プレスリリース

November 5, 2015

薬剤耐性マラリア関する早期研究から第2相結核ワクチン臨床試験まで、10億7000万円に上る新規投資を決定

新規投資にはデング熱、リーシュマニア症の案件も

また、新しいGHITグランド・チャレンジが始動

 

グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)は、世界規模で病気と闘う革新的な技術を開発するためにこの2年間で約43億円を投資してきました。本日、マラリア、結核(TB)、リーシュマニア症とデング熱に対する新しい医療技術を目指して、製品開発パイプラインにおける複数の開発段階に約10億7000万円*を投資することを発表しました。

 

今回の投資プロジェクトはこれらの4対象疾患のすべてにおいて重要な時期を迎えていると言えます。既存の治療法に対して拡大している薬剤耐性に対処するため、結核とマラリアに対する新薬とワクチンが必要とされており、デング熱感染は世界中で蔓延し続けています。これを治療または予防できる治療薬やワクチンは、まだ市場に出回っていません。一方、医療関係者は、シリアと隣国のイラクとの戦争によって引き起こされた混乱状態がリーシュマニア症の感染を大幅に増加させることを懸念しています。リーシュマニア症は、サシチョウバエ(sandfly)に媒介され、死に至る可能性のある危険な病気です。

 

GHIT FundのCEOであるBT スリングスビーは以下のように述べています。「今回の新規投資は、スクリーニングプログラムにより見つかった有望な化合物を、さらに開発するためのプラットフォーム(HTLP)の効果をはっきり示しています。これらのプログラムが更に進むことを非常に楽しみにしています。今回GHIT Fundは、製品開発プログラムを通してさらに5つの新規プロジェクトに投資し、グランド・チャレンジプログラムにおける最初の投資も開始しています。これらの取り組みを通して、GHIT Fundは効果的かつ効率の良い投資プロセスを構築し、日本のイノベーションを活用することで途上国の感染症と闘っていきます。」

 

新しいグランドチャレンジ・標的研究プログラム(Grand Challenges Target Research Platform)イニシアティブにより、GHIT Fundは対策が不十分な感染症への新たな手法、概念、基盤を追求する初期段階R&Dの規模を拡大します。これは、10年前にビル&メリンダ・ゲイツ財団がたち上げた、世界の健康や開発の重要課題に対する創造的で革新的な解決策を促すグランドチャレンジ・イニシアティブを模範とし、かつそれと連携するものです。

 

標的研究プログラム

 

武田薬品工業株式会社(以下、武田薬品)、スイスに拠点を置くMedicines for Malaria Venture (以下、MMV)、豪国のメルボルン大学の連携を支援するために約2,971万円の投資を行います。これら3機関は、マラリア原虫の薬剤耐性の問題を克服するための試験や「アッセイ」の開発に向け、共同で研究を進めています。具体的には、マラリア原虫の細胞内のプロテアソーム活性を阻害する化合物の同定に取り組む予定です。プロテアソーム活性は、原虫の生存にとってきわめて重要です。

 

暫定的なデータによると、抗がん剤として現在使用されている薬剤種であるプロテアソーム阻害薬は、世界的に用いられている抗マラリア薬であるアルテミシニンとその派生薬の効果を復活させる可能性があります。東南アジアでは、マラリア原虫がアルテミシニン薬および同時に投与される併用薬の両方への耐性を獲得したため、抗マラリア薬はその効果を失っています。これらの薬の併用はアルテミシニン併用療法(ACT)と呼ばれ、現在のマラリア治療の主流となっています。

MMVのチーフ・サイエンティフィック・オフィサーであるティモシー・ウェルズ博士は以下のように述べています。「これらのプロジェクトは初期段階ではありますが、特定の種類のがんなど、他の病気に対する新薬開発につながった武田薬品のプロテアソーム阻害剤への取り組みに基づいています。プロテアソームの専門知識をマラリアの専門知識と組み合わせることで、きわめて革新的な手法が生まれます。」

 

一方、GHIT FundのHTLPは、感染症に取り組む製品開発パートナーシップと、関連化合物を有する日本の企業や学術機関の連携を強化します。GHIT Fundの製品開発プラットフォームは、薬、ワクチン、診断薬開発の後期段階に助成しています。

 

Hit-to-Leadプログラム:有望なプロジェクトの進展にともない関心も拡大

 

GHIT Fundは、HTLプログラムの一環として、以下の4つのプロジェクトに合計約3億5000万円を投資します。すべてのプロジェクトは、GHIT Fundのスクリーニングプラットフォームを通して確立したコラボレーションから開始しています。スクリーニングプラットフォームでは、有望な治療のため、日本の製薬会社が構築した多様な化合物ライブラリーをスクリーニングする取り組みに対し投資を行いました。

 

  • エーザイ株式会社(以下、エーザイ)とMMVのパートナーシップは、エーザイが保有する化合物ライブラリーやエーザイの独自プロジェクトのターゲットベーススクリーニングにおいて20,000個の化合物から生まれた「ヒット化合物」の一連の可能性を探ります。 MMVとエーザイは、マラリア原虫の異なる段階に対するそれらの潜在的な活性を評価します。「ヒット化合物」の1つはマラリアに対する作用が十分に理解され有望な作用機序を有し、もう1つはマラリアの肝臓、血液および生殖母細胞段階に対する活性を有し、そして3つ目の化合物は、これまで抗マラリア性質について研究されていない、構造を持つ化合物に由来します。

 

