Investment

プロジェクト

新しいデングワクチンMVDVaxの前臨床開発
  • 受領年
    2015
  • 投資金額
    ¥61,290,240
  • 病気
    NTD (Dengue)
  • 対象
    Vaccine
  • 開発段階
    Preclinical Development
  • パートナー
    長崎大学熱帯医学研究所(熱研) ,  パスツール研究所 ,  欧州ワクチンイニシアチブ(EVI)

イントロダクション/背景

年間3億9千万人がデングウイルスに感染し、そのうち9千6百万人がデング熱を発症しています。またデング熱により毎年2万2千人が小児を中心に命を落としています。デング熱はマラリアのような他の熱帯病に比べれば致死率は高くはありませんが、感染による病害や流行の予防に費やす労力や資源の大きさを考えれば、世界の健康問題のうち、最も主要な克服すべき課題であると言えます。すでにいくつかのワクチン候補が前臨床あるいは臨床開発段階にあり、最も開発が進んでいたワクチンは最近臨床開発の第3相効果判定試験を終了しました。これらのワクチンの臨床試験は、いろいろな重要な知見をもたらし、ワクチンによる集団の防御が可能であることを示しましたが、それ以上にいろいろな難しい問題を提起しました。その中で最も重要な問題は、4つの血清型に対する防御効果が均等ではなく大きな差がみられたことでした。そのような状況では防御効果の低い血清型ウイルスの体内へのすり抜け感染の頻度が高まり、異なる血清型に連続的に感染した時と同様に重症化しやすくなるのではないかと危惧されます。

今回採択された提案は、我々のデングウイルス遺伝子組み換え型の麻疹ウイルスワクチン(MVDVax)の防御効果を霊長類で証明しようとするものです。そして長期的な目標としては、ヒトに効果を示すワクチンの創出を掲げています。出来上がったワクチンの対象となる予定なのは、流行地の小児を含めた住民とその地域を訪問する旅行者です。現在開発中のいくつかのウイルスの混合ワクチンと異なり、このワクチンは単一ウイルス弱毒生ワクチンで4つの血清型のデングウイルスを防御できる抗体とリンパ球を作ることができます。これにより異なる血清型の連続感染によって起こる重症化も完全に遮断できると期待しております。今回の前臨床試験により必要なデータが出揃えば、いよいよ本格的な医薬品としての品質を持った製品の製造、毒性試験、ヒトの安全性試験へと進むことになります。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

ここで協力するドイツ、フランス、日本の3つの機関は、デングワクチンやその他のグローバル感染症に対する医薬品開発において、いずれも先導的な役割を果たしてきており、各機関がそれぞれの特色を相補的相乗的に生かして協力することによりMVDVaxデングワクチンの開発が促進されることが期待されます。貧困に基づく感染症対策、特にデング熱の効果的な制御法の開発という目標に向けて、3つのそれぞれ特徴あるパートナー、すなわち公的な研究機関、非営利公益基金、医薬品開発パートナーシップ組織が一つのチームを形成することは大きな意味があります。 

デング熱は世界保健上重要な疾病の一つに数えられ、その病害の大きさから、その制圧に向けて巨額の費用が使われています。このプロジェクトはこの大きな問題であるデング熱の効果的な予防ワクチン開発を最終的な目的としております。我々のMVDVaxが前臨床試験で十分な結果を得られれば、さらに毒性試験、ヒトでの安全性試験へと発展させることができます。今回の前臨床試験は、すべての血清型に対応可能な実用的なワクチンの実現のための第一歩となるものです。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

現在、世界にはまだ承認されたデングワクチンは存在しません。いくつかのワクチン候補が現在前臨床あるいは臨床試験にはいっていますが、そのうち最も進んでいるものが第3相効果判定試験を終了したところです。我々は確かにこれらの研究によって、ワクチンが有効なデング熱の予防手段であることを認識することができましたが、また多くの課題も明らかになりました。最も重要な課題は、血清型によるワクチン効果の違いです。我々はこの問題解決のために今までの知識と実験結果を総合して、いくつかのブレークスルーをしました。より具体的な例としては、いくつかのウイルスの混合物(別々の血清型の)によるウイルス同士の競合をなくすために、単一の麻疹ウイルスを基にした組換えワクチンとし、このワクチンが抗体とリンパ球の両方を刺激できるような構造になるように作製しました。更にコスト的にも既存の麻疹ワクチンをベースにすることで低コスト化することができ、途上国向けの価格に抑えることができると期待できます。

