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June 6, 2015

【イベント報告】 Annual Partners Meeting 2015

2015年6月5日(金)GHIT Annual Partners Meeting 2015を開催しました。製薬企業、日本政府、グローバルヘルスにおける著名な専門家が集まり、グローバルヘルスの主要な課題、国際社会の取組み、日本が果たすべきリーダーシップとイノベーションの推進について議論が行われました。また、日本のグローバルヘルス分野における大きな貢献を振り返るとともに、日本の最先端の科学技術と国際的なパートナーシップを通じて、今後さらにどのような貢献ができるのかについての議論がなされました。

GHIT Fund CEOのスリングスビーは開会挨拶にて、「GHIT Fund設立からこれまでの進歩は目を見張るものでしたが、それは私たちにとって必然でもありました。GHIT Fundは製品開発を推進する中で、様々な障壁を打ち崩し、製品開発の連携構築を支援し、グローバルヘルスの重要かつ難題のための解決策を生み出してきました。私たちは着実に成果を生み出しています。」と語り、設立から今日に至る道のりを振り返りました。

GHIT Fundの製品開発パートナーシップの多様性と進捗は、GHIT Fundが生み出した成果を象徴するものと言えます。GHIT Fundはこれまでに総額40億円以上を投資し、共同投資を含めれば総額70億円以上の投資価値を生み出しました。世界保健機関事務局長のマーガレット・チャン博士はビデオメッセージの中で、「GHIT Fundは、パートナーシップの先駆的なモデルを通じて、新薬開発にインセンティブをもたらそうとするものであり、日本のイノベーション、投資、リーダーシップを世界における感染症との戦いに投入しようとするものです。」と述べ、市場原理では創り出せない途上国向けの新薬開発に取り組むGHIT Fundを賞賛しました。

基調講演を行った斎木尚子氏(外務省経済局長)は、世界で最も脆弱なコミュニティに対して様々な感染症がもたらす社会経済的な影響を踏まえ、いかに切迫感を持って取り組むことができるのかを強調しました。2014年に西アフリカで広がったエボラ熱のアウトブレイクにも触れ、人々の生命のみならず、国家の経済に対して甚大かつ急速に大きな影響を及ぼしたことを指摘しました。このエボラ熱のアウトブレイクから、私たちは、急速なグローバリゼーションと人間の移動が、世界の隅々にまでリスクが及ぶことを学んだのです。

斎木氏は、エボラ熱のアウトブレイクは、国際社会に対して感染症対策の重要性を改めて喚起した事例ではあるが、マラリア、結核、顧みられない熱帯病はエボラ熱よりも圧倒的に大きな影響を及ぼしており、開発途上国の社会経済に大きな影を落としていることを指摘しました。このような状況において、斎木氏は、GHIT Annual Partners Meeting 2015の数日後にドイツで開催される主要国首脳会議(以後、G7 サミットまたはG7/G8サミット)においてグローバルヘルスは主要議題になるだろうと述べました。日本はこれまでにもG7/G8サミットにおいてもリーダーシップを発揮し、マラリア、結核、顧みられない熱帯病などに対して長年にわたる貢献を行ってきました。斎木氏は、今回のドイツでのG7サミットにおいて、薬剤耐性、顧みられない熱帯病、国際的な健康危機管理体制が保健分野における議題になるということについても言及しました。

日本は2016年にG7/G8サミットにおける議長国を務めることが決定しており、これを機に日本のグローバルヘルスに対するコミットメントはさらに強まっていくことが予想されます。斎木氏は、「グローバルヘルスという極めて重要な分野において、重要な先駆者として、積極的に、これまで以上にリーダーシップを発揮していくことが求められていると感じています。新しい保健政策を土台として、国際社会における保健議論を主導していきたいと考えています。」と述べました。また、「日本の研究開発能力は世界でもトップレベルであり、国際特許出願数や新薬開発数のいずれにおいても世界の科学技術をリードしています。日本が有する技術、潜在的な能力を考えれば、日本がグローバルヘルスの研究開発において、さらに世界に大きく、強く貢献できる可能性があると考えています。」と延べ、日本のグローバルヘルスR&Dへの今後の期待を語りました。

