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受領年2016
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投資金額¥98,654,034病気NTD(Dengue)対象Vaccine開発段階Preclinical Developmentパートナー国立感染症研究所 , 長崎大学熱帯医学研究所(熱研) , VLP Therapeutics論文
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Urakami A, Ngwe Tun MM, Moi ML, Sakurai A, Ishikawa M, Kuno S, Ueno R, Morita K, Akahata W. An Envelope-Modified Tetravalent Dengue Virus-Like-Particle Vaccine Has Implications for Flavivirus Vaccine Design. J Virol. 2017 Nov 14;91(23):e01181-17. doi: 10.1128/JVI.01181-17. PMID: 28956764; PMCID: PMC5686733.
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Thoresen D, Matsuda K, Urakami A, Ngwe Tun MM, Nomura T, Moi ML, Watanabe Y, Ishikawa M, Hau TTT, Yamamoto H, Suzaki Y, Ami Y, Smith JF, Matano T, Morita K, Akahata W. A tetravalent dengue virus-like particle vaccine induces high levels of neutralizing antibodies and reduces dengue replication in non-human primates. J Virol. 2024 Apr 22:e0023924. doi: 10.1128/jvi.00239-24. Epub ahead of print. PMID: 38647327.
イントロダクション/背景
イントロダクション
デングウイルスは、世界の最も深刻な公衆衛生の問題であり、その感染は年々拡大している1。現在、世界人口の約50%がデングウイルス感染のリスクがあり、100ヶ国以上の国々で年間約5000万人から1億人が感染している。デングウイルスは蚊によって媒介され、発症するとインフルエンザ様の発熱症状を引き起こし、一部の患者では致死性疾患であるデング出血熱へと重症化する。
デングウイルスの脅威は、流行地域の居住者やこれらの地域への旅行者にとっても大きなもののみならず、労働力、ビジネス、観光業といった経済活動にも甚大な影響を与えている。しかしながら、現在のところデング熱に対する有効な治療法は存在しない。デングウイルスへの感染予防は媒介蚊に対する対策が主であり、袖のある服の着用、蚊帳、殺虫剤が用いられているが、長期間の殺虫剤使用は薬剤耐性を持つ蚊を生み出す懸念がある2。一方でワクチン開発も進められており、Dengvaxia®は世界で初めて製造販売が承認されたデングウイルスワクチンとなったが、現在のところ限られた国において承認されており、また、一部の型のウイルスの防御効果は限定的である3。このことから、より有効なデングウイルスワクチンの迅速な開発が求められている。
プロジェクトの目的
共同研究パートナー、VLP Therapeutics社、国立感染症研究所(NIID)および長崎大学熱帯医学研究所は、4種類の血清型のデングウイルスすべてに対し、既存のものよりも有効で安全性の高いデングウイルスワクチンの開発を目指している。
現在世界中で開発されているデングウイルスワクチンの多くは、デングウイルスそのものを弱毒化して接種する生ワクチンであるが、体内でウイルスが増殖することによって副作用が引き起こされる可能性がある。我々が開発した新しいデングウイルスワクチンは、ウイルスと同じ構造を持つがRNAなどのウイルス遺伝情報を持たないウイルス様粒子(Virus-Like Particles、VLP)を用いている。VLPは体内で増殖しないため安全性が高い次世代型のワクチンとして既にいくつかの疾患に対するVLPワクチンが実用化されており、高い免疫原性と長期間の有効性が証明されている4,5。
我々が開発しているデングVLPワクチンは、世界中の医療機関で、少ない回数と短い期間で簡便に接種できるワクチンになると考えている。
プロジェクト・デザイン
