Investment

プロジェクト

オンコセルカ症およびリンパ系フィラリア症に有効なフィラリア成虫駆虫薬コラロピロニン A (CorA)の前臨床開発
  • 受領年
    2023
  • 投資金額
    ¥904,017,487
  • 病気
    NTD (Lymphatic filariasis / Onchocerciasis)
  • 対象
    Drug
  • 開発段階
    Preclinical development
  • パートナー
    エーザイ株式会社 ,  ヘルムホルツ感染症研究センター(HZI) ,  ボン大学病院

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

顧みられない熱帯病であるオンコセルカ症とリンパ系フィラリア症は、サハラ以南のアフリカ、東南アジア、ラテンアメリカの一部で7,240万人の人々を苦しめています。これらの感染症の制圧・撲滅のために現在使用されている薬剤は、主にフィラリアの幼虫だけを殺虫します。成虫は数年間生存するため、毎年/隔年の治療が必要です。成虫を殺す薬剤があれば、現在も流行が続いている国々でも制圧を加速させることができ、再発を抑える手段にもなると考えられます。成虫を殺す最も安全な方法のひとつは、生育に不可欠なボルバキアと呼ばれる共生細菌を標的にすることです。ヒトに感染する数種の寄生虫に存在するこの細菌が死滅すると寄生虫は不妊化し、成虫はゆっくりと死に至ります。このことは、免疫系の過剰な活性化を避けるために重要です。ボルバキア菌駆除に有効な現在の抗生物質は、広範な使用には制限があるため、ボルバキア菌を殺す新薬が必要です。我々は、これらの疾患の治療薬として、リファンピシン耐性の細菌に対しても有効であり、高い安全性を示すコラロピロニンA(CorA)を開発しています。

 

2.プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、ヒト初回投与試験 (第1相試験)に向けて、最終の前臨床開発活動を通じてCorAの開発を進展させることです。

 

3.プロジェクト・デザイン

本目標達成のために、CorAに関する知見を積み、第1相試験で使用されるGMP原薬製造に向けた以下の研究を実施します。第1相試験の認可申請前に、新薬はイヌに対して安全であることを証明する必要があり、血漿中CorAレベルの測定を含む GLP 毒性試験を実施します。このデータを使用して、PK/PD モデルを改良し、第1相試験における最適なヒト用量と投与計画を決定します。我々の研究とイノベーションのパッケージにより、CorAの化学的性質をより深く理解できるため、CorAの生産性や安定性の改善が可能になります。GHITの資金提供により、血漿サンプルの生物分析に必要な高純度の標準物質を含む、第1相試験用のCorAも製造します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

顧みられない熱帯病である両疾患は、熱帯諸国における大きな負担となっています。WHOの顧みられない熱帯病ロードマップ20212030では、感染リスク人口は合わせて11億人、感染者数は7,240万人、障害調整生存年は290万年と記載されています。現在の集団薬剤投与(MDA)プログラムで使用される薬剤ではフィラリア成虫を駆虫できず、伝染を阻止するには何年も繰り返し投薬する必要があります。フィラリア成虫の必須共生細菌であるボルバキア菌を標的とすることにより、安全で効果的な殺成虫活性の達成が可能です。我々はドキシサイクリンがボルバキア菌を死滅させ、成虫を駆虫できることを実証しました。ドキシサイクリンは効果的ですが、4週間以上、毎日の投薬が必要であり、8歳未満の子供には禁忌であるため、MDAには推奨されません。これらの課題を克服する新規抗ボルバキア薬は、これらの疾患に苦しむ人々の健康に大きく貢献すると期待されます。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

CorAはボルバキア菌に対する新規抗生物質であり、我々は動物感染症モデルにおいて CorAが成虫を安全にゆっくりと殺虫することを示しました。CorAはリファンピシンと同じ分子を標的としてますが、その作用点は分子内の異なる位置にあるため、抗結核薬リファンピシンとの交差耐性はありません。従って、CorAは未診断の結核感染症が存在する地域でも、薬剤耐性を促進することなく使用できます。

各パートナーの役割と責任

ボン大学病院 (UKB)は研究代表機関としてプロジェクト全体を管理し、全パートナーおよびGHITと連携します。前臨床GLP安全性/毒性研究、感染モデル研究の後援、CorA固体状態安定性実験、pre-GMP CorAの製造調整、ドイツ規制当局BfArMとの正式な科学的助言のための文書作成を行います。UKBは両疾患の新規治療法の発見から前臨床、臨床/実地研究までの研究開発において20年以上の経験を持ちます。エーザイ株式会社は業界標準の前臨床開発の専門知識を提供します。CorAの化学合成法の研究は、CorAの生産を補完するために行います。非臨床CMCDMPK、安全性/毒性研究に関する専門家によるコンサルティングも提供し、規制および臨床戦略についてUKBと議論します。ヘルムホルツ感染症研究センター(HZI)は、CorA原薬の明確化、CorAの品質保証、酵母異種生産法の高度化等により、生産コスト低減を目指します。HZIは天然物の発見と開発では20年以上の産業的、学術的経験を持っています。

他(参考文献、引用文献など)

国連の持続可能な開発目標 https://sdgs.un.org/goals

顧みられない熱帯病に対するWHOのロードマップ2021~2030年

https://www.who.int/teams/control-of-neglected-tropical-diseases/ending-ntds-together-towards-2030

オンコセルカ症 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/onchocerciasis

リンパ系フィラリア症 https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/lymphatic-filariasis

 

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