各パートナーの役割と責任

熱研は、パスツールで施行するアカゲザルの実験についてウイルス学的免疫学的な検討を共同で行うと共に、本プロジェクトに引き続き行う予定のヒトでの臨床試験の評価方法の基礎データを収集します。ここではまず、ウイルス学的手法を用いて、ワクチン接種後に行うチャレンジ感染後の血液中のウイルス量の推移をPCRを用いてモニターし、また同時にプラーク形成試験によりウイルス粒子量の測定も行います。また免疫学的手法を用いて、各血清型に特異的な抗体量と、その抗体のウイルス中和活性をすでに確立された方法で測定します。またワクチン接種後の末梢血Tリンパ球を試験管内で抗原刺激したのち、その培養上清中の複数のサイトカインをマルチプレックス法により評価し、ワクチンに組み込まれたT細胞エピトープが確かに免疫原として働いていることを確認しワクチンが期待通りの働きをしていることを証明します。パスツール研究所はこれまですでに、組換え麻疹ウイルスベクタープラットフォームを用いた抗HIVワクチンと抗チクングンヤウイルスワクチンのヒトでの安全性試験を成功させています。本研究のデングワクチンMVDVaxは、この組換え麻疹ウイルスベクターにデングウイルスの遺伝子の一部を組み込んだもので、マウスを用いた実験で十分な免疫を誘導することを実証しています。本プロジェクトでのパスツール研究所の役割は、ヒトを対象にする第一相試験の前段階として、アカゲザルを用いたワクチン投与実験を行い、その免疫原性と防御効果を評価し、加えて4種の血清型に対する抗体レベルの評価法を確立することです。EVI、パスツール研究所、熱研の3者によるデングワクチン開発研究プロジェクトでは、研究代表となったEVIがリーダーとなり、全体の運営に責任を持つことになります。

最終報告書

1. プロジェクトの目的

本プロジェクトは以下の2つの目的をもって行われた。1)組換え麻疹ウイルス(MV)デングワクチンであるMVDVaxの霊長類での免疫原性と防御効果の評価、2)4つの血清型由来のエンベロープドメイン3(EDIII)の発現量を定量し、異なる製造時期でも安定的にワクチン抗原が発現していることを示すことができるアッセイ法の開発。

 

2. プロジェクトのデザイン

MVDVaxは増幅型の麻疹ウイルス(MV)ベクターに4つの血清型由来のEDIIIエンベロープドメインを各一個ずつ合計4つとNSたんぱくの断片をキメラタンパクとなるように組み込み、発現タンパク抗原がCD8陽性T細胞依存性の免疫を誘導できるようにした、組み換え麻疹ウイルスデングワクチンである。本ワクチン候補はマウスにおける予備実験において強い抗体とT細胞免疫応答と防御効果を惹起することが証明されている。

第一番目の目的達成のために、カニクイザルにMVDVaxを免疫し、免疫応答性を確認後、デングウイルスをチャレンジ感染させた。第2番目の目的のためにいくつかの違う製造ロットのワクチンを用意し、それらの発現するたんぱく成分をELISA法及び質量分析法により解析した。

 

3. 結果と考察

フラビウイルス抗体および麻疹ウイルス抗体陰性の12頭のカニクイザルを2グループに分けた。第一グループはMVDVaxで第0、12、23週に免疫し、もう一方のグループは空の麻疹ウイルスで23週に免疫を行った。動物は実験中いくつかの時点で、臨床症状、体重変化、体温、血球数、抗デングウイルス抗体価や中和抗体活性や末梢血リンパ球の中の抗デングウイルスあるいは抗麻疹特異的なT細胞の量を観察した。

一回目の免疫ですべてのサルは、デングの4つの血清型と麻疹ウイルスに対する抗体陽性となった。追加免疫のたびに抗体価は平均的に上昇し、最終的にすべてのサルで、4つのデング血清型に対する抗体と中和抗体が高力価となった。免疫期間中麻疹に対するT細胞応答が観察されたが、デングウイルスに対する反応はみられなかった。唯一NS抗原に対するT細胞反応が免疫群のチャレンジ感染後に見られたが、対照群では無反応であった。

1型デングウイルスのチャレンジ感染の際に血漿中のRNAウイルス量はqRT-PCRで測定し、また感染性はフォーカス形成試験で判定した。RNAウイルス量は、ワクチン群で一日遅れで上昇した以外に両群で全く差がみられなかった。しかし、感染後二日でウイルスがピークになる時点で免疫群では対照群に比べて感染性のウイルスが低いかあるいはまったく見られなくなった。もし確認できれば、この発見はMVDVaxによる免疫によって感染したサルがほかのサルへの伝播力を失ったことを示唆するものである。

もう一つの観察結果として重要なのは、ワクチンを施したサルのチャレンジ感染後にT細胞反応が認められたことである。このことは記憶T細胞が呼び覚まされたことを意味するが、この反応の機能的な役割については今後の課題である。

第2番目の目的のために、いくつかのワクチン製造ロットを用いてサンドイッチELISA法でEDIII抗原レベルを定量した。その結果非GMPレベルのMVDVax由来のEDIIIたんぱく量にはロット差がほとんどないことが分かった。このことから、この方法がGMPレベルでの品質検査に有用であることが分かった。質量分析装置によるEDIIIたんぱく質の検出も行った。この結果、1から3型は検出されたが4型については検出されなかった。しかしウェスタンブロッティングやELISA法では、ワクチン使用ロットの4型由来のEDIIIが検出されており、今後のさらなる解析が必要である。