Investment

プロジェクト

Pfs230D1+抗原とSA-1アジュバントを用いたマラリア伝搬阻止ワクチンの前臨床開発

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは、依然としてアフリカの子供達の主要死因の一つです。そこで、マラリアエリミネーション、最終的には撲滅の達成のためには新しい対策法の開発が喫緊の課題となっています。本プロジェクトのマラリア伝搬阻止ワクチンは、ヒトから蚊への原虫感染サイクルを断つことができるワクチンで、マラリア撲滅に貢献しうる切り札となる可能性があります。そこで、本プロジェクトではマラリア伝搬阻止ワクチンの前臨床開発を目指します。

 

プロジェクトの目的

本プロジェクトでは、新規熱帯熱マラリア伝搬阻止ワクチン候補製剤を臨床試験に進めるための前臨床開発を行います。この新規ワクチン製剤は、至適化された熱帯熱マラリア抗原Pfs230D1+と新規TLR7アジュバントSA-1で構成されます。本プロジェクト終了時には、本ワクチン製剤の治験薬製造と米国FDAへのIND(新薬の臨床試験開始届)申請に係る準備を完了します。

 

プロジェクト・デザイン

熱帯熱マラリア伝搬阻止ワクチン抗原Pfs230から、最適抗原部位Pfs230D1+を決定したGHITプロジェクト(T2016-207)の継続となる本プロジェクトでは、安全性/毒性試験に使用することのできる高品質なPfs230D1+ワクチン抗原とSA-1アジュバントを作製します。さらに、本ワクチン製剤の開発計画の妥当性について、米国FDAへの相談を行います。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

WHOによれば、これまで多岐にわたる対策を注力してきたにもかかわらず、2018年には依然として世界で2億人以上がマラリアに罹り、死者も40万人に及んでいます(World Malaria Report 2019)。マラリアグローバル技術戦略(2016〜2030年)で掲げられたマラリアエリミネーションの目標を達成するためには、既存の対策をより強化するとともに、新たな対策法を開発し、それを導入することが喫緊の課題です。ヒトから蚊への原虫感染サイクルを断つことができるマラリア伝搬阻止ワクチンは、持続的伝搬阻止効果が期待できます。したがって、本プロジェクトで開発を進めるワクチンはマラリア撲滅の達成に貢献すると考えられます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトの革新的なポイントは2つあります。一つ目は、これまでの研究で、強い熱帯熱マラリア伝搬阻止効果を有することが実証されたPfs230D1+をワクチン抗原に用いること。二つ目は、持続的かつ質の高い免疫増強作用が期待できる新規TLR7アジュバントSA-1を用いることです。

各パートナーの役割と責任

PATH設立以来20年間、企業・政府機関・アカデミアで進められてきた各種マラリアワクチン開発に対して、資金提供、科学・技術・マネージメントで多大な貢献をしてきました。本プロジェクトでは、PATHは代表者として、プロジェクトマネージメント、Pfs230D1+タンパク質の提供、免疫学的試験、動物実験、および薬事申請業務を担当します。

愛媛大学:愛媛大学は、これまでマラリア基礎研究、技術開発、なかでも伝搬阻止ワクチン候補抗原探索研究の豊富な実績を持っています。それにより、PATHの共同研究パートナーとして以前のGHITプロジェクトにおいてPfs230D1+を決定しました。本プロジェクトでは、本ワクチン製剤が誘導する抗Pfs230D1+抗体の機能評価を担当します。

大日本住友製薬株式会社:大日本住友製薬は、長年に渡る医薬品研究開発の実績があり、現在SA-1アジュバント製剤の開発および非臨床評価を実施しています。本プロジェクトでは、SA-1アジュバント製剤に係るIND申請のための情報提供、および製造と安定性評価を担当します。

他(参考文献、引用文献など)

WHO Global Technical Strategy for Malaria 2016-2030. https://www.who.int/malaria/publications/atoz/9789241564991/en/

 

WHO World Malaria Report 2019.

https://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2019/en/

 

Lee SM, Wu CK, Plieskatt CL et al, N-Terminal Pfs230 Domain Produced in Baculovirus as a Biological Active Transmission-Blocking Vaccine Candidate. Clin Vaccine Immunol. (2017) 24:e00140-7.

 

Tachibana M, Miura K, Takashima E, Morita M, Nagaoka H, Zhou L, Long CA, King CR, Torii M, Tsuboi T, Ishino T. Identification of domains within Pfs230 that elicit transmission blocking antibody responses. Vaccine. 2019 Mar 22;37(13):1799-1806.

最終報告書

1. プロジェクトの目的

- 非臨床安全性試験に使用するPfs230D1+抗原およびSA-1アジュバントの製造。
- GLP準拠非臨床安全性試験および第1相臨床試験の計画について米国食品医薬品局(FDA)と協議するためのPre-INDパッケージの提出。
- Pfs230D1+/SA-1製剤のIND申請のためのGLP準拠非臨床安全性試験の実施。

 

2. プロジェクト・デザイン

- Pfs230D1+抗原とSA-1アジュバントは、研究機関から製造受託機関に技術移管の上、製造し、品質規格に適合することを確認する。
- Pfs230D1+抗原とSA-1アジュバントの製造工程と品質規格、Pfs230D1+/SA-1製剤のIND申請のためのGLP準拠非臨床安全性試験およびFirst-in-Human(FIH)試験のデザインについて、FDAの同意を得る。
- Pfs230D1+/SA-1製剤のIND申請のためのGLP準拠非臨床安全性試験を実施する。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

以下の3つのマイルストーンをすべて達成した。

マイルストーン1.  Pfs230D1+(エンジニアリングラン品質(Eng))およびSA-1アジュバント(cGMP品質)の製造が完了。 Pfs230D1+のEngロットを製造及び充填の上、品質規格に適合することを確認した。この抗原は、ストレス温度下、複数回の凍結融解サイクル後、および-65℃以下での長期保存(12か月)後も安定であった。EngロットPfs230D1+の免疫原性は、マウスに伝搬阻止抗体を誘導することで確認された。
EngロットおよびGMPロットのSA-1アジュバントについても製造を完了し、品質規格に適合することを確認した。 本アジュバントは、現時点で、加速条件下及び長期保存後も安定であることを確認した。
Pfs230D1+とSA-1アジュバントを投与前にベッドサイドで混合し製剤化する予定である。製剤化されたワクチンは、2~8℃または25℃で24時間まで安定であり、計画されている非臨床試験および臨床試験のための製剤調製手順を確立した。

マイルストーン2.非臨床安全性試験に関する規制ガイダンスをFDAから受領した。米国FDAとの協議を2回実施した。1回目はタイプCの会議で、FDAはSA-1アジュバント単剤で実施した非臨床安全性試験の結果を確認した。FDAは、これらの試験結果に基づき、SA-1アジュバントに関する懸念はないと述べた。 2回目はPre-IND会議で、FDAは抗原とアジュバントの製造工程と最新データを確認し、製造仕様に同意した。また、Pfs230D1+/SA-1製剤のGLP準拠非臨床安全性試験および計画中のFIH試験のデザインについてもFDAから同意が得られた。

マイルストーン3.IND申請のためのGLP準拠非臨床安全性試験が完了。ラットにPfs230D1+/SA-1製剤を合計4回投与するとともに、生理食塩水、Pfs230D1+単剤およびSA-1単剤を対照物質として投与する、IND申請のためのGLP準拠非臨床安全性試験を実施した。その結果、すべての動物が剖検時まで生存し、Pfs230D1+/SA-1製剤の忍容性は良好、かつ安全性に問題はなかった。