プレスリリース

March 31, 2016

致死的なマラリアを標的とした革新的なワクチンを含む新規投資を決定

マラリア撲滅や急速に広がる抗マラリア薬耐性への対策に向けた有望なアプローチ

マラリアと結核診断、リーシュマニア症と土壌伝播寄生虫症の新たな治療薬も新規投資の対象に

 

グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は本日、マラリア撲滅に向けた革新的な2つの技術を開発するために新たに1億3800万円を投資することを発表しました。この度の新規投資には、2種の致死的なマラリアの伝搬を阻止するワクチンの開発ならびに屋外でマラリアへの感染を短時間で迅速に診断することのできる検査技術の開発が含まれます。

 

GHIT FundのCEO兼専務理事であるBTスリングスビーは次のように述べています。

「伝搬を阻止できなければ、マラリアの撲滅を成し遂げることはできません。そのためには2つの本質的な手段が不可欠です。一つはヒト・蚊間のマラリア伝搬サイクルを阻止するワクチン、そしてもう一つは、自覚症状が無いままマラリアの感染を拡大する無症状病原体保有者を特定し、その治療を可能にする簡易で迅速な検査技術です。」

 

これらマラリア対策への新規投資に加え、GHIT Fundではこの度、感染症による死亡者数がHIVを上回り第一位となった結核への取り組みとして、新たな診断技術の開発を加速させるために、2億1600万円を投資することを決定しました。さらに、数十億もの人々を苦しめている2つの顧みられない熱帯病の治療薬の開発にも、1億6900万円を投資することを決定しました。その一つは、サシチョウバエが媒介するリーシュマニア症と呼ばれる寄生虫症で、皮膚型は深刻な皮膚潰瘍を引き起こし、内臓型は内臓に致死的な影響を与えます。もう一つは、寄生蠕虫を病原体とする土壌伝播寄生虫症で、世界中で20億の人々が感染し、子どもの慢性的な身体機能障害や認知機能障害を引き起こす原因となっています。 「マラリアや顧みられない熱帯病への新たな投資には、GHIT Fund、そして日本が、開発途上国の人々の生命や健康を守るために、最も革新的かつ先進的な研究開発の手段を講じていくという明確なメッセージが表れています。」とスリングスビーは述べています。

 

GHITのマラリア撲滅へ取り組み

マラリアによる死亡者数は毎年数十万人にも上り、そのほとんどはサハラ砂漠以南のアフリカの子どもたちです。マラリアによる疾病負荷は近年こそ減少してきましたが、進化し続けるマラリア原虫は依然として手強い敵であり、絶えず変異して現在世界で最も有効とされる薬や殺虫剤にも耐性を発現させます。つい昨年には、今や東南アジアに急速に広がりつつある薬剤耐性マラリア原虫が、アフリカの蚊にも感染することが研究者たちによって発見されました。マラリアの専門家たちは、世界で最も有効な抗マラリア薬がアフリカで効かなくなれば、マラリア撲滅に向けたこれまで何十年もの歩みが無に帰してしまうことになるだろうと警鐘を鳴らしています。

 

薬剤耐性の脅威に危機感を募らせているマラリア研究コミュニティは、2030年までにマラリア伝搬阻止ワクチンを供給可能にすべく努力を重ねています。目標は、より致死性の高い熱帯熱マラリア原虫と、より分布域の広い三日熱マラリア原虫のいずれかまたは両方を標的にしたワクチンの開発です。GHIT Fundは、日本のバイオ技術企業である株式会社セルフリーサイエンス(以下、セルフリーサイエンス)と米フロリダ大学による、熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫の両方を標的としたマラリアワクチンの共同研究開発に4200万円を投資します。

 

この研究は、現在有望視されている蚊ステージの伝搬阻止ワクチンを対象に行われているものです。「蚊ステージ」とは、ワクチン自体は人に接種するものの標的は蚊であることを意味します。蚊がワクチン接種者を刺したとき、蚊が吸引した血液にはワクチンにより生成された抗体が含まれるため、人から蚊への原虫の伝搬が阻止されることが期待されています。ワクチンでヒト・蚊間の伝搬サイクルを阻止することができれば、十分な数の人々が予防接種を受けることで、いずれはコミュニティ全体のマラリア罹患率を大幅に低下させることができると考えられています。

 

この他にも複数の伝搬阻止ワクチンの開発が進められていますが、セルフリーサイエンスとフロリダ大学によるマラリア伝搬阻止ワクチンの候補は、熱帯熱マラリア原虫と三日熱マラリア原虫の両方を阻止できる可能性を唯一併せ持っています。このマラリアワクチン候補は、蚊の腸内に存在するAnAPN1と呼ばれるタンパク質を標的としています。AnAPN1は、これら2つのタイプのマラリア原虫の人から蚊への伝搬において重要な役割を果たしています。このワクチンの人への投与により、原虫が蚊によって伝搬されるのを阻止できることが期待されています。

 

セルフリーサイエンスの尾澤哲代表取締役社長は次のように述べています。「GHIT Fundからの投資により、我々のチームはAnAPN1に着目したワクチン候補を前臨床段階に進めるために必要な実験を行うことが可能となりました。セルフリーサイエンスでは、マウスを用いた実験のために、異なる種類のAnPN1タンパク質に対して抗体を生成するタンパク質を用いて、この抗体が原虫伝搬サイクルを阻止できるかどうかを検証します。AnAPN1の最適な抗原の選定は、私たちの伝搬阻止ワクチンの成功に不可欠なものです。」

 