これまでの検討により、デングウイルスの粒子構造に修飾を加えることで4種類の血清型のデングウイルスのVLPを作成することに成功した。さらに、それぞれのVLPワクチンを接種したマウスでは、免疫した血清型のデングウイルスに対して高い中和作用を持つ抗体が産生されることを明らかにしている。
本プロジェクトは、4種類のVLPを混合したワクチンが、マウスおよびサルの動物モデルにおいてすべての血清型のデングウイルスに対して有効な防御抗体を誘導し、また、実際にデングウイルス感染を予防することを示す事を目的としている。始めにマウスを用いて投与用量および配合を検討する。次に、サルモデルで免疫反応とウイルス感染を防御できるかどうかについて検討を行う。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
現在とられているデングウイルスへの予防法はいずれも効果が低く、世界における疾病率および死亡率は依然として高いままである。我々が開発を目指す新しいデングVLPワクチンは、世界中に拡大する4つの型のデングウイルスすべてに対し感染を抑制すると期待している。
なお、現在市販されているデングワクチンは、十分な効果を得るまでに3回の接種と1年という期間がかかる。我々がこれまでに得ているマウス試験の結果では、デングVLPワクチンは2回の接種、期間は1か月で高い免疫反応を示したことから、接種の負担も少なく迅速に効果が得られる優れたワクチンになりうると考えている。
更に、VLPを利用したワクチンは製造が容易であり、デングウイルスの変異や新種の発生に対して素早く対応することが出来るという利点もある。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
VLPワクチンは安全性、および有効性が非常に高い次世代型のワクチンである。我々は、ウイルスの立体構造を基にして、デングウイルスのE蛋白のアミノ酸に変異を加え、4つの非常に安定したVLPワクチンを作成することができた。そのため、この新しいデングワクチンは、VLPワクチンプラットフォームとして、以下のような特徴を持つ。(1)ワクチンが複製しないため、非常に高い安全性を持つ(ほとんどの開発されているデングワクチンは、ウイルスを弱めて使っているが、VLPワクチンはウイルスではないので副作用の危険性がない)(2)VLPワクチンは、実際のウイルスと似ているため、強い免疫反応を引き起こす。(3)非常に強い抗体反応をひきおこすため、ワクチンの回数を少なく、期間を短くすることができる。(4)柔軟なプラットフォームのため、ウイルスの突然変異や新しい感染に対して、短い期間で新しいワクチンを作成できる。プロジェクトの最終的な目標は、安全で有効な4つの型のデングウイルスすべてに対するワクチンを開発し、多くの人々をデングウイルスの感染から救うことである。
各パートナーの役割と責任
本プロジェクトはVLP Therapeutics、国立感染症研究所および長崎大学熱帯医学研究所が、それぞれの得意分野を生かした共同研究によって遂行される。3社それぞれが担う役割は以下のとおりである。
(1) VLP Therapeuticsは、本グラントの代表としてプロジェクト運営に責任を持ち、3社間のコミュニケーションを統括する。また、実験計画とスケジュール調整、試験に用いるデングVLPの供給、およびマウスを用いた免疫反応の実験を担当する。
(2) 国立感染症研究所は、サルを用いたデングVLPワクチンの長期間の免疫反応の実験と、マーモセットを用いて、デングVLPワクチンのデングウイルスの感染防御作用の実験を行う。これらのサルを用いた動物試験は、デングVLPワクチンのヒトへの有効性を示すため大変重要なものである。
(3) 長崎大学熱帯医学研究所はデングVLPワクチン投与動物から得た血清中の抗体量および中和活性の測定を実施する。熱帯医学研究所はデング熱をはじめとする熱帯感染症研究の中心のひとつであり、デングウイルスを取り扱う研究環境、経験、人材ともに豊富である。
他(参考文献、引用文献など)
1. http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/75303/1/9789241504034_eng.pdf?ua=1.
2. http://www.who.int/denguecontrol/control_strategies/en/.
3. Capeding, M. R. et al. Clinical efficacy and safety of a novel tetravalent dengue vaccine in healthy children in Asia: a phase 3, randomised, observer-masked, placebo-controlled trial. Lancet 384, 1358-1365, doi:10.1016/S0140-6736(14)61060-6 (2014).
