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シャーガス病の短期治療の有効性が長期投与と同等であることを示したボリビアの治験結果を医学誌「ランセット感染症」にて公表
この度、GHIT Fundの製品開発パートナーである、Drugs for Neglected Diseases initiative (顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ、以下「DNDi 」) 、エーザイ株式会社 (以下「エーザイ」)等のパートナーシップが実施したシャーガス病治療薬の臨床試験成果が、医学誌「The Lancet Infectious Diseases」に掲載されたことをお知らせします。
「The Lancet Infectious Diseases」に掲載された論文の中で、慢性期シャーガス病の成人患者に対する抗寄生虫薬ベンズニダゾール単剤による2週間の治療が、現在の標準治療法である8週間投与と同等の有効性を示し、かつ副作用の大幅な減少につながることが示されました。これらの結果は、ボリビアの3拠点で実施した第II相試験により明らかにされました。
GHIT Fundの投資を受けて、2016-2018年に実施された本試験は、DNDiが主導し、ボリビアの非営利組織であるCEADES (Science and Applied Studies Foundation for Health and Environment Development)、ラカイシャ財団が支援する組織であるISGlobal (Barcelona Institute for Global Health)、日本の製薬企業であるエーザイ株式会社 (以下「エーザイ」)、およびアルゼンチンの製薬企業であるEleaを含む、世界中の多くのパートナーの連携により実現されました。
「短期治療は有効であるばかりか、現行の治療法よりも大幅に安全であり、シャーガス病という衰弱性の病気で長年苦しむ人々に革新をもたらす可能性があります。」とCEADES財団代表であり、共同治験責任者のFaustino Torrico医師は述べています。シャーガス病は世界で推計600万人が感染し、治療がなければ心臓や他の臓器に生命を脅かす不可逆的な障害を引き起こします。シャーガス病で使用されている2種類の治療薬のひとつであるベンズニダゾールの現行治療法は有効ですが、60日にわたる投与期間や患者の20%に及ぶ食欲不振や発疹、しびれ、筋肉痛などの深刻な副作用による治療中断といった課題を抱えています。
「本試験は、ベンズニダゾール単剤、もしくはホスラブコナゾール (E1224) との併用による複数の治療期間と投与量を比較した初めてのプラセボ対象試験です。」とISGlobalのシャーガス病イニシアティブ・ディレクターであり、共同治験責任者のJoaquim Gascon氏は述べています。
ベンズニダゾールはEleaより、ホスラブコナゾール (E1224) はエーザイより提供されました。エーザイ執行役 チーフデータオフィサー (兼) 筑波研究所長の塚原克平博士は「今回、当社のホスラブコナゾール (E1224) とベンズニダゾール併用について、ベンズニダゾール単剤と比較しての有用性は検証できませんでしたが、ベンズニダゾール単剤について、課題であった副作用の発生率が減少したことで、新たな標準治療法となり得るエビデンスの創出に貢献できたことを嬉しく思っております。当社は、ヒューマン・ヘルスケア (hhc) の企業理念に基づき、DNDiをはじめとする官民パートナーとともに、引き続きNTDs制圧に向けて取り組んでまいります。」と述べています。
BENDITA (Benznidazole New Doses Improved Treatment & Therapeutic Associations) と呼ばれる本試験の目的は、標準治療と同等かそれ以上の有効性があり、かつ副作用の少ない新しい治療法を特定することで、患者の治療アドヒアランスの改善につなげることです。「本試験の結果は、この顧みられない病気で苦しむ人々に希望を与えています。治療期間の短縮により患者とケアに関わる人々の共通の懸念が取り除かれ、より治療に取り組むことができます。」とDNDiのシャーガス病臨床プログラム責任者であり、アルゼンチンのCONICET (アルゼンチン国立科学技術研究会議) 研究者のSergio Sosa Estani医師は述べています。
この新たな投与期間を患者の治療として導入する前に、アルゼンチンを含む複数国で大規模な試験を実施し、第II相試験で得られた結果を検証します。DNDiはELEA-Phoenixおよびムンド・サノ財団とのパートナーシップによりアルゼンチンで第III相試験を開始し、ベンズニダゾールの2週間投与における有効性と安全性を確認します。
この第III相試験を通じ、若年および妊娠可能年齢の女性の治療が簡易になれば、治療を受けた母から子への母子感染を防ぐことも期待できます。これは世界保健機関 (WHO) の顧みられない熱帯病 (NTD) ロードマップで今後10年の目標のひとつとして掲げられた、公衆衛生上の問題としてのシャーガス病制圧を後押しします。
「今回の成果は、国際的な協力体制のもとで達成された素晴らしいものです。この新たな調査結果により、患者さんにより短期間の新しい治療法を提供するための新たな道が開かれました。BENDITA試験に参加された患者さん、そのご家族、医療従事者の方々、そしてすべてのパートナーに感謝します。また、有効性と安全性を比較するため、本試験の併用療法群にE1224を提供してくださったエーザイにも感謝しています。」とGHIT FundのCEO兼専務理事である大浦佳世理は述べています。
BENDITA試験はGHIT Fund (日本)、および英国国際開発省 (UK aid)、ドイツ復興金融公庫 (KfW) を通じたドイツ連邦教育・研究省、オランダ外務省、ブラジル保健省、Associação Bem-Te-Vi Diversidade (ブラジル)、オズワルド・クルーズ財団 (ブラジル)、Starr International 財団 (スイス) の資金支援により実施されました。またDNDi組織全体の支援として、スイス開発協力庁、および国境なき医師団 (MSF) より資金を受けました。
非従来型血清学的アッセイは、米国立マイノリティ健康格差研究所 (National Institute on Minority Health and Health Disparities) の資金支援により、テキサス大学エルパソ校Border Biomedical Research CenterのBiomolecule Analysis Core Facility (現Biomolecule Analysis and Omics Unit) で実施されました。
DNDiについて
Drugs for Neglected Diseases initiative (DNDi) は、顧みられない病気の中でも特にシャーガス病、アフリカ睡眠病、リーシュマニア症、フィラリア感染症、マイセトーマ (菌腫)、小児HIV、およびC型肝炎を対象に、新規治療開発に取り組む非営利の研究開発組織です。アフリカ地域では新型コロナウイルス (COVID-19) 軽症/中等症患者を対象とした治療法特定のための臨床試験を実施しています。2003年の設立以来、内臓リーシュマニア症 (カラ・アザール) のための一連の併用療法、2種類の固定用量抗マラリア薬、および新規化合物からの開発に初めて成功したフェキシニダゾールなどを含む、8つの新たな治療を開発し、患者に届けてきました。フェキシニダゾールはアフリカ睡眠病の両ステージに有効な治療薬として2018年に推奨されました。詳細については、www.dndi.orgをご覧ください。