Investment

プロジェクト

新規作用機序を有する抗マラリア化合物の前臨床開発

イントロダクション/背景

1.イントロダクション

マラリアは依然として大きな健康被害をもたらしています。2020年には約2.4億人が感染し、約63万人が死亡したと報告されていますが、その多くはアフリカで起きており、世界の人口の半数にあたる91カ国の人々がそのリスクにさらされています。既存の抗マラリア薬には、投与スケジュールや副作用、急拡大する薬剤耐性の課題があります。それゆえに、向上した性質、とりわけ薬剤耐性マラリアに有効な新規作用機序および単回投与による治療効果を有する新薬の創出が切望されています。

我々の共同研究グループでは、優先度の高い薬効標的である熱帯熱マラリア原虫フェニルアラニンtRNA合成酵素(PheRS)の阻害剤を世界に先駆けて開発し、新規作用機序と複数の原虫ステージへの効果、単回投与での治療効果を有する候補化合物を創出しました。さらに、構造生物学アプローチを導入することで次世代のPheRS阻害剤創出を目指しています。

 

2.プロジェクトの目的

本プロジェクトの目的は、安全性の向上および治療コストの低減が期待されている次世代PheRS阻害剤について、安全性および薬物動態、薬効プロファイルを明らかにすることです。

 

3.プロジェクト・デザイン

最近創出された有望な抗マラリア活性化合物を化学合成したうえで、in vivo動物モデルおよび探索的安全性試験、複数の動物種における薬物動態試験において評価し、前臨床開発候補化合物を選別します。

本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?

グローバルパブリックヘルスの分野ではマラリアによる死者を顕著に減少させてきましたが、蚊が媒介する病気には依然として年間2.4億人以上の人々が感染しています。2020年にはマラリアにより約63万人が死亡しており、その大半は5歳以下の子供達です。マラリアによる罹患率と死亡率を減少させて最終目標である根絶につなげるため、ベクター蚊のコントロール、有効なワクチン開発、新薬の創出など、多方面からの対策が求められています。第一選択薬への耐性拡大に対抗し、さらには単回投与での治療や複数の原虫ステージへの効果などマラリア制圧に有効な性質を有する新薬の創出が切望されています。我々のチームが創出した候補化合物は、単回投与での治療効果および複数ステージへの活性、良好な安全性プロファイル、適切なコスト等、求められる性質を有する次世代のPheRS阻害剤です。

本プロジェクトが革新的である点は何ですか?

本プロジェクトでは構造生物学に基づいたアプローチを活用し、優先度の高い標的であるPheRSに対する次世代の阻害剤を創出します。このアプローチは、PheRSに対する最初の阻害剤を創出した共同チームの成果に基づくものです。次世代阻害剤創出により、先行プロジェクトにおける優位点、すなわち新規作用機序および、複数の原虫ステージへの活性、単回投与による治療効果は維持しつつ、そのうえで安全性と治療コストについては改善することが期待されます。

本プロジェクトではさらに、一流の学術研究機関と大規模な製薬企業が新規抗マラリア薬創出に向けて長期的に協働することの相乗効果を具現化しています。

各パートナーの役割と責任

エーザイ株式会社およびスクリプス研究所、ニューデリーの遺伝子工学・バイオテクノロジー国際センターは、それぞれの強みと専門性を生かして密接に協働し、計画遂行を目指します。

エーザイは、主申請者として研究をリードし、プロジェクトマネジメントを含めたプログラム全体に責任を持ちます。研究においては化合物のスケールアップ合成およびin vivo薬効評価、探索的安全性試験、複数動物種での薬物動態試験、ヒトにおける投与量予測を担当します。さらに、中間体合成および化学合成におけるノウハウを提供します。

スクリプス研究所はプロジェクトマネジメントとプロジェクト推進に貢献し、化合物のスケールアップ合成の計画立案にも協力します。また、エーザイおよびCROと協力し、必要に応じてin vivo試験の契約に加わります。

他(参考文献、引用文献など)

Nature, doi:10.1038/nature19804