Investment

プロジェクト

シャーガス病を対象とした新規化合物のリード最適化

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

世界保健機関(WHO)の推計によると、シャーガス病は世界中で600万人が罹患しているとされ、蔓延国である中南米21ヵ国のみならず、非蔓延国においてもグローバル化や人口移動により患者の増加が見られる、重要な公衆衛生上の課題です。死に至る可能性のある疾患ですが、限られた治療選択肢のいずれも課題を抱えています。標準治療薬であるベンズニダゾールやニフルチモックスは慢性期患者での有効性に課題があり、最大40%の患者が経験する深刻な副作用や禁忌による制約があります。ベンズニダゾールによる治療は60日間にも及び、服薬コンプライアンスも課題となっています。
GHIT Fundの支援により実施したHit-To-Leadの継続案件である本プロジェクトでは、シャーガス病を対象とした新規化合物のリード最適化に取り組みます。

 

2.プロジェクトの目的

本プロジェクトの2年間では、DNDiが定める前臨床候補化合物として必要なプロファイル(Target Candidate Profile: TCP)として、有効性及びin vitro安全性の基準を満たす最適化されたリード化合物の創出を目的とします。有効性の基準を満たした化合物について、更なる安全性評価や薬物代謝・薬物動態試験、CMCの基準を満たすための試験を実施します。T. cruzi活性を有する新規スピロ環化合物系統であるSpiro 5のリード最適化に取り組み、作用機序の解明も進めます。

 

3.プロジェクト・デザイン

DNDiおよび田辺三菱製薬株式会社(以下「MTPC」)の協働により、MTPCが所有する約5万の化合物の中からハイスループットスクリーニングにより特定したT. cruzi活性を有する有望な新規リード化合物群の最適化に取り組みます。確立された多様な創薬化学戦略に基づきリード化合物群の誘導体を作製し、in vitroでのT. cruzi活性の改善、および良好な薬物動態特性を維持しつつ安全性の懸念の軽減に取り組みます。またダンディー大学の専門家と共に作用機序の解明を進め、リード最適化の戦略に活かしていきます。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

シャーガス病は通常長い期間、無症状で進行します。血清学的検査での検出率は10%以下、しばしば1%以下であるとされ、多くの患者は感染に気付いていません。推定では感染者の7%しか診断されていないとされ、更に治療を受けるのはその中のごく僅かです。1,2 治療しなければ、心臓や消化管などに回復の難しい障害を引き起こす可能性があります。感染者の30-40%が慢性期に進み3、そのほとんどが心臓に損傷を受け、進行性の心不全や突然死に至る可能性があります。

現在の治療薬は40年以上前に発見されたもので、急性期では有効性を示すものの、長期投与が必要で、深刻な副作用を引き起こします。そのため慢性期シャーガス病患者を対象とした安全で有効な新規経口薬の開発を目指すとともに、急性期でも有効かつ妊婦でも投与可能な安全性を理想とします。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

有効な治療薬のない慢性期シャーガス病に対し、短期かつ経口投与が可能となる治療薬の提供に向けて、新規で適切な作用機序を持つ前臨床開発候補化合物を創出することを目的としています。GHIT Fundの支援により実施したスクリーニングおよびHit-to-Leadで特定した有望な新規スピロ環化合物系統であるSpiro 5は、DNDiが定めるリード化合物の基準を満たし、急性期および慢性期感染マウスモデルでの有効性実証にも成功しました。更に前臨床開発に進むにあたり最適ではない既知の作用機序(CYP51阻害、シトクロムbc1阻害、tRNA合成酵素阻害、プロテアソーム阻害等)ではないことも、これまでの分析により明らかになっています。

各パートナーの役割と責任

各組織の主な役割:
・プロジェクト管理と調整:DNDi(MTPCと連携)
・化合物デザインと合成:DNDiおよびMTPC(TCG Lifesciences社と連携)
In vitro/in vivo薬物代謝・薬物動態試験、安全性および毒性試験:DNDiおよびMTPC(TCG Lifesciences社と連携)
・PK/PD(薬物動態/薬力学)モデリング:DNDi(マヒドン・オックスフォード熱帯医学研究ユニットと連携)
In vitro/in vivo寄生虫検査試験:DNDi(in vitro: 韓国パスツール研究所、スイス熱帯・公衆衛生研究所、ダンディー大学と連携 / in vivo:ロンドン大学衛生熱帯医学大学院と連携)
・作用機序分析:DNDi(ダンディー大学と連携)

DNDiおよびMTPCは、スクリーニングカスケードに基づく化合物選択や最終的な前臨床候補化合物の選出を共同で行います。また、それに向けた化合物デザインや合成においても、各自の専門性を活かした協力関係のもとで実施します。

他(参考文献、引用文献など)

1. World Health Organization. Chagas Disease in Latin America: an epidemiological update based on 2010 estimates. WHO 2005.
2. Pan American Health Organization. Diagnosis and Treatment of Chagas Disease in 21 Endemic Countries: the Americas, 2010-2016. 2018.
3. Rassi AJr, Rassi A, Marin-Neto JA. Chagas disease. The Lancet. 2010; 375(9723): 1388–402.