Investment

プロジェクト

リーシュマニア症の予防のための弱毒生ワクチン

イントロダクション/背景

リーシュマニア症は典型的な細胞内寄生原虫であるリーシュマニアを原因とし多彩な病型を呈する。感染はサシチョウバエによって伝播され、世界で3億5000万人が感染のリスクに曝されている。内臓型リーシュマニア症(Visceral leishmaniasis: VL)は最も重篤な病型であり、治療されないと致死的である。VL を含めリーシュマニア症から回復した患者が再感染に対する防御免疫を獲得することはよく知られており、ワクチンの実現可能性を支持する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

ヒトで使用可能なリーシュマニア症に対するワクチンは現存しない。オハイオ州立大学はパートナーである長崎大学、マギル大学、US-FDA、NIAID/NIH と協力してVLを対象とした安全で効果的かつ低価格のワクチン開発を目指す。成功の暁には、本ワクチンは世界におけるリーシュマニア症の疾病負担軽減に貢献すると期待される。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

オハイオ州立大学と長崎大学はイメージングに代表される革新的技術を駆使して動物モデルを用いた免疫応答の解析を展開する。US-FDAとNIAID/NIHは世界に先駆けて遺伝子改変による弱毒生リーシュマニアワクチンを作成した研究機関であり、その科学的基盤の上で、マギル大学は革新的な CRISPR-Cas9 技術を応用して遺伝子改変による極めて安全な弱毒化リーシュマニアの作成を目指す。本ワクチンの効果判定にはサシチョウバエによる自然感染を模倣したハムスターVLモデルを動員する。

各パートナーの役割と責任

長崎大学熱帯医学研究所は内臓型リーシュマニア症のマウスモデルを用いて上記ワクチンの投与量と方法の最適化を行い、病原性Leishmania donovaniによって引き起こされる内臓型リーシュマニア症の前臨床マウスモデルを用いて、ワクチンによって誘導される免疫応答の特性を解明する。オハイオ州立大学はコラボレーションパートナーであるアメリカ食品医薬品局(US-FDA) ならびに国立衛生研究所(NIH)と共に、セントリン遺伝子を欠損する弱毒リーシュマニアの特性を in vitro で解析し、さらにサシチョウバエによって媒介される内臓型リーシュマニア症のハムスターモデルを用いて、上記弱毒リーシュマニアのワクチン効果を評価し、アジュバンドの必要性、ワクチン後のメモリーT細胞応答の強さと維持期間を解析する。またオハイオ州立大学はプロジェクト全般のマネージメントと報告に責任を負う。マギル大学はCRISPR-Cas9 技術を応用したセントリン遺伝子欠損Leishmania major と Leishmania mexicana を作製する。

 

オハイオ州立大学はコラボレーションパートナーであるアメリカ食品医薬品局(US-FDA) ならびに国立衛生研究所(NIH)と共に、セントリン遺伝子を欠損する弱毒リーシュマニアの特性を in vitro で解析し、さらにサシチョウバエによって媒介される内臓型リーシュマニア症のハムスターモデルを用いて、上記弱毒リーシュマニアのワクチン効果を評価し、アジュバンドの必要性、ワクチン後のメモリーT細胞応答の強さと維持期間を解析する。またオハイオ州立大学はプロジェクト全般のマネージメントと報告に責任を負う。マギル大学はCRISPR-Cas9 技術を応用したセントリン遺伝子欠損Leishmania major と Leishmania mexicana を作製する。長崎大学熱帯医学研究所は内臓型リーシュマニア症のマウスモデルを用いて上記ワクチンの投与量と方法の最適化を行い、病原性Leishmania donovaniによって引き起こされる内臓型リーシュマニア症の前臨床マウスモデルを用いて、ワクチンによって誘導される免疫応答の特性を解明する。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は

  1. セントリン遺伝子欠損 L. major (LmCen-/-) と L. mexicana (LmxCen-/-) の創出
  2. セントリン遺伝子欠損 LmCen-/- LmxCen-/- の皮膚型および内臓型リーシュマニア症に対する弱毒生ワクチンとしての有効性と安全性の評価 ~サシチョウバエによって媒介される内臓型リーシュマニア症のハムスターモデルをはじめとした前臨床モデル動物を用いて

 

2. プロジェクト・デザイン

CRISPR 技術によってセントリン遺伝子欠損・選択マーカー(抗生物質に対する耐性遺伝子)フリーLmCen-/- LmxCen-/-  を創出した。弱毒リーシュマニアの安全性は免疫不全マウスにおいて病気を引き起こすか否か、サシチョウバエの中で生存の有無に基づいて確認された。免疫原性はワクチン接種マウスでの免疫応答により確認された。これら弱毒リーシュマニアの生ワクチンとしての有効性はサシチョウバエによって媒介される皮膚型リーシュマニア症のモデルマウスならびに内臓型リーシュマニア症のハムスターモデルで各々確認された。さらに LmCen-/- LmxCen-/ - に関して、実験室の無血清培地の中での増殖能が確認された。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

セントリン遺伝子欠損弱毒リーシュマニアは免疫が正常なマウスやハムスターに加えて、免疫抑制状態のマウスやハムスター、重症免疫不全マウス(SCID  マウスや STAT1  ノックアウトマウス)においても臨床症状を引き起こさなかった。また弱毒リーシュマニアはベクターであるサシチョウバエの中で生存できなかったことから環境への安全性も示唆された。弱毒リーシュマニアを接種された動物は強力なTh1優位の免疫応答を示したことから、その免疫原性が確認された。弱毒リーシュマニアを接種されたマウスならびにハムスターはサシチョウバエによって媒介される皮膚型ならびに内臓型リーシュマニア症のチャレンジ感染後も何ら臨床症状を呈さず、ワクチンの有効性も実証された。さらに弱毒リーシュマニアは実験室において無血清培地(動物由来成分非含有培地)の中で増殖できた。しかしながら無血清培地における増殖率と回収量は通常培地と比べて有意に低かった。以上より、セントリン遺伝子欠損弱毒リーシュマニアはリーシュマニア症に対する安全かつ有効なワクチン候補であることが示唆された。