床試験への投資

Ÿマラリアワクチン、デング熱向け抗体医薬品への新たな投資

Ÿマラリアおよび顧みられない熱帯病に対する革新的な製品への継続的な投資

 

世界で蔓延する感染症の制圧に向け設立された日本の官民パートナーシップであるグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は本日、11のプロジェクトに対して総額約23億円を新たに投資することを発表しました。これらの投資は、人々を苦しめる様々な顧みられない病気に対する、新しく革新的な幅広い治療法を届けることを支援するものです。

 

今回の新たな投資の対象の一つには、住血吸虫症の小児用標準治療薬として期待される製剤、プラジカンテルを評価する第III相臨床試験への投資が含まれます。住血吸虫症は、急性および慢性の様々な健康障害をもたらたす淡水に生息する寄生虫による感染症です。そのリスクに最も晒されるのは幼い子どもたちですが、既存の治療薬は苦味が強く、錠剤が大きく飲み込みにくいため、子どもたちはしばしば未治療のままとなり、生涯にわたる健康障害や学習障害につながる恐れがあります。

 

この臨床試験は、GHIT Fundが推進するパートナーシップの中で最も先行して進んでいるプロジェクトの一つです。さらに、GHIT Fundは、二つのマラリアワクチン候補に対しても新たな投資を行うとともに、マラリア、デング熱、シャーガス病、クリプトスポリジウム症、リーシュマニア症の新規治療薬開発を推進するプロジェクトにも投資を行います。

 

GHIT FundのCEOであるBT スリングスビーは次のように述べています。「GHIT Fundが推進するパートナーシップを通じた治療薬やワクチン開発によって、製品化に向けた具体的な成果が生まれてきています。そして、私たちはこれが革新的なブレークスルーにつながると期待しています。日本が有する創薬に関する豊富な人材や能力、知見が、世界の感染症の専門家たちと結びつくことで、素晴らしい成果を創出できるということを私たちは認識していました。そして、今まさに私たちが目にしている多くのプロジェクトの進展はそれを実際に裏付けるものです。」

 

服用しやすい住血吸虫症治療薬の開発へ

 

急性および慢性の健康障害を引き起こす住血吸虫症は、淡水産貝を宿主とする寄生虫が発症源となる感染症です。この病気は、住血吸虫と呼ばれる寄生虫によって引き起こされ、通常は淡水に入ることで感染します。78の開発途上国で流行しており、世界保健機関(以下、WHO)によると、2015年には1億人の児童を含む2億6千万人以上の人々が住血吸虫症に感染しているとされます。感染の約9割は、安全な水を得ることが困難なアフリカで起きています。生命を脅かすことこそ稀ではあるものの、適切な治療を受けない場合、貧血や成長障害、学習障害、重要な器官の慢性炎症を引き起こすことがあります。

 

GHIT Fundは今回、住血吸虫症治療薬であるプラジカンテルの、生後3ヶ月から6歳の未就学児を対象とした小児用製剤を評価するアフリカでの第III相臨床試験に対して、約4.7億円を投資することを決定しました。また、この臨床試験に関しては、パートナーによる共同投資も行われる予定です。

 

1970年代から、住血吸虫症の標準治療薬プラジカンテルは、成人もしくは就学児童に対して単回投与されてきました。しかし、現在の適応では、5歳以下の未就学児には使用することができません。また、乳幼児に対するデータも限られているため、最適な服用量もまだ分かっていません。さらに、既存のプラジカンテルは苦味も強く、錠剤が大きいため、未就学児には服薬が困難、または飲み込むことすら不可能です。現在、国際的な官民パートナーシップであるプラジカンテル小児製剤コンソーシアムによって、生後3ヶ月の乳幼児にも投与が可能な、より小さく、味もよい錠剤の開発が進められています。このコンソーシアムには、アステラス製薬株式会社、オランダのLygature、ドイツのメルク、スイス熱帯公衆衛生研究所、イギリスのSimcyp Limitedと住血吸虫症制圧イニシアチブ(SCI)、ブラジルのFarmanguinhosが参画しています。

 

本プロジェクトに関しては、GHIT Fundによるこれまでの投資によって、2015年から2016年にかけて第II相臨床試験が進められました。今後、第III相臨床試験で良好な結果が得られれば、規制当局の承認審査およびWHOからの事前認定への道が開かれ、住血吸虫症に苦しむ世界の幼い子どもたちのために、手ごろな価格で、服薬が容易なプラジカンテルを供給できるようになることが期待されます。

