Investment

プロジェクト

新規作用機序を有する抗マラリア薬創出に向けたGwt1阻害剤のリード展開

イントロダクション/背景

イントロダクション

マラリアは蚊が媒介するPlasmodium属原虫によって引き起こされる感染症であり、アフリカの子供達を中心に年間約43万人の死者が出ている。さらに、近年は第一選択薬であるアルテミシニンに対する耐性がタイやカンボジア、ベトナムを中心とした国々で出現し、耐性原虫に効果を示す新規作用機序を有する抗マラリア薬の創出が早急に求められている。

本プロジェクトでは、新規作用機序であるグリコシルフォスファチジルイノシトール(GPI)生合成阻害作用を有するリード化合物に対して最適化研究を行う。GPIは真核生物に共通する、タンパク質を細胞表層につなぎとめる分子である。エーザイはGPI生合成経路の中のGwt1p酵素を抗マラリア薬の標的として見出し、社内ライブラリーから見出したヒット化合物をもとに、Hit-to-Lead PlatformにおいてMMVと共同でリード化合物の創出に成功した。両者はリード化合物についてさらに最適化研究を行い、MMVの目指す化合物像(TCP)を満たす化合物の創出につなげていく。

 

プロジェクトの目的

新規マラリア治療薬の開発候補化合物創出に向けて、既に見出したリード化合物の構造変換によって抗マラリア活性の向上と血中半減期の延長を目指す。一連の構造変換を完了した後に、動物実験で薬効を示すいくつかの化合物を選別し、これらについて体内動態および安全性、物性試験を実施する。最終的に、これらの中から一つの化合物を開発候補品として選別する。また、化合物の構造変換と同時並行でGwt1p阻害剤が示す生物学的特性について解析し、TCPを設定する。さらに、抗P. vivax活性の評価系をプロジェクト内で構築し、Gwt1p阻害剤の抗P. vivax活性を評価する。

 

プロジェクト・デザイン

本プロジェクトで保有しているリード化合物の構造変換を行い、抗マラリア活性の向上と血中半減期の延長を目指す。新規化合物はCROで合成された後、エーザイの筑波研究所に送られて以下の手順で評価される。(1)抗マラリア活性およびGwt1p酵素阻害活性を評価する。(2)抗マラリア活性を示す化合物の中性での溶解性および肝ミクロソームに対する代謝安定性を評価する。(3)十分な溶解性と代謝安定性を示す化合物を種々の評価系で精査し、開発候補化合物を同定する。最も良好な化合物が選択されて次の開発段階である前臨床試験へ進むが、化合物の決定前にラットを用いた7日間のdose range finding studyを実施する。

 

 

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

マラリアは依然としてサハラ以南のアフリカ諸国を中心とする国々で子供達の生命を脅かしている。特徴的な新規作用機序を有する新たな治療薬を提供することで、将来的にマラリアの撲滅につながることを期待している。感染症の制御においては薬剤治療とワクチンによる予防、媒介生物の制御等がいずれも重要である。十分な効果を示すワクチンが得られていないマラリア対策においては薬剤による治療および予防が重要であり、これまでアルテミシニンを筆頭に薬剤治療が劇的な進化を遂げる一方で、耐性の蔓延が問題となってきた。現在、治療薬開発の最終目標は単回投与での治癒と予防を可能にすることであり、これに向けた目指す薬剤像(TPP)と、その構成成分について目指す化合物像(TCP)がMMVによって設定されている。本プロジェクトにおける新規の作用機序は、これらのうち複数のTCPを満たすことが予想されており、将来的に多くの子供たちの命を救い、マラリアの撲滅を実現する次世代抗マラリア薬の創出につながることが期待される。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトにおけるもっとも重要な特徴は、新規の作用機序と新たな薬効標的である。GPI生合成阻害という作用機序は抗マラリア薬としてこれまでにないコンセプトであり、エーザイによって発見された生合成酵素Gwt1pが薬効標的となっている。新規作用機序を有するGwt1p阻害剤はアルテミシンを含む既存薬への耐性株にも有効であると考えられる。次の特徴として、GPI生合成阻害がマラリア原虫の生活環における全てのステージに作用することが期待される。各生活ステージにおいてはそれぞれ特異的なGPIアンカー型タンパク質が合成され、GPIによって細胞表層に結合されている。GPIの生合成を阻害することで、これらすべてのGPIアンカー型タンパク質の発現が阻害され、原虫の生育が抑えられる。さらなる特徴として、その作用機序に基づき、抗マラリア活性に加えて免疫性獲得の誘導や炎症作用の軽減といった新たな薬効を同時に示すことが期待される。