斎木氏はGHIT Fundが果たす役割についても言及し、日本と海外の製品開発のパートナーシップを構築することで、GHIT Fundが感染症に対する投資ギャップを埋めており、GHIT Fundのガバナンスモデルが諸外国においても注目されていることを指摘しました。「日本が秘めている研究開発能力をより有効に活かすべく、GHIT Fundは最高水準の透明性と結果を重視した意思決定プロセスに基づき、これまで日本が経済発展のために駆使してきた革新的な技術を、また国内で眠っている無数のイノベーションを世界の最貧国の人々に向けて、有効活用するためのメカニズムを創出してくれました。その努力を通じて、世界中の人々の健康をさらに改善し、世界の経済成長をも後押ししています。」と述べ、今後も日本政府としてGHIT Fundを支援していくと語りました。

基調講演後のパネルディスカッションでは、国内外のグローバルヘルスの専門家が登壇し、様々な課題に対する対策や今後の国際連携のあり方などについて議論が展開されました。

モデレーターを務めた飯田香織氏(NHK報道局経済部)は、「グローバルヘルスの問題を解決するためには、サービスへのアクセス、イノベーション、政治のリーダーシップなど、様々な要素が必要だと思いますが、なぜ今、製品開発に注目があたるのでしょうか?」と問いを投げかけました。

トレバー・マンデル氏(ビル&メリンダ・ゲイツ財団グローバルヘルスプログラムプレジデント)は、グローバルヘルスの分野において、いかに製品開発の重要性を説くかが共通の課題になっていることを述べた上で、『「インフラが問題な場合においても、なぜイノベーションに投資するのか?より良い病院や医療システムなどインフラを作る方が良いのではないか?」と聞かれることがあります。インフラ整備は必要不可欠ですが、開発途上国においてインフラが全く整っていない状態の所にインフラを整備しようとすれば数十年かかってしまうかもしれません。イノベーションが重要なのは、インフラ開発のスピードに左右されず、医療へのアクセスを向上させることができるからなのです。』と語りました。

開発途上国が必要とするイノベーションを創出するための適切な環境を整えるためには、官民の連携のみならず、全く異なるセクター同士が連携する必要があります。マンデル氏は多数のステークホルダーが参画することが、劇的に問題解決につながることを指摘しました。ゲイツ財団は、様々なNGO、多国籍機関、非営利団体、民間企業などと連携することで、グローバルヘルス分野において数多くの実績を生み出してきました。マンデル氏は、製薬企業8社が参画する「TB Drug Accelerator Program」という結核の治療薬開発のコンソーシアムの事例を挙げ、各々の企業が保有する化合物ライブラリーを提供し、かつ、これまで公開されることのなかった化合物の構造に関する情報等も公開するという、一つの疾患に対する探索研究分野で過去最大級の取り組みを紹介しました。さらに、GHIT Fundが行う類似の取り組みについても何度も言及しました。

GHIT Fundは設立からこれまでに39のパートナーシップを構築し、タンザニア、ブルキナファソ、ウガンダ、ペルー等における6件の臨床試験に投資をしています。これまでの順調な基金運営を受けて、GHIT Fundのガバナンスと資金メカニズムが諸外国においても応用可能なモデルかどうか、という議論に移りました。武見敬三氏(参議院議員、自民党国際保健医療戦略特命委員会委員長)は、その成功の可否は、自国内の政治との協調、ハイレベルな国際機関からの支援が必要不可欠であると指摘しました。また、日本は、G7でのリーダーシップの機会を活かして、G7各国に対してGHIT Fundという新たなモデルを提案し、それぞれの国の状況に応じたモデルを構築できる可能性があることも述べました。そうすることで、顧みられない熱帯病などに対して、世界レベルでの新たなイノベーションと投資の連携が生まれる可能性もあります。武見氏は、「世界の課題は一つの国だけでは解決することはできません。G7のような機関こそが、グローバルヘルスの課題解決のために、限られた資源を動かせる触媒となりうるのです。」と述べました。

