Investment

プロジェクト

再発性マラリアにも有効なSERCAP(単回投与根治及び予防抗マラリア薬)の創出

イントロダクション/背景

イントロダクション

本プロジェクトでは、革新的な治療プロファイルが期待できる新規抗マラリア活性を有する化合物系統の最適化を行う。本化合物系統は、即効性で広範なライフサイクルに対し高い活性を示しており、患者血液サンプルを用いた試験で、熱帯熱マラリア(P.falciparum)と三日熱マラリア(P.vivax)の両方に対し同等の活性を有することを確認している。さらには三日熱マラリアの休眠体(hypnozoites)に対しても強力な活性を示すことから、MMVの定めるTCP1、3、4及び5の達成が期待できる。また、良好な物理化学的及び薬物動態特性を有しており、既にモデルマウスにて治療効果、及び予防効果の両方において高い有効性を確認している。本化合物系の抗マラリア活性は、原虫の生存に重要な酵素の阻害を介した新規作用機序によるものである。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトのゴールは、単回投与治療や予防の可能性を有する新規作用機序の抗マラリア薬の前臨床候補物質の創出である。2年間のプロジェクトでは、18ヵ月以内にMMVの後期リード化合物基準に相当する候補化合物1~3個を取得し、その後6ヵ月以内に各種プロファイリングを行い、前臨床への移行に適した化合物の選択を目指す。本プロジェクトでは、新たに三日熱マラリア原虫に対する効果の確認を追加した。既存薬の課題であるG6PD欠損患者に対しても副作用(溶血性貧血)を回避し、G6PD検査を不要とする、再発性マラリアにも適用可能なSERCAPとして開発を追求する。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトは、創薬化学、分子設計(CADD)、寄生虫学、薬物動態学、毒性学、製剤及びプロセス化学等の多様なスキルと経験を有するチームからなる統合的創薬アプローチで推進する。Medicines for Malaria Venture(MMV)、田辺三菱製薬(MTPC)、University of Georgia(UGA)及びその他パートナーで取得された薬理学的、物理化学的、薬物動態学的及び毒性学的特性のデータに基づき、合理的かつ体系的な化合物合成展開により、さらなる性能改善を行う。我々の化合物の作用機序は、マラリア原虫の増殖に不可欠な酵素であり、類似細菌の蛋白質立体構造が利用可能であるため、MTPCの分子設計技術による化合物デザイン(SBDD)も活用することで、酵素を強力かつ選択的に阻害する化合物を迅速かつ合理的に設計し、プロジェクト目標の達成を目指す。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

2020年の死亡者数が62.7万人に上るマラリアはPlasmodium属の寄生虫による感染症である。人への罹患は5種類が知られており、特に問題なのは、サハラ以南のアフリカを中心に、最も致死率が高く症例の93%を占める熱帯熱マラリア(P.falciparum)と、東南アジア及び中南米で流行し、肝臓に潜伏する休眠体により治癒後に再発を引き起こす三日熱マラリア(P.vivax)である。現在のマラリア治療は、アルテミシニン併用療法が主流であるが、既に東南アジアでは感受性の低下が認められており、死者の多いアフリカでの耐性拡大は、重大な脅威である。これに対応し、最終的に疾患の根絶を目指すには、既存の薬剤耐性に影響しない新規作用機序を有する薬剤創出が重要である。本プロジェクトでは、三日熱マラリア原虫(血液及び休眠体含む肝臓ステージ)、及び熱帯熱マラリア原虫(血液、肝臓及び有性期ステージ)、並びに混合感染に高い効果を示し、付加的に2次感染防止も期待できる臨床候補創製を目標としている。この薬剤プロファイルはマラリア治療に大きな変革が期待できる。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

我々の化合物系統は、構造的に新規であり、新規作用機序と広範な寄生虫学的プロファイルを有し、伝染予防の付加的利点を有する合併症のないマラリア治療への適用が期待される。また、我々の創出する後期リード化合物は、現在の再発性マラリアの治療に必須なG6PD欠損症の臨床検査を不要とする可能性がある。これに向けUGAチームは、世界最先端の独自技術であるP.vivaxの休眠体in vitro評価及び動物モデル評価を共同研究において活用する。MTPCでは標的タンパク質の立体構造解析を利用したSBDD技術を含む最新の創薬アプローチを用いて、前臨床候補化合物創出を目指す。我々のチームは、本プロジェクトにおける合成展開化合物から前臨床候補化合物創出に必要な専門知識と能力を有している。

各パートナーの役割と責任

MMV、MTPC、及びUGAの各チームは、プロジェクトの目的を達成するための新規化合物の設計、合成及び評価を含め、プロジェクトを統合的に推進する。MMVは、マラリア創薬の専門知識を応用して、後期リード化合物として必要な要件を満たすよう、全体統括を行う。MTPCは、X線結晶構造解析、SBDDを含む化合物設計を中心とした貢献を行う。UGAは、三日熱マラリア原虫の休眠体に対する評価を含むin vitro及びin vivo寄生虫学の専門知識を応用することで、化合物の最適化に貢献する。MMVネットワークによる開発業務受託機関(CRO)やアカデミアパートナー等の様々な活動で、このプロジェクトを推進する。全体的な科学的方向性は、すべてのパートナーの代表者による協議の上、決定していく。