各パートナーの役割と責任

エーザイは新規化合物の合成および化合物スクリーニング、体内動態、安全性、物性試験等の前臨床試験を担当する。エーザイは自社が英国に有する研究施設内で受託合成業務を行っているCharles River社と契約し、Charles River社の合成研究者はエーザイの合成研究者のリードのもとに独自のアイデアも加えて合成展開を行う。新規に合成された化合物の全ての知的財産権はエーザイが保持する。合成された化合物はエーザイの筑波研究所に送られて、種々の評価を実施する。

 

MMVは、有望化合物についてマラリア原虫の生活環における各ステージでの効果および動物実験によるin vivo薬効を評価する。MMVは自らが構築した研究ネットワークに属する複数の研究機関に試験を依頼し、得られたデータを研究チームにフィードバックする。また、抗マラリア研究をリードする立場から、Gwt1pのTCPを選択する。

 

全ての意思決定は、エーザイとMMVが共同で行う。各マイルストンにおける方針の最終決定はエーザイが行う。

他(参考文献、引用文献など)

参考文献

1. http://www.who.int/malaria/publications/world-malaria-report-2016/report/en/

2. Yeung S, Socheat D, Moorthy VS et al. Artemisinin resistance on the Thai-Cambodian border. Lancet 2009; 374: 1418-9.

3. Hawkes M, Conroy AL, Kain KC. Spread of artemisinin resistance in malaria. The New England journal of medicine 2014; 371: 1944-5.

4. Okamoto M, Yoko-o T, Umemura M et al. Glycosylphosphatidylinositol-anchored proteins are required for the transport of detergent-resistant microdomain-associated membrane proteins Tat2p and Fur4p. The Journal of biological chemistry 2006; 281: 4013-23.

5. Sagane K, Umemura M, Ogawa-Mitsuhashi K et al. Analysis of membrane topology and identification of essential residues for the yeast endoplasmic reticulum inositol acyltransferase Gwt1p. The Journal of biological chemistry 2011; 286: 14649-58.

6. Tsukahara K, Hata K, Nakamoto K et al. Medicinal genetics approach towards identifying the molecular target of a novel inhibitor of fungal cell wall assembly. Mol Microbiol 2003; 48: 1029-42.

7. Umemura M, Okamoto M, Nakayama K et al. GWT1 gene is required for inositol acylation of glycosylphosphatidylinositol anchors in yeast. The Journal of biological chemistry 2003; 278: 23639-47.

8. Miyazaki M, Horii T, Hata K et al. In vitro activity of E1210, a novel antifungal, against clinically important yeasts and molds. Antimicrobial agents and chemotherapy 2011; 55: 4652-8.

9. Burrows et al. New Developments in Anti-Malarial Target Candidate and Product Profiles. Malar J 2017; 16:26

最終報告書

1. プロジェクトの目的

新規マラリア治療薬の候補化合物創出を目指し、リード化合物の構造変換を実施した。動物実験での薬効評価および体内動態、安全性、物性試験を実施し、一つの化合物を開発候補品として選別した。また、Gwt1p阻害剤が示す生物学的特性について解析しTCPを設定するとともに、抗三日熱マラリア原虫活性を評価した。

 

2. プロジェクト・デザイン

リード化合物の構造変換を行い、抗マラリア活性の向上と血中半減期の延長を目指した。新規化合物はCROで合成された後、エーザイにおいて抗マラリア活性およびGwt1p酵素阻害活性、溶解性、代謝安定性について評価した。有望化合物をMMVのマラリア評価系で精査したうえで、開発候補化合物を決定した。

 

3. プロジェクトの結果及び考察

Hit-to-Lead Platformにおいて合成された約400化合物から見出されたリード化合物を基点に、2年間で約600化合物を新規合成した。これらの化合物全てについてin vitroで抗マラリア活性評価を実施し、活性の向上した化合物を多数見出した。次いで溶解度および代謝安定性試験を実施し、溶解性および代謝安定性が確認された約150化合物をマウスマラリアモデルで評価した。マウスモデルで良好な薬効を示した化合物から2つの化合物を候補化合物として選別し、MMVにおいてヒト化マウスモデルを用いた薬効評価行うとともに、エーザイにおいて物性、安全性、体内動態等について精査した。また、薬効および体内動態指標を用いてヒトでの投与量予測を行い、薬効と安全性のマージンを考察した。これらの結果に基づいて1つの化合物を最終候補化合物として選別し、ラットを用いた7日間のDRF試験を実施したうえで、エーザイにおいて開発候補化合物として承認した。今後、MMVにおいて化合物選択の審議を行ったうえで前臨床試験に移行する予定である。また、MMVにおいてマラリア原虫の各life-stageに対する薬効評価を行うとともに、耐性出現頻度について試験を実施した。現時点において、Gwt1p阻害剤は治療薬を企図するTCP-1を第一の開発ターゲットとしており、今後さらに薬効を精査したうえで予防薬であるTCP-4の可能性についても議論する。