プレスリリース

October 5, 2016

グローバルヘルス技術振興基金 顧みられない病気根絶のため 有望な研究へのさらなる投資を決定

GHIT Fundポートフォリオの中で最も開発が進むプログラムの一つである

単回投与抗マラリア薬開発への継続的投資に加え

マラリア、結核、デング熱の治療薬およびワクチンへの新規または継続的投資が決定

 

世界で蔓延する感染症の制圧に向け設立された日本の官民パートナーシップであるグローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は本日、6つのプロジェクトへ総額11.4億円を投資することを発表しました。

 

GHIT Fundは日本と海外の研究機関による画期的な共同研究開発を支援しています。この度決定した投資プロジェクトの中には、3年前のGHIT Fund発足当時からの投資プロジェクトの一つであり、現在、GHIT Fundポートフォリオの中で最も開発が進むプロジェクトの一つでもある単回投与抗マラリア薬開発へのさらなる投資も含まれています。この薬剤は、拡大する薬剤耐性マラリアの脅威に対しても、その対策となりうることが期待されます。また、その他2つの抗マラリア薬、ならびに結核とデング熱に対する複数のワクチンや治療薬の開発が含まれます。

 

未だ猛威を振るうマラリアの脅威

既存のマラリア治療法はマラリアによる疾病負荷の軽減に役立ってきましたが、現在でもマラリアによって年間約50万人もの人々が命を落としており、そのほとんどはサハラ以南のアフリカの子どもたちです。麻疹やその他のワクチンで十分にコントロールされている病気とは異なり、マラリアは同じ人間が何度も感染する恐れがあり、有効性の高いワクチン開発のための最善の科学的な取り組みにも抵抗を続けています。マラリアに繰り返し感染すると、患者は徐々にある程度の免疫をつけますが、初めて感染した小児にとってマラリアは特に深刻な脅威です。また、殺虫剤や既存薬、その他のマラリアをコントロールする手段に対して原虫を媒介する蚊や原虫自体の耐性が増加し続けていることも深刻な問題です。

 

現在、マラリアは何日間にもわたり複数の薬剤を毎日投与(場合によっては静脈内投与)することによって治療が行われていますが、有効な単回投与治療薬が利用可能になれば、経済的負担となる医療機関への度重なる通院を減らせるかもしれません。これは、マラリアの脅威にさらされている世界の貧困地域では特に必要なことです。また、薬剤耐性の出現を遅らせるために重要となる治療レジメンに対する服薬コンプライアンスという点においても、その改善が期待されます。

 

マラリア対策においては、薬剤耐性の問題を克服するための有効な新規抗マラリア薬が求められており、GHIT Fundは3年前の発足以来、それを実現する薬剤の開発のために日本の主要製薬企業の一つである第一三共株式会社(以下、第一三共)と、スイスに拠点を置く抗マラリア薬の主要な製品開発パートナーシップの一つであるMedicines for Malaria Venture(以下、MMV)とのパートナーシップに投資してきました。GHIT Fundの製品開発ステージを進んできたこのプロジェクトに対し、GHIT Fundはさらに約1.8億円を投資します。このプロジェクトは、第一三共による5万種類の化合物のスクリーニングから始まったもので、熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の両方について、1回のみの投与で効果が期待でき、また、患者間のマラリアの伝播を予防するとともに、再発およびさらなる感染から人々を守る手段となりうる薬剤の開発を目的としています。

 

GHIT FundのCEO兼専務理事であるBT スリングスビーは次のように述べています。「マラリア原虫は今なお医学界にとって大きな脅威であり、現在最も有効な医薬品に対しても耐性を示すように変化し続けています。こうした中、第一三共とMMVがGHIT Fundによる3年前の最初の投資開始以来、有効な新規抗マラリア薬の開発に尽力され、成果をあげられていることを誇りに思います。またこの成果は、新薬の探索や開発といった点で、GHIT Fundのパイプラインが成功していることを証明するものであると考えています。そして何よりも重要なことは、我々が投資するプロジェクトが人々の生命を救うことができるようになることであり、我々はその日を心から待ち望んでいます。それを実現させるためには、継続的な投資と世界中でのさらなる共同研究が不可欠です。」

 

GHIT Fundはさらに、この他二つのマラリア対策のプロジェクトに対しても新たな投資を行います。

 

1つ目は日本最大の製薬企業である武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)とMMVのパートナーシップによる抗マラリア薬候補DSM421の研究に対する約7.5億円の投資です。これは、現在、単回投与抗マラリア薬候補開発のリード化合物としてDSM265の研究が進むDHODH (ジヒドロオロト酸脱水素酵素) 阻害剤プログラムの一部です。この度のGHIT Fundによる投資は、DSM421に関する研究を第IIa相臨床試験へと進展させることを支援するものです。

 

2つ目はスクリーニングプログラムで特定されたヒット化合物を最適化するGHIT Fundのヒット・トゥ・リードプログラム(HTLP)の一環である田辺三菱製薬株式会社とMMVへの約6千万円の投資です。

 

デング熱と結核の研究促進への投資

マラリアと同様、蚊によって伝播する感染症の一つであるデング熱は、過去数十年の間に劇的に拡大しており、現在では世界の人口の半数以上がそのリスクにさらされています。GHIT Fundではこの脅威の重大さを認識し、過去3年間にデングワクチンを研究する複数のグループへの投資を行ってきました。そしてこの度、米国メリーランド州の製薬企業VLP Therapeuticsが主導し、長崎大学と日本の国立感染症研究所と共同で進めるプロジェクトに約1億円を投資します。このプロジェクトは、ウイルス様粒子(VLP)の技術を用いて作製されたデング熱に対する新規ワクチンの前臨床研究です。VLPベースのワクチンは免疫応答の誘導作用が特に強いことが分かっており、VLPベースのデングワクチンは、より短期間かつ少ない接種回数でデング熱の治療を可能にするものです。

 

GHIT Fundではさらに、結核対策への投資を拡大します。毎年960万人が結核に罹患し、そのうち150万人以上が死に至りますが、結核に対して有効なワクチンや安全で扱いやすい抗結核薬の開発が必要とされています。

 

GHIT Fundはこの度、東京大学、マレーシア科学大学、 メキシコNutricion研究所およびチリのコンセプシオン大学の研究グループによる、現在の標準的な注射ワクチンより投与が容易かつ安価な初期の結核に対する鼻腔内投与型ワクチンの開発に約4千万円を投資します。

 

また、理化学研究所のライフサイエンス技術基盤研究センターおよび国連が主導する国際遺伝子工学・バイオテクノロジーセンター ケープタウン支部の研究グループによる、結核菌が人間の体内、特に潜伏性結核に感染しながら生涯発病しない人の体内で生存し複製する仕組みに関する研究に対しても、約2千万円を投資します。この研究により、有効性が高い新規抗結核薬の開発が進むことが期待されます。