Investment

プロジェクト

アメリカ大陸で汎用できる慢性シャーガス病迅速血清診断キットの設計
  • 受領年
    2024
  • 投資金額
    ¥69,989,878
  • 病気
    NTD(Chagas disease)
  • 対象
    Diagnostic
  • 開発段階
    Technical Feasibility
  • パートナー
    長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科 ,  Barcelona Institute for Global Health (ISGLOBAL) ,  テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学部

イントロダクション/背景

1.  イントロダクション

シャーガス病はクルーズトリパノソーマ原虫による慢性感染症で、主に南北アメリカで700万人以上が罹患している。2種類の治療薬があるが、各国の保健システムの対応能力の脆弱性などにより診断治療へのアクセスが妨げられている。診断には血中の特異抗体を検出する方法が用いられるが、現行の標準診断法では、確定診断のためには2種類の検査の一致が必要であり、不一致の場合3種目の検査を要する。検査法が複雑なのは、寄生虫の地域多様性や他の感染症との交差反応に由来する。

本プロジェクトでは各地の原虫の遺伝子情報をインシリコ解析して抗体反応性部位を予測し地理的に多様な臨床血液の反応性を実際に確かめることで、一回で確診できる万能RDTを設計することを提案する。本ツールは、母子感染のみならず将来垂直感染させるリスクの高い未婚女性のスクリーニングに大きな威力を発揮することが期待される。

 

2.  プロジェクトの目的

私たちの最終的な目標は、慢性T. cruzi感染を検出するためのRDTのプロトタイプを実現することである。そのために、以下のような具体的な目標を想定している:

(1)南北アメリカから分離された代表的な分離株の全ゲノムを配列決定し、染色体や遺伝子座をそろえたゲノムマップを構築する。

(2)診断抗原の優先順位を決定するために、遺伝子配列から演繹されるアミノ酸配列からバイオインフォーマティックスによる解析を行い、すべての株に共通で、他の病原体と交差反応がなく、なおかつヒトが抗原として強い免疫反応を引き起こす蓋然性の高いペプチド配列を予測する。

(3)複数のシャーガス病流行国からの血漿/血清サンプルを用いて、選択されたペプチド抗原に対する反応性を調べる。

(4) 最終的に優先順位をつけた抗原をイムノクロマト(IC)ストリップに印刷し、POC RDTのプロトタイプとして分析評価し、適格性を確認する。

 

3.  プロジェクト・デザイン

すべての地域で通用するRDTプロトタイプという目標を達成するため、まず、現在利用可能なツールの性能が特に低い中米とメキシコ地域の分離株の全ゲノム配列を決定する。次に他の地域も含めたゲノム情報から、南北アメリカの分離株に共通で、多様な地域の感染者の血清反応をも包含しうる診断に有用な抗原エピトープを、プログラムを用いて予測する。得られたペプチド配列を評価するために、合成ペプチド・マイクロアレイを作製し、各地の感染者および同地域の非感染対照者からの収集血液で反応性をスクリーニングする。数百のペプチドを一度にチェックすることが可能である。最も広い地域をカバーし、最も高いシグナルをもたらすペプチド抗原を選択し、最後に、フィルター紙上に抗原をプリントし陽性バンドを目視できる形の迅速診断キットRDTプロトタイプを作成する。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

シャーガス病は、大きなグローバルヘルスの課題である。アメリカ大陸で国境をまたいで700万人以上が慢性感染しており、心臓や消化器の合併症により年間1万人の死亡が発生している。本疾患は利用可能な抗寄生虫薬があり、慢性期早期に治療することで合併症の進行や経胎盤感染を予防することができるといわれているので、簡便で信頼性の高い診断法の開発は、病害を取り除く上での大きなカギとなる。WHOの2021-2030年NTDsロードマップを達成するには、T. cruziの慢性感染を検出するための広く有効なPOC血清学的診断法がまず何をおいても必要なものである。またシャーガス病が高度に蔓延している広大な地域が存在し、そこには設備の整った検査室が乏しいという事実があるため、その新たな診断キットにPOC機能は欠かせないものである。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

今回の提案のユニークさは、大きな規模の原虫ゲノム解析から出発して、バイオインフォーマティックスの技法を用いて診断に有用な抗原ペプチドの配列を予測、数百の候補ペプチドを人工合成後、南北アメリカの陽性あるいは陰性のヒト血清によるスクリーニングにより選別し、最終的にインシリコデータからイムノクロマトプロトタイプに移行させることである。本計画の特長は、POC獲得後、ライセンス供与、発売までを見越し、市場での利用可能性の予測が、プロジェクト完了後4年以内に収まることである。このようなツールはPAHOの母子感染阻止(EMTCT)フレームワークにも貢献する。

各パートナーの役割と責任

長崎大学(NU)がプロジェクトの調整と管理を行う。長崎大学は、中央アメリカから分離されたT. cruziの全ゲノム配列決定とアセンブリーを担当する。さらに、NUは新たに配列決定された全ゲノムと既に公開されているゲノムのインシリコ解析を主導し、その後の実験的検証のために合成すべきペプチド/抗原の優先順位付けを行う。チューレーン大学(TU)はメキシコからの代表的な分離株の配列決定に貢献し、選択された全抗原ペプチドの実験的検証を主導する。TUは、ペプチドの合成、配列、およびアメリカ大陸の複数の国に由来する慢性感染者および非感染者の血清反応性に対する評価を担当する。最終的には、TUは優先順位をつけた抗原を改良型イムノクロマトストリップに印刷し、迅速診断キットでの分析評価を行う。

バルセロナグローバルヘルス研究所(ISGlobal)は、シャーガス病診断に関するアドバイザリーの役割を担う。さらに、研究所が保有する慢性感染している患者と、それにマッチした対照群から採取したサンプルおよび付帯情報の利用を許可する。 

他(参考文献、引用文献など)