-
受領年2016
-
投資金額¥37,356,160病気Tuberculosis対象Vaccine開発段階Concept Developmentパートナー東京大学 , メキシコNutricion研究所 , コンセプシオン大学 , マレーシア大学
イントロダクション/背景
イントロダクション
結核は感染症によって引き起こされる主要な死亡原因の一つである。人類の3分の1は潜在的に結核菌に感染していると言われ、いつ発症してもおかしくない状態であり、新規結核感染症の予備群になっている。BCGは結核に対する唯一のワクチンであるが、結核菌の感染と伝播を防御できないので、新規な結核ワクチンの開発は緊急な必要性を有している。多くのワクチンの投与は注射であるが、空気感染で伝播される結核は、感染経路である呼吸器粘膜での防御の観点から粘膜投与型ワクチンが望ましい。経鼻ワクチンは簡便で、低価格である利点もある。しかし、そのようなワクチンの開発には厳しい粘膜環境下での安定性を確保するために適切な方法の構築が必要であった。我々は結核菌の防御抗原として知られているAg85Bを用いて抗体工学を使って、粘膜投与対応型のAg85Bキメラワクチンを開発する。このワクチンは経鼻投与され全身系、および粘膜系の結核特異的免疫応答を誘導することが期待される。
プロジェクトの目的
a) Ag85Bを含むキメラ型ワクチンの発現と精製
b) 経鼻投与による本ワクチンの全身系、および粘膜系の抗原特異的免疫応答の評価
プロジェクト・デザイン
抗体工学を用いて、Ag85Bを含むキメラ型ワクチンを合成し、マウスに経鼻投与する。その後、鼻腔局所でのキメラワクチンの分布および抗原特異的全身系、および粘膜系の液性および細胞性免疫応答を評価する。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
粘膜面は多くの呼吸器および性生殖器感染症を起こす多くの微生物の主要な侵入門戸・感染部位である。特に、結核は呼吸器を介した空気感染による疾患であり、それゆえ、呼吸器に効果的に防御免疫を誘導する粘膜ワクチンを開発することはきわめて重要である。ヒトに対する粘膜ワクチンの中で、ポリオ、コレラ、腸チフス、ロタウイルス下痢症には経口ワクチンが用いられ、インフルエンザには経鼻ワクチンがある。これらのワクチンの多くは弱毒型であり、免疫不全の患者にはリスクがある。今までに、世界市場で組換えサブユニット型の粘膜ワクチンは製造承認販売されてはいない。この課題は粘膜面における分解安定性が付与され、かつ抗原特異的粘膜免疫を誘導できる可能性をもつ新規な粘膜ワクチン開発の新しい試みである。経口、経鼻投与できる効果的な結核粘膜ワクチンは結核ワクチン分野の革新的なワクチンになるかもしれない。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
粘膜という劣悪な環境での、分解安定性を付与され粘膜免疫を誘導できる可能性のある粘膜ワクチン開発の新規な試み
各パートナーの役割と責任
各パートナーは以下の研究を行う。
1. マレーシア大学(USM):プロジェクトコーディネーター
・組換えDNAの調整
・抗原特異的全身系、および粘膜系の液性および細胞性免疫応答を評価
・データ解析と報告書作成
2. 東京大学(UT)
・大腸菌での組換えAg85B調整
・抗原特異的全身系、および粘膜系の液性および細胞性免疫応答を評価
・データ解析と報告書作成
3. メキシコNutricion研究所(IN)
・抗原特異的全身系、および粘膜系の液性および細胞性免疫応答を評価
・データ解析と報告書作成
4. チリCONCEPCION大学(UC)
・組換えDNAの調整
・キメラワクチンの発現と精製
・データ解析と報告書作成
最終報告書
1. プロジェクトの目的
結核菌は肺を介して体内に侵入することから、侵入局所の免疫系を強化して効果的な感染防御を図るため、経粘膜投与の新規結核ワクチン開発を目的とした。候補抗原として、宿主蛋白質に融合した結核菌85Bのキメラ抗原を設計し、マウスに経鼻投与することで抗原特異的な粘膜及び全身での液性・細胞性免疫応答を評価する。
2.プロジェクト・デザイン
ワクチン戦略は、結核菌85B抗原の有効性を増強するために宿主蛋白質を融合させたキメラ抗原の設計を基盤とする。このキメラ抗原を発現精製してマウスに経鼻投与し、局所的な毒性評価に加え、鼻咽頭関連リンパ組織と肺における抗原特異的な免疫応答並びに様々な免疫パラメーターによりワクチンとしての有効性を評価する。
3.プロジェクトの結果及び考察
我々は、いくつかの技術的な挑戦を重ねた結果、候補ワクチンとしてのキメラ抗原の発現および精製に成功した。また、解析の結果、精製したワクチン抗原候補には、目的の宿主蛋白質と結核菌85Bのすべての成分が含まれていることを明らかにした。この精製キメラ抗原をマウスに鼻腔内投与すると、毒性の兆候を認めることなく、鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)および肺において免疫応答が誘導されることが確認された。実際、抗原特異的IgA抗体の産生を認め、抗原特異的な粘膜免疫応答が検出された。さらに、抗原特異的な血清中の総IgGおよびサブクラスIgGも検出された。これらの結果は、液性免疫応答が、粘膜局所および全身の両方において候補ワクチンによって引き起こされることを示している。さらに、免疫細胞が結核抗原の曝露に対して顕著に反応したことも解析により明らかとなった。すなわち、ワクチン免疫マウスにおいては、結核抗原に対する免疫細胞の著しい増殖応答が観察され、免疫応答誘発分子である様々な関連サイトカインの産生が見られたが、ワクチン未免疫マウスの免疫細胞では観察されなかった。以上の結果は、我々の構築した結核抗原を含むキメラワクチン抗原が、粘膜ワクチンとしての有効性を持つことを証明しており、免疫動物の全身およびワクチン投与部位である粘膜局所において、適切な免疫応答を誘導するのに効果的であることを示唆する。本研究における我々の発見は、将来的な結核菌攻撃試験によるワクチン候補の評価に進むことを裏付けるものであり、それが成功すれば、我々のキメラワクチン抗原が、菌の侵入口および全身において結核に対する防御を誘導する可能性を示唆する。
Investment
プロジェクト
抗体工学による新規な結核粘膜ワクチンの開発