 

マラリア対策への投資

 

GHIT Fundは、マラリア原虫に感染したヒトから蚊への伝搬を防ぐ、独自のマラリアワクチン開発のためのプロジェクトに対して約6000万円を新たに投資します。これは、マラリアのヒトへの感染を防ぐものではありませんが、ワクチンを接種した人は、蚊とヒト間の伝搬を繰り返すマラリア原虫による感染の負のサイクルを断ち切る、「人間の盾」になることができます。2015年にはマラリアにより約43万8千人もが命を落としており、その大半はサハラ砂漠以南のアフリカの子どもたちです。このワクチンは伝搬阻止ワクチンとも呼ばれ、開発が成功すれば、マラリア制圧のための強力な武器となることが期待されます。

 

本プロジェクトは、愛媛大学と米国のPATHマラリアワクチンイニシアチブによるもので、ヒトから蚊へのマラリアの伝搬を阻止する抗体を産生する、致死性の高い熱帯熱マラリア原虫のPfs230と呼ばれるタンパク質のワクチン効果を評価します。研究者のチームは、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成法と呼ばれる革新的な研究手段を用いて、非常に複雑かつ巨大なPfs230タンパク質のワクチン候補領域を探索します。このプロジェクトの目標は、Pfs230のマラリア伝搬を阻害する領域を利用し、新たな伝搬阻止ワクチンの開発を加速させることです。

 

GHIT Fundではさらに、大阪大学微生物病研究所、大阪大学医学部附属病院未来医療センター、ドイツの欧州ワクチン・イニシアティブ、ブルキナファソ国立マラリア研究センター、日本のノーベルファーマ株式会社による有望なマラリアワクチン候補の開発に約2.8億円を投資することを決定しました。研究対象となるBK-SE36と呼ばれるワクチンは、成人の日本人と、6歳から32歳までのウガンダ人の被験者を対象とした初期の臨床試験において、免疫原性に関する良好な結果を示しています。このワクチンは現在、マラリアが蔓延するブルキナファソで1歳から5歳の小児グループを対象とした第Ib相臨床試験で検証が行われています。今回のプロジェクトでは、アフリカの健康な成人と子どもを対象にして、免疫応答を増強するアジュバント(免疫賦活化剤)を追加したワクチンを用いて、安全性・有効性の評価を行います。

 

また、既存の治療法に耐性を持つマラリア原虫に対処するため開発が早急に必要とされる新規抗マラリア薬に関する4つのプロジェクトに対して継続投資を行います。ここ数年の間に既存の有効な抗マラリア薬が効かない熱帯熱マラリア原虫が、当初は東南アジアで、そして最近ではアフリカでも出現しています。そのため、単回投与でマラリア原虫を殺すことのできる新しい抗マラリア薬の開発が急がれています。今回のGHIT Fundによる抗マラリア薬関連への新たな投資は以下の通りです。

 

エーザイ株式会社(以下、エーザイ)とスイスのMedicines for Malaria Venture(以下、MMV)によるヒット・トゥ・リード・プログラムのプロジェクトに対して約7500万円を投資します。これまでに、エーザイが保有する化合物ライブラリーの中から20,000個の化合物のスクリーニングが行われた結果、ヒット化合物群が得られました。MMVとエーザイは、これまでも抗マラリア薬のリード化合物候補となりうるものを同定し、マラリア原虫の異なる段階に対する活性を評価してきました。今回の新たな投資を通じて、これまでに特定したヒット化合物をさらに詳しく研究するとともに、リード化合物の探索を行っていきます。

 

武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)とMMVのヒット・トゥ・リード・プログラムのプロジェクトに対して約4830万円を投資します。このプロジェクトでは、武田薬品が保有する化合物ライブラリーの中から特定されたヒット化合物群から、マラリアの新規治療薬へとつながる可能性のあるリード化合物を導きます。

 

エーザイ、米国のブロード研究所、MMVのプロジェクトに対して約2億円を投資し、マラリア原虫の伝搬を阻止することで薬剤耐性株に素早く対処し、蔓延を防ぐことができる化合物の同定を目指します。今回の新たな投資では、さらなる研究に進むことができる2つまたは3つの化合物を同定することを支援します。

