-
受領年2020
-
投資金額¥412,723,601病気Malaria対象Drug開発段階Lead Optimizationパートナーエーザイ株式会社 , スクリプス研究所 , International Centre for Genetic Engineering and Biotechnology , ブロード研究所過去の案件
イントロダクション/背景
イントロダクション
マラリアの治療および最終的な制圧は依然として困難な状況にあります。最も致死性の高い熱帯熱マラリア原虫に薬剤耐性が出現しているのが大きな理由です。それゆえに、既存の抗マラリア薬に対する耐性機構に影響されない新たなリード化合物の創出が必要です。さらに、マラリアの流行を防ぎ、脆弱な人々を守るためには予防薬と伝播を阻止する薬剤が必要ですが、現在の標準治療薬はマラリア原虫の生活環全体に対して有効性を持つものではありません。ブロード研究所はエーザイ株式会社(以下、エーザイ)と協力し、新規標的である熱帯熱マラリア原虫細胞質性フェニルアラニンtRNAシンセターゼ(PfcPheRS)に作用する一連の抗マラリア化合物を見出しました (Nature, doi:10.1038/nature19804)。特徴的な二環性のアゼチジン構造を有するこれらの化合物は、熱帯熱マラリア原虫の血液、肝臓および伝播段階の全てに対してin vitroとin vivoの両方で良好な薬効を示します。
プロジェクトの目的
本プロジェクトでは、標的タンパク質の構造情報を活用して、高い活性および安全性を有し、低コストの治療が期待できる次世代抗マラリア薬 を創出することを目的としています。
プロジェクト・デザイン
構造生物学と計算化学を組み合わせることにより新たな化合物をデザインし、これらの化合物を化学合成してin vitroおよびin vivoの評価を行います。有望化合物についてin vivoで安全性試験を実施し、最終的に前臨床開発候補化合物を見出すことを計画しています。
本プロジェクトによって、グローバルヘルスの課題はどのように解決されますか?
世界におけるマラリアの死亡率は著しい減少を遂げているものの、今なお年間2億2800万人を超える人々がマラリアに感染しています。2018年には、約40万5000人がマラリアにより死亡し、その大部分は5歳未満の子供でした。マラリアの罹患率および死亡率をさらに低下させるためには、媒介蚊の防除、有効なワクチンに加え、薬剤耐性マラリア原虫および感染段階や伝播段階、休眠段階の原虫に効果のある薬剤が必要です。Medicines for Malaria Venture (MMV)は、マラリア治療のための単回投与根治および予防法(SERCaP)の開発を提言しています。SERCaP実現のための製品プロファイルでは、血中からの急速な原虫消失、伝播阻止活性および抗休眠体活性を示すことが求められます。今回のプロジェクトで創出される化合物が、MMVの定める候補化合物プロファイルのうち少なくとも一つの要件を満たすことにより、患者様に大きな有用性を提供するできることを期待しています。
本プロジェクトが革新的である点は何ですか?
マラリアの効果的な制圧は、主にマラリア原虫の複雑な生活環と、ヒトにとって最も致死的なマラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫での薬剤耐性の出現のために、達成できていません。現在の抗マラリア薬の多くは、マラリア原虫の血中段階を標的としており、そこではマラリア原虫は赤血球内に寄生し、複製します。たとえ、肝臓期や伝播段階のマラリア原虫がマラリアの症状を引き起こさないとしても、予防と伝播阻止薬は、病気の流行の防止と脆弱な人々を感染から守るために必要です。残念ながら、現在の抗マラリア薬は、マラリア原虫の全生活環を標的とするために必要な要件すべてを満たしていません。我々のユニークな二環性アゼチジン系は、新しい作用機序(PfcPheRS阻害)を有し、血液、肝臓および伝播段階の熱帯熱マラリア原虫に対して、in vitroおよびin vivoの両方で強力な活性を示しています。
各パートナーの役割と責任
ブロード研究所およびエーザイ、スクリプス研究所、International Centre for Genetic Engineering and Biotechnology(ICGEB)New Delhiは、各組織の有する機能と専門性を生かして緊密に協働し、計画を遂行します。
ブロード研究所は、プロジェクトの代表者としてプロジェクトの進捗管理と助成金の運用管理を行います。また、必要に応じてin vitro毒性評価およびin vivo薬効評価を実施します。
エーザイは、合成中間体の供給や合成ルートなどの化学的知見の提供、構造生物学、新規類縁体の計算化学に よる解析およびデザインに貢献します。さらに、薬物動態および安全性試験についても担当します。
スクリプス研究所は、類縁体のデザインと低分子化合物の合成計画策定に貢献します。また、必要に応じてin vitro活性評価およびin vivo薬効評価を実施します。
ICGEB New Delhiは、標的酵素を用いた結合アッセイおよび結晶解析に向けて、リコンビナント酵素の生産を担当します。
他(参考文献、引用文献など)
Nature,doi:10.1038/nature19804
最終報告書
1.プロジェクトの目的
マラリアの治療および根絶には、既存薬への耐性に影響を受けず、さらには予防や伝播阻止効果を併せ持つ薬剤が求められています。本プロジェクトでは、これらの要求に応えられる可能性のある、新たなマラリア原虫フェニルアラニンtRNA合成酵素(PfcPheRS)阻害剤の創出を目指しました。
2.プロジェクト・デザイン
我々は以前に、マラリア原虫のcPheRSと二環式アゼチジン化合物の共結晶構造を報告しました。本プロジェクトでは、共結晶構造を用いた計算化学によって新たな阻害剤を設計し、合成して評価することで、標的阻害活性および抗原虫活性、良好な薬物動態を示す化合物を創出し、in vivo薬効試験に供しました。
3.プロジェクトの結果及び考察
最初に、計算科学によるスクリーニング結果と合成可能性の評価に基づいて、複数の化合物群を選別しました。合成可能性の評価には短い合成シーケンスで各々の化合物群に到達するための機能が含まれています。この機能により仮想スクリーニングヒット化合物を実際に合成し、類縁化合物の創出を加速することが容易になりました。選択された化合物群の約半数が、in vitroでµMオーダーの抗原虫活性およびPfcPheRS への結合と阻害活性を示す一方でヒト細胞に対する作用は低いものでした。さらに、マラリア原虫の複数の生活環に対する効果を示した複数の化合物群を得ました。これらの結果は創薬仮説を裏付け、我々はさらなる最適化を進めました。構造活性相関研究を実施し、向上した薬効とin vitro薬物動態プロファイルを持つ最適化された類縁体化合物を特定しました。化合物構造の体系的な改変により、原虫酵素に対するさらに高い選択性とnMオーダーの活性を示す阻害剤が得られました。その後、マウスを用いた薬物動態および忍容性の研究により化合物を選別し、最終的に、マウス感染モデルによりマラリア原虫の体内感染量を明らかに減少させるリード化合物群を特定しました。これらの化合物は、本プログラムの次のフェーズにおいてさらに開発を進める予定です。
Investment
プロジェクト
新規作用機序により複数の原虫生活環へ効果を示す抗マラリア薬の構造生物学的アプローチによる創出