隠れた病原巣からのマラリア原虫の根絶

マラリア撲滅のためのもう一つの大きな障害は、マラリアに感染した無症状病原体保有者への対策です。無症状病原体保有者はマラリアの自覚症状こそないものの、蚊に刺されることで知らぬ間にマラリア原虫を蚊に感染させてしまいます。GHIT Fundではマラリアの伝搬に立ち向かうため、従来の無症状性マラリアの診断技術よりもより迅速で高感度の診断システムの開発に9600万円を投資します。このプロジェクトには、パナソニック株式会社、順天堂大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、長崎大学熱帯医学研究所、マラリア・ノーモア・ジャパンといった日本に拠点を置く企業や団体の研究者や協力者、ならびにケニア中央医学研究所が参画しています。

 

本プロジェクトの目的は、設備等資源の乏しい環境でも利用でき、無症状の人が原虫保有者かどうかを10分以内に診断できる検査技術を開発することです。一見、治療を受けて治癒したかのように見えても、実際にはマラリア原虫を完全に駆除できていない場合があることなどからも、マラリア原虫の有無について多くの人を迅速に検査できる技術は、マラリア撲滅活動全体にとっても、薬剤耐性を追跡するための継続的な取り組みにとっても不可欠なものです。

 

プロジェクトチームがウガンダでプロトタイプを用いた現地予備試験を行った結果、プロトタイプによる検査の方が、既存の方法よりも優れたパフォーマンスを発揮しました。GHIT Fundの投資により、マラリア流行地域におけるさらなる評価と検証が行われます。

 

HIV感染者の結核検査

GHIT Fundではまた、ヘルスケアのリーディングカンパニーの一つである富士フイルム株式会社(以下、富士フイルム)とスイスのFoundation for Innovative New Diagnostics(以下、FIND)によるHIV感染者の活動性結核を同定する迅速診断検査の開発へ2億1600万円を投資します。今日、HIV感染者の3人に1人はAIDSではなく結核で亡くなっています。このため、結核を低コストで早期に検出可能にすることが急務です。しかし、既存の診断方法ではHIV感染者の結核を確実に検出することができません。その理由の一つは、従来の検査には喀痰が必要であり、多くの重複感染者から喀痰を正しく収集することが難しいからです。

 

富士フイルムとFINDによる検査は、活動性結核感染を検出するのに尿を用いるものです。初期のエビデンスによれば、この検査は既存の方法よりも高感度で行える可能性があり、また検査結果もより簡単で素早く得られる可能性があることが明らかになっています。GHIT Fundによる投資は、研究者がこの検査技術の開発を進め、結核患者、とりわけHIVとの重複感染者からのサンプルを収集することを可能にします。

 

富士フイルムの後藤禎一執行役員メディカルシステム事業部長は次のように述べています。「HIV感染者は結核に感染しやすく、初期の検出が命を救います。私たちは、尿サンプルのみを必要とする結核の迅速診断検査を開発するFINDとのプロジェクトが、死に至るこれら両方の病気に対処しなければならない、世界中の数百万人の人々にとって重要な開発になるものと期待しています。」

 

サシチョウバエや寄生蠕虫による顧みられない病気の新たな治療薬

GHIT Fundではさらに、グローバルヘルスの非営利団体であるPATH、Meiji Seikaファルマ株式会社、味の素株式会社、マサチューセッツ・メディカルスクール大学の国際的なパートナーシップによる、Cry5Bと呼ばれるタンパク質に着目した土壌伝播寄生虫症の新たな治療薬の開発へ1億円を投資します。 土壌伝播寄生虫症は、人の糞便に含まれる回虫、鞭虫、および鉤虫の卵によって感染します。衛生状態の悪い地域では、これらの虫卵により土壌が汚染されます。土壌伝播寄生虫症は世界で最も多く見られる感染症の一つで、下痢、衰弱および慢性失血による貧血を引き起こします。WHOによると、8億8,000万人の子どもたちが、慢性的な身体機能障害および認知機能障害につながる土壌伝播寄生虫症の治療を必要としています。しかし、現在利用可能な治療薬は、家畜類に出現した薬剤耐性種により脅かされています。また、妊娠第1期の女性には使用できないため、母親と胎児は依然として土壌伝播寄生虫症の脅威にさらされています。

 

Cry5Bタンパク質は、動物モデルでの有効性が示されています。また、既存の治療薬と比較して耐性の出現がはるかに遅いことが明らかになっているため、今後、数十年間にわたって集中的に使用できる可能性があります。さらには、その安全性プロファイルから、妊娠第1期の女性や小児にも投与できる可能性が期待されています。

 

GHIT Fundではまた、日本のバイオ技術企業である株式会社ジーンデザイン(以下、ジーンデザイン)と顧みられない病気のための新薬開発イニシアティブ(以下、DNDi)による、 皮膚リーシュマニア症の治療薬の開発に6900万円を投資します。この病気はサシチョウバエによって媒介され、新たな感染数は毎年約100万件にも上ります。感染すると痛みをともなう皮膚潰瘍を発症し、ときに深刻な皮膚潰瘍は、傷痕や社会的不名誉、経済的な損失を生涯にわたってもたらします。既存薬は1940年代から使用されてきたもので、毒性があり、投与も困難で、高価な上にしばしば効果が認められません。 GHIT Fundの投資により、ジーンデザインとDNDiは皮膚の損傷の治癒や寄生虫の駆除を助けるために、抗寄生虫性の治療薬を用いた免疫調節療法の組み合わせに関する有効性を動物モデルで評価します。このアプローチには、既存薬より優れた即効性や、傷痕を和らげる効果、再発防止の可能性が期待されています。

 

* 全金額は為替レートUSD1 = JPY100で記載しています。

 

 

本件に関する報道関係者のお問い合わせ先

グローバルヘルス技術振興基金 広報代理 株式会社バーソン・マーステラ 

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