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【ボリビア・ブラジル訪問レポート】シャーガス病の診断薬開発と中南米でのパートナーシップ強化
2023年8月下旬に、投資戦略 兼 ポートフォリオディベロップメント & イノベーションズ アソシエイトヴァイスプレシデントの浦辺 隼がボリビア・ブラジルを訪れ、現地の研究機関や病院を訪れ、現在、臨床試験段階にある「シャーガスLAMP法」の診断薬の開発の進捗や現地の状況を視察しました。また、南米の重要機関であるオズワルド・クルス財団(FIOCRUZ)や顧みられない熱帯病(NTDs)の治療薬の研究開発を推進する非営利団体であるDNDiのラテンアメリカ本部などを訪問しました。
●シャーガス病の高蔓延地域である南米ボリビアを訪問
・シャーガス病とは?
シャーガス病はラテンアメリカの21カ国に蔓延しており、アメリカ大陸の他のどの寄生虫疾患よりも障害調整生存年数※1(Disability-adjusted life years :DALYs)の負担が大きくなっています。世界中で700 万人が感染していると推定されていますが、診断ツールの不備などから、世界的な感染率や罹患率の報告はほとんどありません。顧みられない熱帯病と扱われる所以でもあります。
シャーガス病の母子感染は、「昆虫による自然感染や輸血による感染を完全にコントロールしたとしても、新生児への継続的な感染源となっている」と考えられています。
シャーガス病はカメムシの仲間であるサシガメが媒介して感染する病気で主に中南米で多く見られます。
・診断薬「シャーガスLAMP法」の開発に向けて
Pan American Health Organization (PAHO) によると、推定112万人の出産可能年齢の女性がシャガース病に感染しており、毎年約9,000人の感染児が誕生しています。これはこの地域での新規感染者数の20%以上を占めています。「シャーガスLAMP法」は、母体と新生児の早期診断を可能にする高感度で特異的な診断法で、新生児の診断・治療効率を高め、広域に持続する慢性感染症の健康被害を抑制することに貢献すると考えられています。
今回のボリビア訪問は、現在進行中のプログラムの進捗確認及びデータ適合の確認を現地で視察するとともに、地方レベルや自治体レベルの関係者や医療従事者と話をし、早期診断・早期治療の重要性を広めるための調整や啓発活動を行い、現地で根底にある問題が何であるかを確認することができました。GHITが第3次5カ年計画「GHIT 3.0」で目標に掲げている「イノベーションの加速」を強化すべく、今回の「シャーガスLAMP法」のような後期製品開発プロジェクトへの積極的な投資が、より速く、現地へ治療薬・ワクチン・診断薬を最も必要としている患者さんに届けるために重要であることが認識できました。
医師であり、DNDiのシャーガス病プログラムの責任者であるマリア・ヘスス・ピナソはこう述べています。「ボリビアでは、この感染症にかかっている人が100万人から200万人いると推定され、そのうちの約40%が、診断も適時の治療も受けずに、心臓、腸、または心臓と腸のいずれかを侵すこの病気を発症する。どうすればこれを避けることができるか?それは、「シャーガスLAMP法」のようなプロジェクトで、成人、特に感染している妊婦を特定するための迅速診断法によって診断し、その赤ん坊を早期に特定することである。この早期診断により、赤ちゃんは直ちに治療を受けることができる。母親の場合、高い割合で治療が有効であり、母親の病気の発症だけでなく、新たな妊娠での感染も抑えることができる。妊娠前の女性が適時に治療を受ければ、母子感染を防ぐことができることが明らかになっている。したがって、現在GHIT Fundが技術的にも財政的にも支援しているこのプロジェクトは、診断患者の10%未満、治療患者の1%未満という現状を改善するために不可欠なのです。」
ヤクイーバ自治政府の保健省に所属する公衆衛生管理・計画局の保健技師であるクラウディア・ベラルデ・ビルスは「シャーガス病は人口の大部分に影響を及ぼしており、この病気の早期発見と治療完了を可能にするため、「シャーガスLAMP法」を用いたトレーニングやシャーガス病患者のフォローアップを通じて、保健所の強化に取り組んでいます。私たちは、住民、保健スタッフをトレーニングすることで、私たちの自治体に大きな影響を与えるこの病気に関するケアやすべての作業を改善することができました。サニット財団、ミルコ医師、GHIT Fundの浦辺さん、そしてISグローバルに感謝します。」と述べています。
●国際機関であるGHIT Fundが触媒的な働きでパートナーシップを強化
日本とブラジルの外交関係は1895年に遡ります。19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ハンセン病、回虫、黄熱病、マラリアなど、多くの国民を苦しめた主な病気の研究において、ブラジルと日本は地理的・文化的障壁を越えて協力をしてきた歴史があります。GHIT Fundは、エーザイおよびDNDiと共同で、2014年からシャーガス病に対するBENDITA試験のプログラムに投資していた歴史があります。GHIT3.0の戦略的な柱である「低中所得国との戦略的パートナーシップの強化」は非常に重要であり、今回のボリビア・ブラジル訪問における各機関との対話は大変に有意義なものとなりました。
・オズワルド・クルス財団(FIOCRUZ)訪問
日本とブラジルの歴史的な協力関係から、パートナーシップの強化や将来的な協力や連携など多岐に渡る議論を行いました。風土病だけでなく将来のパンデミックと闘うための彼らの今後の取り組み、例えばW H Oから選択されたmRNAワクチン施設(Bio-Manguinhos)との触媒的連携についても議論をし、これからのパートナーシップ強化に向けて議論を進めます。
・DNDi ラテンアメリカ本部訪問
DNDi のラテンアメリカ本部と会談し、中南米におけるNTDsの状況についての情報交換を行いました。継続的な関係性の強化でNTDsのコミュニティでも国内外でリーダーシップを共に発揮できればと考えています。
GHIT Fundは今後も、中南米諸国の研究機関との強力なパートナーシップにより、現地の視点や各国のニーズに合わせた研究開発に貢献していきます。
オズワルド・クルス財団(FIOCRUZ)訪問(左)とDNDi ラテンアメリカ本部訪問(右)
Interview:
「シャーガス病の母子感染について知る」
マリア・ヘソソ・ピナソ
(DNDi シャーガス病疾病戦略責任者)
「シャーガス病:ボリビア・ヤクイバ保健省の取り組み」
クラウディア・ベラルデ・ピルス
(ボリビア・ヤクイバ自治政府 保健省 公衆衛生管理保健技師)
「シャーガス病の母子感染について知る」
マリア・ヘソソ・ピナソ
(DNDi シャーガス病疾病戦略責任者)
「シャーガス病:ボリビア・ヤクイバ保健省の取り組み」
クラウディア・ベラルデ・ピルス
(ボリビア・ヤクイバ自治政府 保健省 公衆衛生管理保健技師)
※1厚生労働省 健康日本21総論参考資料: https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/s1.html