4. Harper, D. M. et al. Sustained efficacy up to 4.5 years of a bivalent L1 virus-like particle vaccine against human papillomavirus types 16 and 18: follow-up from a randomised control trial. Lancet 367, 1247-1255, doi:10.1016/S0140-6736(06)68439-0 (2006).
5. Mao, C. et al. Efficacy of human papillomavirus-16 vaccine to prevent cervical intraepithelial neoplasia: a randomized controlled trial. Obstet Gynecol 107, 18-27, doi:10.1097/01.AOG.0000192397.41191.fb (2006).
最終報告書
1.プロジェクトの目的
デングウイルスは、世界で最も深刻な公衆衛生の問題であり、有効なワクチンはない。そのため、次世代のワクチンが必要とされている。VLPワクチンは遺伝子を持たないが、外見はウイルスと同じ構造を持つため、安全で高い免疫原性を持つ。VLPワクチンは、現在開発中のデング生ワクチンが適用できない最も脆弱な乳幼児や幼児も含めたすべての人に接種できる。本プロジェクトの目的は我々の開発したワクチンを、将来の臨床試験及び製品開発を行うために必要とされる前臨床試験を行うことである。
2.プロジェクト・デザイン
我々はまずマウス及びサルを用いて免疫原性を評価する。3つのワクチン用量をカニクイザルに接種し安全性、中和抗体価、抗体価の期間、ADE活性、最小用量の情報を得る。また、マーモセットにワクチン接種後、4価すべてのウイルスを攻撃接種し、ワクチン防御効果を評価する。最後に、防御効果の機構を理解するために免疫したカニクイザルから抗体を精製しAG129マウスモデルに接種し攻撃接種を行い、防御効果を評価する。
3.プロジェクトの結果及び考察
VLP Therapeutics社、国立感染症研究所(NIID)及び長崎大学熱帯医学研究所は、GHITのサポートにより、4価のデングワクチンの前臨床試験の共同研究を行った。チームは、マウスとカニクイザルを用いて免疫原性を評価し、マーモセットを用いて防御効果を測定した。マーモセットは、最もデングウイルスに感受性が高いモデルと考えられる。
マウスに我々のVLPワクチンを接種を行い、4価すべてのデングウイルスに対して非常に高い中和抗体の誘導が確認された。3つの用量をカニクイザルに接種したところ、4価すべてのデングウイルスに対して非常に高い中和抗体の誘導があり、中和抗体価は実験が終了するまでの1年の間維持された。マーモセットを用いた実験では、免疫されたマーモセットに4価すべてのデングウイルスに対して防御効果が確認された。また、防御効果の機構を理解するため、免疫したカニクイザルから抗体を精製しAG129マウスモデルに接種し攻撃接種を行った。コントロールのサルの抗体を接種したマウスは、すべてのマウスがデングの症状を見せ死亡したのに対し、我々のデングワクチンを免疫されたサルの抗体を接種したマウスにおいては、完全に防御効果が示された。デングワクチン開発の安全性の懸念の一つは、ADEである。我々のVLPワクチンはADEが減少するようにデザインされている。免疫されたカニクイザルでは少なくも1年間の期間で1:10に希釈した血清においてADEが確認されなかった。
これらの研究から、この新規の4価VLPデングワクチンが、非常に免疫原性が高くまた安全であることが評価できた。また、このワクチンは乳幼児や幼児を含めたすべての人に対して効果が期待できると考えられる。このプロジェクトの最終的な目標は、安全で4価すべてのデングウイルスに対して効果のあるワクチンを製造し、デングの感染から多くの人を守ることである。この成果を期待できるこれらの結果をもとに、我々は臨床試験を行うためのワクチン製造を計画している。
Investment
プロジェクト
ウイルス様粒子(VLP)を用いた新規4価デングワクチンの開発