ピーター・ピオット氏(ロンドン大学衛生熱帯医学大学院学長)は、「科学、イノベーション、デリバリーシステム、ユニバーサルヘルスケア、そして政治が連携されたとき、山をも動かすような勢いで、私たちは実際に議題を動かすことができるのです。G7サミット、国際連合総会から世界経済フォーラムに至るまで、こうした国際会議の舞台が議題を動かす場になるのです。」と述べ、国際会議の重要性について説きました。
続けてピオット氏は、国際社会における日本のリーダーシップの必要性を強調し、「これからの18ヶ月間は日本が輝く絶好の機会となるでしょう。」と述べ、 日本が2016年のG7/G8サミットを開催すること、そして翌年2017年にアフリカで開催される東京アフリカ開発会議において各国との連携を強固にする極めて重要な機会になることを言及しました。

山田忠孝氏(武田薬品工業取締役、武田ファーマシューティカルズインターナショナル株式会社副社長)は、日本のリーダーシップとGHIT Fundのビジネスモデルが、官民パートナーシップの枠組みを変革したその軌跡について語りました。山田氏は「解決策は、産業を連携させるところから始まるのです。世界中の製薬会社は、最高水準の科学技術を用いて、ヘルスケア領域における無数の問題に対する解決策を創出するという社会との約束があります。しかし、その努力の成果は、治療代を払うことの出来る人たちのためだけに提供されるわけではありません。」と述べ、製薬業界のリーダーが、ビジネスを維持するための課題に定常的に取り組む一方で、企業には利益を生みにくいけれども、世界の人々に切望される製品の開発・提供にも取り組んでいることにも言及しました。

GHIT Fundが設立される以前には、日本の製薬業界が営利の活動を越えて、その強みを活かすことのできる仕組みが存在しませんでした。これまで日本の製薬企業のAccess to Medicine Index(ATMI)のランキングは低く、日本国としての国際貢献はインフラへの投資と特定の二国間援助が大きく占めていました。製薬業界のリーダーはこうした隔たりを認識し、それを埋めるため、日本政府と協力することによって、日本と海外が連携する仕組みを作り上げました。そして2013年、GHIT Fundの設立によって、これまでなかった日本のイノベーションと投資能力を活かす機会が生まれたのです。
「日本は資金面だけで貢献するべきではないのです。」山田氏はこのように述べ、日本が資金提供する膨大な政府開発援助に言及した上で、「日本はその強固な科学と産業基盤、そして高いレベルの知識と献身を含む、人的資源の面で貢献できるのです。」と述べました。

パネリストの発言に続いて、日本政府、GHIT Fundのパートナーである製薬企業のCEOも会場からディスカッションに積極的に参加し、現在、そして未来のグローバルヘルスにおける各々の見解を共有しました。このように、セクターを越えて様々なステークホルダーが積極的に議論に参加したことは、GHIT Fundの独特なガバナンスを反映していると言えます。GHIT Fundに参画する民間企業は組織や投資の意思決定には関与することはできません。透明性が高く、開けたこのGHIT Fundのモデルは、革新的技術と知識を共有することを推進しつつ、民間企業が利益相反にならない形で参画することが可能なのです。

最後に、GHIT Annual Partners Meeting 2015は、GHIT Fund会長の黒川清の閉会挨拶で幕を閉じました。
「私が子供の頃の1950年までは、死因の多くは結核でした。世界中のどこでもそうでした。日本でもそうでした…米国に行く時には、税関通過の際に、活性のある結核菌が出ていないという証明のために、胸部全体のX線写真を持っていかなければならなかったのです。そういう時代だったのです。」と述べ、グローバルヘルスがこれまでどのような変遷をたどってきたのか、そして、これまでの進捗を維持し、さらに加速する必要性を喚起しました。

「何十年も前、日本はマラリア、結核、ポリオ、そして他の感染症を克服しました。X線写真をもって税関を通過するなんて、今では想像がつかないでしょう。しかし、今でも同じような脅威はあるのです。感染症に国境はありません...なぜ今グローバルヘルスなのか、と皆が問います。その一つの答えは、国内における感染症の脅威です。人間の安全保障も同様に重要なことです。人は健康である時のみ意味のある人生を全う出来るのです。」と述べました。「マラリア、結核、顧みられない熱帯病は、今でも世界の貧困層の人々に影響を及ぼしています。GHIT Fundは、日本の開発と投資の強みを活かして、最も必要されている人々でも購入可能な価格で、かつ、ちゃんと人々のもとに届く製品を創出しようとしているのです。」と述べ、イベントを締めくくりました。