  • 第一三共株式会社(以下、第一三共)と、ニューヨークを拠点とするGlobal Alliance for TB Drug Development (以下、TB アライアンス)のパートナーシップは、第一三共独自の「ファーマスペースライブラリー(PSL)」にある70,000化合物のスクリーニングから同定された化合物に焦点を当てます。PSLは、第一三共が有するライブラリーで、1,000以上の薬理学的に関連するフラグメントを含み、研究者がその潜在的な構造活性相関を総合的に探索することができます。最初のスクリーニングによって、2,420の化合物を同定し、さらにそこから148化合物に絞りました。スクリーニングされた化合物全てが第一三共内で設計・合成されたものです。また、結核と闘うための可能性について選択された化合物は、drug-like (薬らしい)分子となっています。今後は、インドにある第一三共ライフサイエンス研究センター・インド(RCI)でさらなる研究が行われます。GHITは、第一三共とTBアライアンスの開発パートナーシップに約9,082万円を投資します。

 

HTLPへの投資には、GHITの新しいパートナーからの投資も含まれています。Wellcome Trustは世界で第二位の規模をほこる慈善団体であり、革新的な生物医学研究のための資金調達を行なっています。今回、Wellcome Trustは、マラリア、結核のための新薬候補の開発を目的とした2つの革新的なパートナーシップを支援します。

 

  • 武田薬品とMMVによるパートナーシップは、武田のライブラリーで20,000化合物のスクリーニングから選択されたヒット化合物を検討します。同定された化合物の3つの化合物群の中で、2つはマラリアに対して新規であり、治療効果および伝搬抑制が期待されます。もう一つの化合物群は、マラリア感染の肝臓期に対して非常に強力であることが示唆され、またマラリア感染から人々を守る可能性もあります。

 

  • 塩野義製薬株式会社(以下、塩野義製薬)、公益財団法人結核予防会(JATA)、およびTBアライアンスのパートナーシップは、塩野義製薬が有する40,000化合物のスクリーニングから同定されたヒット化合物を検討します。塩野義製薬は、積極的に抗菌薬開発に関わる世界でも数少ない製薬企業の一つです。 JATAがスクリーニング作業を行い、有望なヒット化合物の中には、抗菌薬クラスではなくとも、塩野義製薬の内部プログラムで評価が開始しているものもあります。これは、その化学的性質や安全性についての深い知識が既にあることを意味しています。

 

製品開発プログラム:ワクチンおよび薬剤開発を加速

 

GHITの製品開発プラットフォームは、今回、2つのマラリア薬候補の研究とともに、リーシュマニア症、デングおよび結核のためのワクチン開発への投資を行ないます。

 

  • 米国のオハイオ州立大学、長崎大学および、カナダのマギル大学が実施する、皮膚および内臓リーシュマニア症に対する2つのワクチン候補の安全性と有効性の開発および前臨床試験に対して約1億8300万円を投資します。この投資の一環として、米国食品医薬品局(FDA)の生物学的製剤評価研究センターが、ワクチン候補の評価に参画します。リーシュマニア症は毎年世界中で200万人が感染し、皮膚型に痛みを伴い、時には醜い皮膚潰瘍を引き起こし、放置すれば内臓に致命的な影響を与えます。

 

  • ドイツに拠点を置く欧州ワクチンイニシアチブ(EVI)、長崎大学および、フランスのパスツール研究所による、デングウイルスの4つすべての血清型に対する防御を目的とするデングワクチン候補の臨床用製剤の製造、前臨床試験の実施に対して、約6,129万円を投資します。本案件はGHITのポートフォリオの中で、第2のデングワクチンプロジェクトです。

 

  • 米国のダートマス大学、タンザニアのムヒンビリ大学(MUHAS)および東京医科歯科大学(TMDU)が実施する、DAR-901として知られるブースター結核ワクチンの安全性と有効性を評価することを目的としたタンザニアでの無作為化臨床試験に対して約1億4000万円を投資します。DAR-901は、カルメット・ゲラン桿菌あるいはBCGワクチンとして知られている、出生時の標準的な結核ワクチンを受けた13〜15歳の参加者に投与されます。BCGでの新生児の免疫は一般的に接種後10〜15年のみに有効であり、DAR-901は結核に対するこの免疫の防御性を高め有効期間を延ばすために設計されています。本研究計画は、規則の遵守と研究倫理の評価を現在タンザニアで受けています。本案件は、GHIT Fundのポートフォリオにおける第2の結核ワクチンプロジェクトです。

 

  • 英国のリバプール大学熱帯医学校、リバプール大学およびエーザイが行う、マラリア原虫の薬剤耐性の拡大に伴い、有効性を失っている既存の治療法に替わる新たなマラリア薬候補の継続的な前臨床研究に対して約2,078万円を投資します。

 

  • 既に投資を行っている、MMVと武田薬品による抗マラリア薬DSM265開発に対して、約1億9000万円の追加投資を行います。このプロジェクトは、今年初めに第2相臨床試験にまで進行しています。

 

 

 

グランドチャレンジとの提携でGHIT Fundの標的研究プログラムを発足

 

新しいグランド・チャレンジとのパートナーシップにより、GHIT Fundは2つの初期段階のマラリア研究開発プロジェクトに投資し、開発を支援しています。

 

MMV、武田薬品およびメルボルン大学との間の上記のパートナーシップに加えて、GHITはオーストラリアのWalter and Eliza Hall Institute of Medical Research、日本の愛媛大学、スイスのFoundation for Innovative New Diagnostics(FIND)および日本のバイオ技術企業、株式会社セルフリーサイエンスに約9,930万円を投資し、新しい診断ツールの開発を推進するための、マラリアのバイオマーカー開発を支援します。これはGHIT Fundのポートフォリオにおける第2の診断薬プロジェクトです。

 

* 全金額は為替レートUSD1 = JPY100で記載しています。