 

エーザイ、米国のケンタッキー大学、MMVによる抗マラリア薬の候補化合物SJ733の第IIa相臨床試験に対して約4.5億円を投資します。SJ733は、他の抗マラリア薬との併用薬の一つとして用いられることが想定されており、即効性が高く、再発予防に対する効果が期待されています。このプロジェクトでは、成人を対象とした第IIa相臨床試験の実施に加えて、処方設計の検証や、管理された環境下で健常者へマラリアを曝露させ、かつ薬剤の有効性を検証するというチャレンジトライアルが実施されます。これらの取り組みは、マラリアのリスクに最も晒されている子どもと妊婦に対する今後の臨床試験に向けての土台になります。

 

世界で最も顧みられない熱帯病に対するGHIT Fundの継続的支援

 

GHIT Fundは今回の一連の投資を通じて、世界で最も顧みられない熱帯病に立ち向かう取り組みを継続していきます。これらの顧みられない熱帯病により、世界の10億人以上の最貧困層が苦しんでおり、幅広い慢性的な精神や身体の障害が引き起こされることで、貧しい生活を余儀なくされています。一方、顧みられない熱帯病に対して、日本は長年に渡って優先課題として位置づけ貢献を続けてきました。GHIT Fundは2014年にロンドン宣言[i]を支持し、顧みられない熱帯病のための製品開発を推進することを表明しています。このたびの、顧みられない熱帯病に対する新たな投資は以下の通りです。

 

中外製薬株式会社とシンガポール科学技術研究庁シンガポール免疫ネットワークによる、4種の血清型のデング熱に対する抗体医薬品の非臨床試験に対して、約5.3億円を投資します。蚊によって伝搬されるこの病気によって世界的な負担は増加しており、今や全世界のおよそ半数の人々がデング熱に感染するリスクに晒されています。デング熱はインフルエンザのような症状や極度の関節痛を引き起こし、致命的な出血熱を進行させることがあります。このプロジェクトでは、デング熱の症状の早期軽減や致死的な重症化の予防、治療法の確立などを目指します。

 

第一三共株式会社と顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ(以下、DNDi)による、リーシュマニア症とシャーガス病の治療に向けた、ヒット・トゥ・リード・プログラムのプロジェクトに対して、約7800万円を投資します。これまでに行われたスクリーニングによって、複数のヒット化合物群が同定されており、今回のプロジェクトを通じてリード化合物の探索を行います。

 

エーザイ、塩野義製薬株式会社、武田薬品、DNDiによる顧みられない熱帯病創薬ブースタープログラムに対し、約5500万円の追加投資を行います。このプログラムは、リーシュマニア症やシャーガス病の治療に向けた初期ステージの創薬を加速させる画期的なイニシアティブです。内臓リーシュマニア症は発熱や体重減少、脾臓の肥大、貧血の原因となります。治療されなければ、ほとんどの場合死に至ります。シャーガス病は、中南米において他のどの寄生虫病よりも多く人々の命を奪っており、深刻な心臓障害や腸の疾患を引き起こします。今回の新たな投資によって、治療薬の実用化に向けた初期段階の障壁を克服することを目指したブースタープログラムが継続されるとともに、DNDiが数千もの多様な化合物を同時に評価することによって、新規のリード化合物の探索を行うことが可能になります。

 

マラリアやシャーガス病、リーシュマニア症、乳幼児の深刻な下痢を引き起こす主な原因であるクリプトスポリジウム症に対する新たな薬剤標的の同定を目指すプロジェクトに対して、約9800万円を投資します。この取り組みは、理化学研究所環境資源科学研究センターと、カナダのトロント大学構造ゲノミクスコンソーシアムとマギル大学、メルボルン大学、MMV、DNDiにより進められます。

 

* 全金額は為替レートUSD1 = JPY100で記載しています。

[i] ロンドン宣言は、2020年までにNTDs10疾患を制圧することを目的として、2012年1月、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、世界保健機関(WHO)、米国および英国政府、世界銀行、およびNTDs蔓延国政府による過去最大規模の国際官民パートナーシップとして発表されたイニシアチブです。

https://www.ghitfund.org/about/mediacenter/pressdetail/detail/81/jp